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オタク、刀に狂う  作者: Asansol ackey
間章(1ー2)
40/94

間章-8:開けられない扉

ブラジリア、大統領府。


大統領・**エドゥアルド・アルヴェス**は、窓の外から聞こえる音に、しばらく耳を傾けていた。


シュプレヒコール。


遠くから響く、群衆の声。


「......状況は」


「サンパウロ、リオ、両方でデモが拡大しています」


治安担当大臣が、緊張した声で報告する。


「要求は」


「『ダンジョンを開放しろ』、それに尽きます」


アルヴェスは、目を閉じた。


この国が抱える問題は、単純ではない。


貧困。


格差。


仕事を求める、あまりに多くの人々。


そこに現れた、未知の構造物という存在は、多くの国民にとって、希望に見えているらしかった。


「日本や、他の国のニュースが広まるたびに、状況が悪化しています」


「......分かっている」


『あの国では、普通の人間が資格を取って、素材を得て、生活を変えている』


そういう情報が、SNSを通じて瞬く間に広がっていた。


真実の一部ではある。


だが、全てではない。


「大統領、率直に申し上げます」


治安担当大臣が続ける。


「現状、我が国には、安全な一般開放を行うだけの体制がありません」


「分かっている」


「調査班の人員も、予算も、圧倒的に不足しています。今、無理に開放すれば――」


「暴動が、さらに悪化するだけだ」


アルヴェスは、静かに言葉を継いだ。


治安の悪化した地域への立ち入りを、統制なく許可すればどうなるか。


武装した集団が、素材や利権を巡って争う未来は、容易に想像がついた。


「今、開けるわけにはいかん」


その一言は、簡単なようでいて、重かった。


国民が求めているものを、拒む決断だった。


「ですが、それをどう説明すれば」


「正直に言うしかない」


アルヴェスは、立ち上がった。


「治安を回復させることが、最優先だ。生活を安定させることが、最優先だ。安全でない状態で門を開けても、誰も幸せにならない」


「国民の反発は、避けられません」


「分かっている。それでも、だ」


アルヴェスは、窓の外を見た。


遠くに、デモ隊の掲げるプラカードが見える。


「日本や、他の国々の動きは、引き続き注視する。学べるところは、必ずある」


「では」


「今は、この国の足元を固める。それが、我々にできる、唯一の誠実な選択だ」


声には、悔しさが滲んでいた。


誰よりも、この国の人々の期待を分かっている。


だからこそ、拙速な開放が、さらなる悲劇を招くことも、分かっていた。


「治安部隊の増員を急げ。それと」


「はい」


「経済対策チームを招集しろ。ダンジョンに頼らずとも、希望を示せる道を、並行して探す」


簡単な道ではない。


だが、それ以外に、この国が今すぐ選べる道はなかった。


窓の外、群衆の声は、まだ止んでいなかった。


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