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オタク、刀に狂う  作者: Asansol ackey
第一章:ダンジョンについての有識者会議
20/83

1−20:研究者からの連絡

「錬司、お前まだ刀の話してんの?」


「してるが?」


「もう三週間くらいずっと刀と鉱石の話じゃん」


「悪いか」


「悪くはないけど、いい加減他の話しろよ」


 学食のテーブルで、友人が呆れたようにため息をつく。


 まぁ気持ちは分かる。


 ここ最近、頭の中がその話でいっぱいなのは自覚している。


「でもさ、師匠から連絡来てから毎日楽しくてしょうがないんだよ」


「師匠て。まだ弟子入りもしてないだろ」


「心の師匠。」


「早ぇよ」


 笑われる。


 いつものやり取りだ。


 でも、実際に嬉しかったのは本当だった。


 あの意見交換会とやらで、自分の考察が紹介されたらしい。


 結果がどうだったかまでは、師匠からも詳しくは聞いていない。


『反応は上々じゃったぞ』


 そう一言だけ届いた。


 それだけで十分だった。


 誰かの役に立ったかもしれない。


 その事実だけで、しばらくはニヤニヤが止まらなかった。


「まぁでも、」


 友人がスマホを弄りながら言う。


「お前の名前、地味に界隈で広まってきてるらしいぞ」


「は?」


「知らんの?」


「知らん」


「刀好きアカウントの間で、たまに話題になってる。『あの考察の人』みたいな」


「......」


 そんなつもりはなかった。


 ただ、思ったことを書いただけだ。


 でも、世の中というのは分からないものらしい。


 その日の夜。


 いつも通り自室で鍛冶動画を漁っていると、メールの通知が届いた。


 差出人を見て、首をかしげる。


 聞いたことのない大学の研究室名。


「......?」


 開く。


件名:構造物内資源に関するご意見について


 本文を読む。


 目を疑った。


神崎錬司様


突然のご連絡、失礼いたします。


私、〇〇大学 材料工学研究室の准教授、江藤と申します。


先日、政府関連の意見交換会にて、貴殿の考察を拝見する機会がございました。


映像のみの情報から、劈開の可能性、精錬前段階の物質であるという指摘、いずれも我々の分析結果と極めて近しいものでした。


「......え。」


 声が出た。


 もう一度読む。


 見間違いじゃない。


つきましては、一度お時間をいただき、貴殿の考察の背景について伺えないかと考えております。


学術的な発表を強要するものではなく、あくまで参考意見としてお聞かせいただければ幸いです。


「......マジか。」


 鍛冶師の次は。


 研究者。


 しかも、大学の。


 本物の。


 スマホを持つ手が、じんわり汗ばんでくる。


「......いや、待て。」


 落ち着け。


 落ち着け俺。


 まだ大学生だ。


 専門家でもなんでもない。


 ただの刀好き。


 ただの、鍛冶に憧れているだけの学生。


 なのに。


「......どんどん話がでかくなってないか?」


 誰に問うわけでもなく呟く。


 最初はただ、刀を打ちたかっただけだ。


 玉鋼が欲しい。


 ダンジョン素材があったら面白いな、くらいの妄想だった。


 それが。


 尊敬する配信者に認められて。


 その人の紹介で意見交換会に載って。


 今度は、本物の研究者から直接連絡が来る。


「......いや、返信しなきゃ。」


 深呼吸をして、文面を考える。


 何度も打っては消す。


 丁寧に。


 失礼のないように。


 でも、素直に。


江藤様


ご連絡いただき、ありがとうございます。


私はただ映像を見て気になったことを書いただけの一学生ですが、もしお役に立てるのであれば、喜んでお話しさせていただきます。


 送信。


 スマホを置いて、天井を見上げる。


「......はぁ。」


 長いため息が出た。


 嬉しいのと、怖いのと。


 両方が一緒に押し寄せてくる。


 自分はまだ何も持っていない。


 実物の鉱石も。


 打った刀も。


 何一つ。


 あるのは、ただの知識と、ただの憧れだけだ。


 それでも。


「......ちゃんと、答えられるようにしとかないとな。」


 ノートを開く。


 これまで書き溜めた考察のページをめくる。


 まだ、始まったばかりだ。


 でも、確かに何かが動き始めている。


 その予感だけは、はっきりとあった。

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