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オタク、刀に狂う  作者: Asansol ackey
間章(1ー2)
34/83

間章-2:イギリスの選択

ロンドン、ダウニング街十番地。


首相・**エドワード・ハーコート**は、紅茶を一口飲んでから、資料を閉じた。


「日本の件、閣議でも話題になっていますな」


内務大臣が言う。


「そうだろうな」


ハーコートは、窓の外を見た。


テムズ川。


いつもと変わらぬ、灰色の空。


「率直な感想を聞かせてくれ」


「......羨ましい、というのが正直なところです」


「わしもだ」


ハーコートは、小さく笑った。


「我が国にも、伝説はある。アーサー王。円卓の騎士。何百年も語り継いできた物語が」


「はい」


「なのに、いざという時、そこから知恵を借りようという発想が、誰からも出てこなかった」


悔しさが、声ににじむ。


「日本という国は、時に不思議な決断をする。だが、今回のこれは、不思議ではなく、極めて理にかなっている」


「では、我が国も同様の措置を?」


「いや」


ハーコートは、少し考えてから答えた。


「同じことをしても、二番煎じにしかならん」


「と、申しますと」


「日本のやり方を、そのまま真似るのではなく、学ぶ。我が国には我が国の事情がある。議会の伝統。慣習法の積み重ね。同じ制度を移植しても、うまく馴染むとは限らん」


このあたりの慎重さが、ハーコートの真骨頂だった。


「まずは、視察団を送る」


「日本へ、ですか」


「向こうの制度を、直接この目で確かめたい。それから、我が国独自の枠組みを考える」


「創作関係者の招聘については」


「検討する余地はある」


ハーコートは、机の上の一冊の本を、そっと指でなぞった。


若い頃から愛読してきた、ファンタジー小説の古典だった。


誰にも言ったことはないが、実はこの手の物語には、そこそこ詳しい自信がある。


「......ふむ」


「首相?」


「いや、独り言だ」


表情を戻す。


紳士たるもの、私情を公務に持ち込むべきではない。


だが。


(もし招集がかかったら、真っ先に手を挙げたい候補が、何人か頭に浮かぶな)


もちろん、それも胸の内だけの話だった。


「一般開放の時期については」


「まだ答えは出せん」


ハーコートは、はっきりと言った。


「拙速は、危険を生む。じっくりと、しかし確実に進める。それが、この国のやり方だ」


「承知しました」


窓の外、雨が降り始めていた。


ハーコートは、傘も差さずに歩く歩行者の姿を見ながら、小さく呟いた。


「......紳士的に、しかし着実に、な」


その言葉通り、イギリスの歩みは、静かに、しかし確実に動き出していた。


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