間章-1:アメリカ、動く
ホワイトハウス、状況分析室。
大統領・**マーカス・ウェイン**は、モニターに映る映像を、もう二十回は見ていた。
東京の会見。
九条という日本の総理大臣が、探索者たちの列を見送る映像。
「......で?」
ウェインは、集まった閣僚たちを見回した。
「我々は、いつまで見ているだけなんだ?」
「大統領」
国防長官が口を開く。
「現在、各州の国家警備隊による封鎖を継続中です。民間開放については、まだ議会の合意が――」
「議会はいつだって合意しない」
ウェインは資料を叩いた。
「日本を見ろ。政府がやると決めて、専門家を集めて、制度を作って、もう一般人が潜ってる。何ヶ月かかった?」
「......数ヶ月です」
「うちは何ヶ月同じ場所で足踏みしてる?」
誰も答えなかった。
答えられなかった。
「州兵を並べてるだけの国が、いつまでも先進国面していられると思うな」
ウェインは、テーブルに広げられた資料を見る。
日本の資格制度の翻訳版。
五段階のランク。
安全講習の内容。
素材管理のガイドライン。
どれも、驚くほど整理されている。
「これを、参考にする」
「大統領、独自の制度設計をすべきでは」
「ゼロから作る時間があるか? ないだろ」
ウェインは立ち上がった。
「いいか。プライドは大事だ。だが、今優先すべきは国民の安全と、機会だ」
国民の中には、既に痺れを切らしている層がいる。
封鎖線の外で、探索を許可しろとデモをする者。
民間軍事会社が、勝手に調査を試みて拘束される事件も起きていた。
これ以上、時間をかける余裕はない。
「国防総省、日本の制度を分析し、我が国向けに調整した案を一週間以内に出せ」
「一週間ですか」
「一週間だ」
もう一つ、ウェインには考えがあった。
「それと」
「はい」
「作家やゲーム会社にも声をかけろ。日本がやったのと同じことを」
「......創作関係者、ですか」
「馬鹿にするな。うちにはハリウッドがある。SF作家がいる。ゲーム産業だって世界一だ」
ウェインは、少しだけ口の端を上げた。
「我が国の"想像力"を、なめてもらっちゃ困る」
閣僚たちが顔を見合わせる。
半信半疑の空気の中、しかし誰も反対はしなかった。
「大統領」
補佐官が、遠慮がちに手を挙げる。
「近接武器の携行についても、日本は特例を設けたようですが」
「銃社会のこの国で、剣を持ち歩く許可を出せと?」
ウェインは、少し考えてから答えた。
「専門家の意見を聞く。もし本当に必要なら、検討する。ただし――」
「ただし?」
「乱射事件より厄介な問題を増やすつもりはない。慎重にやれ」
現実的な判断だった。
派手さより、実効性。
それが、この国のやり方だ。
「会議を終える」
ウェインは、モニターの中の日本の映像を、もう一度見つめた。
(先を越されたな)
悔しさより、闘志の方が強かった。
「......追いつくぞ、日本」
誰にともなく呟いて、部屋を後にした。




