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オタク、刀に狂う  作者: Asansol ackey
第一章:ダンジョンについての有識者会議
31/94

1-31:試験当日

会場に着いた瞬間、思わず足が止まった。


人が、多い。


想像していたよりずっと。


体育館ほどの広さの施設に、長い行列ができている。


スーツ姿の会社員。


自分と同じくらいの学生。


筋骨隆々の男。


小柄な女性。


年齢も体格もバラバラな人々が、同じ目的でここに集まっていた。


「......こんなに受けるのか。」


思わず呟く。


全国十二会場、合計でどれくらいの受験者数になるのか、想像もつかない。


「錬司」


声をかけられて振り向くと、佐伯が受付列の少し先にいた。


「師匠、早いですね」


「年寄りは朝が早いんじゃ」


軽口を叩き合いながら、受付を済ませる。


番号札を受け取り、会場内へ。


「では、これより筆記試験を開始します」


スピーカーから、淡々とした声が響く。


問題用紙が配られる。


内容は、事前に配布された講習資料の範囲そのものだった。


危険察知の基本。


撤退の判断基準。


装備点検の手順。


素材の分類と取り扱い。


どれも、この一ヶ月、何度も読み込んだ内容だ。


ペンを走らせる手が、驚くほどスムーズに動いた。


......正直、簡単すぎるくらいだった。


いや、簡単というより。


この一ヶ月間、必要以上に真剣にやり込みすぎただけかもしれない。


筆記試験が終わり、休憩を挟んで体力試験へ移る。


「持久走、腕立て、懸垂、荷物運搬。基準はそこまで厳しくありません」


試験官が説明する。


「ただし、本番の探索では、これ以上の体力が確実に求められます。ここで基準を満たせない方は、率直に申し上げて危険です」


厳しい言葉だったが、誰も文句は言わなかった。


むしろ、その通りだと思う。


自分の順番が来る。


持久走。


あの坂道を何十往復もさせられた日々が、脳裏をよぎる。


「......師匠のおかげだな。」


思ったより、楽に走り切れた。


腕立て、懸垂も同様。


毎週の鍛冶場での作業と、佐伯直伝の地獄トレーニングが、ちゃんと体を作っていた。


荷物運搬では、想定重量の砂袋を担いで一定距離を歩く。


これも、素材を運ぶ想定なのだろう。


鎚を振り続けた腕が、その重みにしっかりと応えてくれた。


「神崎さん、良好なタイムです」


試験官の一言に、思わず力が抜けた。


安堵とも、達成感ともつかない感覚。


最後は、実技講習の理解度確認。


簡易的な模擬訓練施設で、危険察知と撤退判断のシミュレーションを行う。


「模擬個体が接近してきます。どう対応しますか」


試験官の問いに、迷わず答える。


「威嚇の有無を確認し、なければ距離を保ちながら後退します」


「理由は」


「刺激しないことが最優先です。戦闘は最終手段であって、目的ではありません」


試験官が、資料に何かを書き込む。


表情からは、何も読み取れない。


でも、答えには自信があった。


黒沢や南が作った資料を、何度も読み返した甲斐があった。


全ての工程が終わり、会場を出る頃には、日が傾き始めていた。


「疲れたか」


「疲れました。」


「じゃろうな」


佐伯と並んで歩く。


「師匠は、どうでした?」


「まぁ、なんとかなったろう」


「余裕そうですね」


「年の功じゃ」


軽口を叩きながらも、内心は落ち着かなかった。


結果は、後日通知。


それまでは、ただ待つしかない。


一週間後。


スマホに一通のメールが届いた。


差出人、探索者資格管理事務局。


開くのに、少し勇気が要った。


深呼吸を一回。


タップする。


**神崎錬司様**


**探索者資格試験(第五級)に合格されたことをお知らせいたします。**


息を、大きく吸い込んだ。


「......合格した。」


声が、震えた。


子供の頃から見てきた夢が、また一つ、現実に近づいた瞬間だった。


すぐに、佐伯へメッセージを送る。


『合格しました!』


既読がつくのは早かった。


『わしもじゃ』


『これで、堂々と潜れるな』


画面を見つめながら、思わず笑みがこぼれる。


窓の外を見る。


空は、まだ明るい。


一般開放まで、あと数日。


あの門の向こうに、初めて自分の足で立つ日が、もうすぐそこまで来ていた。


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