間章-3:隣国の背中を追って
ソウル、大統領府。
大統領・**尹 秀賢**は、報告書を読みながら、何度も頷いていた。
「日本の探索者制度、想像以上に完成度が高いですね」
科学技術担当の秘書官が言う。
「だろうな」
尹は、資料の写真――五段階のバッジデザインまで見て、思わず苦笑した。
「あの国は、こういう時の本気の出し方が違う」
「羨ましい、という声も国内で上がっています」
「羨ましいだけでは終わらせん」
尹は、資料を机に置いた。
「我が国の強みは何だ」
「......コンテンツ産業、でしょうか」
「そうだ」
尹は身を乗り出す。
「ウェブトゥーン。オンラインゲーム。この国は、世界のどこよりも早く、その辺の想像力を産業として育ててきた」
「日本の招集した専門家たちとは、少し畑が違いますが」
「畑が違うからこそ、いい」
尹は、資料に付箋を貼っていく。
「ウェブトゥーン作家、MMORPGの運営経験者、e スポーツの大会設計者。彼らを、正式に招集する」
「実現すれば、日本とは違う切り口の制度になりますね」
「隣に、あれだけの前例がある。ゼロから考える必要すらない」
尹の声には、焦りと同時に、確かな勝算があった。
「日本の制度を分析しろ。真似るところは真似て、我が国らしくアレンジできるところはアレンジする」
「かしこまりました」
「それと、もう一つ」
「はい」
「発表は、なるべく早く行う。国民の期待も、限界に近い」
実際、ここ数週間、国内の世論は沸騰していた。
日本の若者たちが探索者として活躍する映像がSNSで拡散されるたび、「なぜウチはまだなのか」という声が強まっている。
「大統領、拙速な発表はリスクも」
「分かっている。だが、隣国が示してくれた道標がある以上、我々が同じだけ慎重である必要はない」
尹は、窓の外、漢江の景色を見る。
「隣に、いい先生がいる。それを活かさない手はない」
その言葉には、対抗心と、ある種の敬意が入り混じっていた。
「制度の詳細案、二週間で用意しろ」
「二週間、ですか」
「日本に負けていられん」
尹は、小さく笑った。
「それに――」
「?」
「あちらの総理、なかなか面白い決断をする人物のようだ。一度、直接話してみたいものだな」
その願いが叶うのは、思ったよりずっと早いことになる。
だが、それはまた別の話だった。




