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オタク、刀に狂う  作者: Asansol ackey
第一章:ダンジョンについての有識者会議
29/88

1-29:一ヶ月前

**【速報】政府、ダンジョンの一般開放を一ヶ月後に実施すると発表**


そのニュースを見た瞬間、俺は学食のカレーを吹き出しそうになった。


「......本当に来るのか。」


箸を止めたまま、画面を二度見する。


探索者試験の申込受付、来週開始。


合格発表を経て、正式に一般開放。


もう、噂でも予定でもない。


日付が決まった、確定事項だった。


「錬司、顔やば。」


「やばいのはお前の方がやばい話聞いてない事実だぞ。」


「見てるよ、ニュースくらい。」


友人が肩をすくめる。


「で、お前は受けるんだろ、試験。」


「受ける。」


即答した。


その日から、生活が一変した。


いや、正確には、ただでさえ変わっていた生活が、さらに輪をかけて忙しくなった。


平日は大学と、隙間時間の筆記対策。


週末は関市の工房で、体力づくりと実技の練習。


「体力試験、なめとったら死ぬぞ」


佐伯が容赦なく言う。


「学生の体力なんぞ、たかが知れとる」


「......それ、師匠に言われると説得力すごいですね」


「わしは毎日鎚を振っとるからな。年寄りをなめるなよ」


鍛冶場の裏の坂道を、何往復も走らされた。


筋肉痛で槌が持てなくなった日もあった。


それでも、不思議と辛くはなかった。


むしろ、楽しかった。


夜、大学の寮に戻ってからは、参考書代わりに配布された講習資料を読み込む。


危険察知の基本。


撤退の判断基準。


装備の点検方法。


黒沢玲や南一颯が監修したという資料は、驚くほど分かりやすかった。


「これ、書いてる人たち絶対ゲームやってた人だろ......」


思わず独り言が漏れる。


例え話が、いちいち腑に落ちる。


「HPの概念で考えると分かりやすいんですが」なんて、公的な資料に堂々と書いてある。


国もついに吹っ切れたらしい。


休憩中、江藤からも連絡が来た。


『試験、受けるんですね』


『応援しています』


『素材、無理はしないでくださいね』


律儀な人だ。


あの人がくれた鉱石が、ここまで自分を動かしてくれた。


感謝してもしきれない。


『ありがとうございます』


『ちゃんと合格して、直接お礼言いに行きます』


既読がついて、すぐに絵文字だけの返信が来た。


笑ってしまった。


真面目な研究者にも、こういう一面があるらしい。


工房に戻ると、佐伯が新しい炭を積んでいた。


「錬司」


「はい」


「試験受かったら、一緒に潜る約束、忘れとらんよな」


「忘れるわけないですよ」


「なら、体、しっかり作っとけ。刀を打つ腕も、素材を運ぶ体も、両方要る」


「はい」


工房の隅、棚に並んだ二つの容器を見る。


青い結晶と、黒紫の欠片。


まだほんの少ししか残っていない。


でも、それでいい。


これは、まだ序章だ。


試験に合格して。


資格を取って。


自分の足で、あの門の奥へ行く。


もっと大きな鉱石を。


もっとたくさんの素材を。


自分の手で、確かめに行く。


「......よし。」


小さく気合を入れて、槌を握り直す。


窓の外、日が暮れていく。


カラン、と乾いた音が、鍛冶場に響いた。


残り、一ヶ月。


長いようで、短い。


でも、今の自分になら。


きっと、間に合う。


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