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オタク、刀に狂う  作者: Asansol ackey
第一章:ダンジョンについての有識者会議
28/88

1-28:開放日、決定

「試験制度の詳細が、ようやく固まりました」


分科会の会議室。


資料を配りながら、司会役の職員が言った。


「第五級試験は、全国十二箇所の会場で実施予定です」


九条恒一は、資料をめくりながら耳を傾ける。


「内容は、筆記試験、体力試験、そして実技講習の受講確認。合格率は、意図的に厳しくは設定していません」


「理由は」


「はい」


東雲環が答える。


「最初の関門を厳しくしすぎると、真面目にやりたい人まで弾いてしまいます。危険なのはむしろ、資格を持たずに無茶をする人間です。だから、最初のハードルは低く、その代わり上位級への昇格を厳格にする」


「なるほど」


九条は頷いた。


この四人と議論を重ねるうちに、いつしかそういう設計思想が、会議の共通認識になっていた。


「安全講習の内容についても、既にたたき台ができています」


黒沢玲が資料を示す。


「基本の生存戦略、危険察知、撤退の判断基準。これは、わしらが長年ゲームやTRPGで培ってきたノウハウをそのまま転用しています」


「転用、というと」


「プレイヤーがいかに死なずに冒険を続けるか。その知見の蓄積です」


真面目な顔で言われると、妙な説得力があった。


「素材買取のガイドラインも完成しています」


南一颯が続ける。


「等級ごとの基準価格、譲渡申請フォーム、審査基準。これで、職人や研究機関への譲渡もスムーズに動きます」


九条の脳裏に、また一瞬あの名前がよぎった。


(神崎、じゃったな)


資料の隅で、何度か目にしている名前だ。


どうやら、あの江藤という研究者から素材を分けてもらった学生らしい、という話も小耳に挟んでいる。


だが、それ以上は特に気にしていない。


今は、もっと大きな話をしなければならない。


「配信規則の運用方針も含め、これで一通りの制度が揃いました」


九十九蒼が、少し感慨深そうに言った。


「本当に、ここまで来たんですね」


「皆様のおかげです」


九条は、素直にそう言った。


誰か一人でも欠けていたら、ここまでのスピードでは進まなかった。


それは、間違いない。


「総理」


防衛省の担当者が立ち上がる。


「これまでの調査結果を踏まえ、内部の安全性についても、一定の見通しが立っています」


「危険度は」


「限定的な区域であれば、資格を持った民間人の立ち入りに耐えうる、という結論です」


会議室の空気が、静かに引き締まった。


「つまり」


「はい」


「一般開放の準備が、整った、ということだな」


「そのように判断します」


九条は、しばらく資料を見つめたまま黙っていた。


長かった。


いや、振り返れば、驚くほど早かったとも言える。


空間の歪みが現れてから、まだそれほど時間は経っていない。


それでも、ここまで来た。


「日程については」


「事務局案では、一ヶ月後を目処に、と考えております」


九条は、資料に目を落としたまま、小さく頷いた。


「よし」


短く答える。


「一ヶ月後、正式に発表する。国民に向けて」


「かしこまりました」


会議室に、緊張と高揚が入り混じった空気が広がる。


誰も彼も、ここまで来たことへの実感を、噛み締めているようだった。


会議が終わり、九条は一人、廊下を歩いた。


窓の外、あの門の方角を見る。


(一般開放、か)


初めてあの映像を見た日を思い出す。


石造りの門。


誰も何も分からなかった、あの日。


あれから、こんなに遠くまで来た。


そして、これからは。


自分たちだけでなく、あの門の向こうへ、普通の人々が足を踏み入れる時代が始まる。


スマホを取り出し、孫にメッセージを送る。


『一ヶ月後、一般開放を発表することになった』


すぐに返信が届く。


『マジで!?』


『じいちゃんすごすぎ』


九条は、微笑みながらスマホをしまった。


まだ、何も終わっていない。


むしろ、ここからが。


本当の始まりだった。


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