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オタク、刀に狂う  作者: Asansol ackey
第一章:ダンジョンについての有識者会議
27/88

1-27:探索者になろうと思う

週末は、ほぼ関市で過ごすようになっていた。


金曜の夜行バスで向かい、土日は工房。


日曜の終電で帰って、月曜からまた大学。


「お前、生活リズムどうなってんの」


「刀中心。」


「答えになってねぇ。」


友人には毎回呆れられているが、こっちは大真面目だ。


むしろ、今が人生で一番充実している。


「見ろ、これ。」


スマホの写真を見せる。


不格好な、小さなペーパーナイフ。


佐伯の工房で、初めて最初から最後まで自分一人で仕上げたものだった。


「......ペーパーナイフ?」


「刀への第一歩。」


「刀、まだ遠くね?」


「近い。」


「気持ちだけは近いってことね。」


否定はしない。


でも、佐伯には「筋はええ」と言われた。


初めての完成品にしては上出来、らしい。


自分でも、そう思う。


鉄を叩く感覚が、少しずつ体に馴染んできている。


昼休み、学食のテレビでニュースが流れていた。


例の会見の続報だった。


『探索者資格保持者に限り、刀剣携行を特例で認める――』


「あ、これこれ。」


友人が指をさす。


「先週の発表、まだやってるのな。」


「そりゃそうだろ、歴史的な話だし。」


画面には、専門家のコメントも流れている。


廃刀令以来の転換、という言葉が、何度も繰り返されていた。


「......刀持てるようになるんだよなぁ、探索者。」


思わず呟く。


友人がこちらを見た。


「錬司、まさか。」


「ん?」


「探索者になる気?」


「......。」


図星をつかれて、言葉に詰まる。


実は、ここ数日、ずっと考えていたことだった。


「いや、別に戦いたいわけじゃない。」


「知ってる。」


「でも。」


言葉を選ぶ。


「素材って、結局は誰かが取ってこないといけないだろ。」


「まぁ、そうだけど。」


「研究者からのお裾分けだけじゃ、限界がある。」


実際、江藤から貰った鉱石は、もう半分近く実験で使い切っていた。


佐伯と一緒に成分を確かめながら、少しずつ試し打ちを重ねている。


だが、量が全然足りない。


打ちたい形は、もっと大きい。


もっと、ちゃんとした刀身を打ちたい。


「自分で取りに行けたら、一番早い。」


「......いや待て。危なくないの?」


「危ないだろうな。」


「他人事かよ。」


「他人事じゃないけど、他に方法がないなら仕方ない。」


開き直ったわけじゃない。


ただ、覚悟の話だった。


その日の夜、工房の休憩中に佐伯へ相談してみた。


「探索者になろうと思ってるんですが。」


「......ほう。」


佐伯は、意外にも驚かなかった。


「遅かれ早かれ、そう言い出すと思っとったわ。」


「予想されてたんですか。」


「お主の目、見りゃ分かる。素材を欲しがっとる目じゃった。」


図星すぎて、何も言い返せなかった。


「わしも、実は登録しようか迷っとる。」


「え、師匠もですか?」


「歳じゃがな。じゃが、この目で確かめたい鉱石が、まだ山ほどある。」


佐伯は、炉の火を見つめながら笑った。


「一緒に潜るか、弟子」


「......はい。ぜひ。」


思わず声が弾む。


まだ、資格試験の詳細すら発表されていない。


準備すべきことは、山ほどあるだろう。


体力も、知識も、まだ足りない部分だらけだ。


それでも。


「......よし。」


小さく拳を握る。


刀を打ちたくて、素材が欲しくて。


その一心で始まった、ただの憧れ。


それが今、はっきりとした道になろうとしている。


まだ見ぬダンジョンの奥へ。


自分の足で踏み込む日は、そう遠くない。


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