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オタク、刀に狂う  作者: Asansol ackey
間章(1ー2)
37/88

間章-5:慎重なる検討

ベルリン、首相府。


首相・**アンネグレート・フォス**は、連立与党との調整会議を終えたばかりだった。


テーブルには、分厚いファイルが積まれている。


「日本の制度、法的な観点からの分析は終わったか」


「はい」


法務担当の官僚が答える。


「率直に申し上げて、非常に精緻です。特に、資格制度と素材管理の切り分け方は、我が国の行政システムとも親和性が高いかと」


「では、導入は容易か」


「いえ、そう単純ではありません」


官僚は、慎重に言葉を選ぶ。


「我が国では、新たな資格制度の創設には、連邦と州、双方の合意形成が必要です。加えて、武器携行の特例については、憲法上の議論を避けて通れません」


フォスは、こめかみを押さえた。


この国の意思決定の遅さは、時に美点であり、時に致命的な弱点になる。


「議会での反応は」


「賛否両論です」


「予想通りだな」


実際、野党の一部からは、既に批判が出始めている。


『税金を使って、なぜファンタジー作家を国家会議に招くのか』


という、直截な言葉で。


「大臣」


別の官僚が発言する。


「しかし、日本の制度が機能している以上、無視できる話ではありません」


「分かっている」


フォスは頷いた。


「無視するつもりはない。ただ、拙速に導入して、後で法的な穴が見つかるようでは意味がない」


この国の哲学は、明確だった。


完璧な法整備の上に、初めて実行に移す。


「専門家委員会を設置する。法学者、工学者、そして――」


フォスは、一瞬だけ躊躇った。


「創作分野の専門家も、正式に招く」


「よろしいのですか。議会での反発が」


「日本が示した通り、彼らの知見は無視できないものだ。批判を恐れて、必要な検討を怠るわけにはいかん」


フォスの声には、迷いのない芯があった。


この国は、感情で動かない。


だが、一度データと論理で正しいと判断すれば、迷わずそちらへ舵を切る。


「委員会の設置期間は」


「半年」


「半年、ですか」


「日本より遅れることは、承知している。だが、我が国は、我が国のやり方で、確実な制度を作る」


フォスは、窓の外を見た。


ベルリンの空は、灰色に曇っている。


「拙速は敵だ。だが、怠慢もまた、敵だ」


その両方を避けながら進む道は、決して平坦ではない。


それでも、フォスは、迷わず一歩を踏み出した。


「会議を続ける」


その声に、疲れの色はあっても、迷いはなかった。


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