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オタク、刀に狂う  作者: Asansol ackey
間章(1ー2)
39/83

間章-7:それぞれの事情

ローマ、キージ宮。


首相・**ロレンツォ・ヴィスコンティ**は、報告書を前に、深いため息をついた。


「日本の話は、素晴らしいと思う。心から」


「はい」


「だが、我が国で同じことをするには、いくつも壁がある」


まず、政権基盤の問題があった。


連立与党は、常に不安定。


この一年で、既に二度、内閣改造を経験している。


「大規模な制度改革を進めるには、まず政権が安定していなければならん」


「それは、痛いところですね」


「痛いどころではない。骨身に染みている」


ヴィスコンティは、苦笑した。


「それに」


「はい」


「我が国は、南北で事情が違いすぎる」


資料には、国内で確認された歪みの位置が記されている。


北部の工業地帯と、南部の田園地帯とでは、対応にかけられる予算も人員も、大きく異なっていた。


「全国一律の制度を、拙速に敷くのは危険だ」


「では、日本のような迅速な対応は」


「難しいだろうな。だが」


ヴィスコンティは、資料の別のページを開いた。


「我が国には、我が国の強みがある」


「職人文化、ですか」


「その通りだ」


イタリアには、代々受け継がれてきた工芸の伝統がある。


皮革、ガラス細工、刃物。


地域ごとに根付いた、熟練の技術者たち。


「もし将来、素材の活用という段階に進むなら、我が国の職人たちの技術は、必ず力になる」


「日本の刀鍛冶のような存在、ということですね」


「そうだ。派手さはなくとも、我々には積み重ねてきたものがある」


ヴィスコンティは、少しだけ表情を和らげた。


「焦らず、地に足をつけて進めよう。まずは、国内の連携から立て直す」


「政権の安定が、先決ということですね」


「耳が痛いが、その通りだ」


彼は、椅子の背にもたれた。


「日本や、アメリカや、韓国の動きは、注意深く見ておけ。学べるところは学ぶ」


「かしこまりました」


「それと」


「はい」


「南部の職人たちにも、それとなく話を通しておいてくれ。いずれ、彼らの出番が来るかもしれん」


窓の外、夕暮れのローマの街並みが広がっていた。


急いてはいない。


だが、この国なりの準備は、静かに始まっていた。


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