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オタク、刀に狂う  作者: Asansol ackey
第一章:ダンジョンについての有識者会議
21/83

1−21:制度という名の設計図

「本日は、制度の骨子について詰めていきたいと思います」


 第三回、材料・環境・種族対応検討分科会。


 九条恒一は、今回も末席からその様子を見守っていた。


 会議室の空気は、初回とは明らかに違う。


 官僚たちの表情に、もう戸惑いはない。


 むしろ、前のめりだった。


「まず、探索者の資格についてです」


 司会役の職員が資料を開く。


「現状、内部への立ち入りは自衛隊・警察関係者に限定していますが、将来的に民間人へ開放する場合、何らかの基準が必要になります」


「免許制ですよね、普通に考えて」


 南一颯が即答する。


「講習を受けて、実技試験をやって、段階的にランク分けする。ゲームでよくある構造ですけど、現実でもこれが一番安全だと思います」


「ランク分け、というのは」


「初心者がいきなり深層に行けないようにする仕組みです。浅い階層から実績を積ませて、段階的に許可範囲を広げる」


 黒沢玲が頷く。


「TRPGでも同じ発想がある。いきなり強い敵と当たらせない。GMの基本設計です」


「なるほど......」


 職員がメモを取る手が止まらない。


「では、初級・中級・上級の三段階、というイメージでしょうか」


「もっと細かくてもいいと思います」


 東雲環が口を挟む。


「一段一段の差が小さい方が、事故のリスクを抑えられる。五段階くらいがちょうどいいかと」


「五段階......承知しました」


 九条は、その様子を眺めながら小さく感心していた。


(早い)


 これまでの会議では、何週間もかかっていたはずの議論が、あっという間に形になっていく。


「続いて、素材の管理についてです」


 議題が進む。


「採取した素材の所有権を、国が一括管理するか、探索者個人に帰属させるかという論点があります」


「両方でいいのでは」


 九十九蒼が手を挙げる。


「基本は国が買い取る。ただし、一定の希少度以下の素材は、探索者本人が申請すれば個人利用の許可を取れる、という二段構えにすれば」


「個人利用......例えばどういう用途を想定されていますか」


「研究者への提供とか、職人への譲渡とか」


 さらりと言われた言葉に、九条の耳がわずかに反応した。


(職人......)


 少し前に見た、あの資料の名前がふと頭をよぎる。


(神崎、じゃったか)


 もちろん、今はまだ関係のない話だ。


 単なる連想にすぎない。


「続けてください」


「はい」


 議論が進む。


「そして、配信規則についてです」


 これは、南が中心になって説明した。


「探索の様子を配信したいという声は、間違いなく出てきます。ここを野放しにすると危険です」


「危険、と申しますと」


「視聴数のために無茶をする配信者が必ず出ます。ゲームの世界でもリアルでも、これは変わりません」


 冷静な指摘だった。


「なので、配信は許可制にして、内容にも一定の制限をかけるべきです。生死に関わる映像の扱い、位置情報の秘匿、こういったところは最低限」


「勉強になります」


「あと」


 黒沢が付け加える。


「これは少し気の早い話ですが」


「どうぞ」


「もし内部の生物が、銃器で有効打を与えにくいタイプだった場合の備えも、今のうちに考えておいた方がいいかと」


「有効打を与えにくい......」


「刃や打撃武器の方が効く可能性です。ファンタジー作品でよくある設定ですが、現実でも似た状況が起きても不思議ではありません」


 会議室が、一瞬静まった。


「もしそうなった場合、近接武器の携行が必要になります」


「しかし、それは銃刀法の――」


「はい。だからこそ、今のうちに検討しておくべきかと」


 職員が資料に何かを書き込む。


「探索用途に限定した、特例的な帯刀許可、ですか」


「そうなった場合の話です。あくまで可能性の一つとして」


 九条は、資料に目を落としたまま、内心でだけ大きく頷いていた。


(......まさか、本当に刀の話が出るとはな)


 もちろん、顔には出さない。


 絶対に出さない。


 だが。


(これは、思っていたより本格的になりそうだ)


 会議は四時間を超えた。


 終わる頃には、資料の枚数が最初の倍近くに膨れ上がっていた。


「本日はここまでとします。次回、たたき台を事務局側で作成し、皆様にご確認いただく形にしたいと思います」


「お疲れ様でした」


 一同が席を立つ中、九条もようやく腰を上げた。


 廊下を歩きながら、資料を読み返す。


 探索者免許。


 素材管理制度。


 配信規則。


 そして、いずれ必要になるかもしれない、帯刀の特例。


 まだ、どれも骨組みにすぎない。


 だが。


(形になってきている)


 誰も歩いたことのない道を、少しずつ、地図に描き始めている。


 その実感が、確かにあった。


 窓の外、日が暮れかけていた。


 あの門の方角を見やりながら、九条は小さく呟く。


「......一般開放も、そう遠くないかもしれんな」


 その言葉の意味を、まだこの時の九条は。


 どこか他人事のように感じていた。

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