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オタク、刀に狂う  作者: Asansol ackey
第一章:ダンジョンについての有識者会議
19/83

1−19:有識者会議、開幕

永田町、内閣府の一室。


 九条恒一は、少し離れた場所からその光景を見ていた。


 長机を挟んで向かい合うのは、いつもの官僚たちと。


 そして。


 見慣れない顔ぶれだった。


「......こちらの席で、よろしいでしょうか」


 ラノベ作家の九十九蒼が、おずおずと椅子を引く。


「ど、どうぞ」


 対応する若手職員も、明らかに緊張している。


 無理もない。


 国家の会議室に、小説家や漫画家が正式な委員として座る。


 誰にとっても、初めての光景だった。


「では、始めさせていただきます」


 司会役の職員が資料を配る。


「本日は第一回、材料・環境・種族対応検討分科会となります」


 仰々しい名前だ。


 だが中身は簡単。


 あの構造物と、そこに生きる生物、そして未知の鉱石について、多角的な視点で意見を出し合う場だった。


「まず、確認された鉱石のサンプルデータをご覧ください」


 資料が回る。


 東雲環が、写真を見るなり身を乗り出した。


「これ、劈開面がありますね」


「......けっかいめん?」


「割れ方に規則性があるってことです。金属じゃなく、鉱物の特徴に近い」


「そ、それは分析班も同様の見解を」


「でしょうね。見た目で分かります」


 あっさりと言い切る。


 職員が資料をめくる手を止めた。


「実は、非公式のルートからも同様の指摘がありまして」


「非公式?」


「材料研究の意見交換会に、鍛冶師の方からご紹介いただいた、一般の考察です」


 九条は、少しだけ興味を引かれた。


「学生の方だそうですが、映像だけでほぼ同じ結論に至っていたと」


「ほう」


 九十九が眉を上げる。


「そういう人、案外いるんですよね。好きが高じて専門家以上に詳しい人」


「わしらの界隈にもよくおる話じゃ」


 資料の隅に添えられた名前を、九条はちらりと見た。


(神崎......)


 ふむ、と小さく頷く。


 特に気に留めるほどのことではない。


 今はまだ。


「続きまして」


 議題が進む。


「構造物内部で確認された生物についてです」


 映像が流れる。


 あの青い四足の生物。


 黒沢玲が、身を乗り出して画面を見つめた。


「これ、威嚇行動はなかったんですよね」


「はい」


「だとすると、こちらから近づかない限りは安全という前提で設計を考えるべきかと」


「設計、というのは」


「安全マニュアルです。むやみに刺激しない。逃げ道を確保する。基本ですが、こういうのはゲームバランスと同じで、後から作ると穴だらけになる」


 南一颯が頷く。


「同意です。序盤の設計を間違えると、後で取り返しがつかなくなる」


 官僚たちが、真剣な顔でメモを取っている。


 九条は、その様子を静かに見守っていた。


(......悪くない)


 むしろ、いい。


 これまでの会議では出てこなかった視点が、次々と飛び交っている。


 現実の専門家が「分からない」で止まっていた場所から。


 彼らは、当たり前のように次の一手を提案してくる。


「あと、これは提案なんですが」


 東雲が手を挙げる。


「素材の管理方法、今のうちに決めておいた方がいいと思います」


「管理方法?」


「誰が採取していいのか。国が独占するのか、民間にも開放するのか。ここを曖昧にすると、絶対に後で揉めます」


 九条は、資料に目を落とす。


 素材管理。


 配信規則。


 探索者という概念そのものの制度設計。


 まだ何一つ、固まっていない。


 だが。


(この四人がいれば)


 少なくとも、ゼロから考えるよりずっと早い。


 会議は三時間に及んだ。


 終わる頃には、官僚たちの表情から最初の硬さが消えていた。


「本日は、ありがとうございました」


 司会役の職員が頭を下げる。


「いえ、こちらこそ。まさか本当に呼ばれるとは思ってませんでした」


 九十九が苦笑しながら答える。


「次回もよろしくお願いします」


「はい、喜んで」


 一同が席を立つ中、九条はそっと部屋を出た。


 廊下を歩きながら、スマホを取り出す。


 孫からのメッセージが届いていた。


『どうだった?』


 短く返す。


『予想以上だった』


 すぐに既読がつく。


『でしょ』


『じいちゃんの判断、間違ってなかったよ』


 九条は、小さく笑った。


 窓の外、夕暮れの東京。


 あの門の方角を見る。


 まだ何も終わっていない。


 むしろ、ここからが本番だ。


 だが、心のどこかで。


 確かな手応えを感じ始めていた。


(この国は、案外いける、かもしれんな)


 もちろん、それも。


 誰にも聞こえない、独り言だった。

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