間章-6:独自の道
パリ、エリゼ宮。
大統領・**フィリップ・ロシュフォール**は、報告書を読みながら、ワイングラスには手をつけずにいた。
珍しいことだった。
「日本の制度、率直な感想は」
「見事、の一言です」
文化担当大臣が答える。
「特に、創作という文化を、国家の危機管理に正面から組み込んだ発想力には、脱帽するほかありません」
「わしも同感だ」
ロシュフォールは頷く。
「だが」
「だが?」
「同じことを、そのまま真似るのは、我が国の流儀ではない」
ロシュフォールは、机の上に、別の資料を広げた。
ジュール・ヴェルヌ。
中世の騎士道物語。
フランスにも、未知への想像力を積み重ねてきた、長い文学の歴史がある。
「日本は、現代のライトノベルやゲームといった文化から知見を集めた。それは、あの国の強みだ」
「我が国は、違う形で?」
「我々には、我々の物語の蓄積がある。SF文学、哲学、そして芸術。想像力の形は、一つではない」
ロシュフォールは、少し得意げに言った。
「猿真似ではなく、フランスならではの視座で、この危機に向き合う」
「具体的には」
「文学者、哲学者、そして映画製作者を招集する。日本とは違う切り口で、危険と可能性を再検討させる」
プライドと、確かな文化的自負。
それが、この国の意思決定の根底にあった。
「制度設計そのものは、ある程度、日本を参考にせざるを得ないでしょうが」
「それは構わん。優れたものを取り入れることに、恥じることはない」
ロシュフォールは、ようやくワインに口をつけた。
「ただし、我が国の色を、必ず出す」
「承知しました」
「あと、労働組合との協議も忘れるな」
「......探索者の労働条件について、ですか」
「当然だろう。危険な仕事だ。適正な保障がなければ、誰も進んで潜ろうとはせん」
いかにも、この国らしい視点だった。
安全性の議論だけでなく、労働者としての権利をどう保証するか。
そこにまで、真剣な議論が及んでいる。
「発表の時期は」
「急がん」
ロシュフォールは、はっきりと言った。
「良いものを作るには、時間がかかる。それは、恥ではない」
窓の外、セーヌ川の夜景が広がっている。
「我々は我々のやり方で、この新しい時代に向き合う」
その言葉には、静かな誇りが滲んでいた。




