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オタク、刀に狂う  作者: Asansol ackey
第一章:ダンジョンについての有識者会議
18/83

1−18:心の師匠から突然のDM

 世界がちょっとおかしくなった。


 いや、比喩じゃなくて。


「小説家が国家会議......?」


 朝、大学に向かう電車の中。


 ニュースアプリを開いた瞬間、思わず声が出た。


 昨日の総理会見。


 今日はその話題で持ちきりだった。


 小説家。


 漫画家。


 ゲームデザイナー。


 TRPG関係者。


 そういう人たちが、正式に有識者会議へ呼ばれたらしい。


「......いや、分かるけど。」


 分かるけど。


 急にそこ本気にするか、国。


 もちろん、悪い意味じゃない。


 むしろ。


「めちゃくちゃ良い判断だと思う。」


 罠の設計とか。


 資源のバランスとか。


 あの手の作品って、案外真面目に考えられてるものが多い。


 鍛冶に関する描写だって、ちゃんと調べて書いてる作家は結構いる。


 自分がそういう作品を読み漁ってきたからこそ、それは分かる。


「まぁ、俺には関係ない話だけど。」


 しょせん、ただの大学生だ。


 刀オタクの、ただの大学生。


 国家会議とは縁もゆかりもない。


 ......そう思っていた。


 その日の夜。


 自室でスマホをいじっていると、通知が一件届いた。


 差出人を見て、固まる。


『失礼。少し話せるかね』


 あの鍛冶師の老人だった。


 登録者三万人。


 自分が尊敬する、動画配信者の。


「......え?」


 DM。


 直接。


 個人的に。


 心臓がバクバクいい始める。


 深呼吸を三回してから、返信を打つ。


『はい、大丈夫です』


 すぐに既読がつく。


『先日の考察、あれから何度も見直した』


『鉱石という見立て、わしも同じ意見じゃ』


「......!!」


 声にならない声が出た。


 あの人が。


 自分の考察を、何度も見直してくれた。


『ありがとうございます』


『恐縮です』


 打ちながら、手が震えているのが分かる。


『それでな』


 続きのメッセージが届く。


『実は、わしのところにも例の会議の話が来ておってな』


「......え。」


 例の会議。


 まさか。


『有識者会議、ですか』


『いや、まだそこまでではない』


『材料研究のほうの、非公式な意見交換会というやつじゃ』


『鍛冶師としての視点で意見をくれと頼まれた』


 ......なるほど。


 いきなり総理の会議に呼ばれたわけじゃなくて、まずはその前段階、ということらしい。


 それでも。


「すごい......。」


 純粋に、そう思った。


 自分が尊敬している人が、本当に国から声をかけられている。


 現実感がなくて、変な感覚になる。


『わしのような一介の鍛冶師にまで声がかかるとは、大したものじゃ』


『世の中、分からんものよ』


『それで、な』


 次のメッセージに、少し身構える。


『お主の考察、あそこで紹介してもよいかね』


「......え?」


 二度見した。


 もう一度読む。


 見間違いじゃない。


『わし一人の意見より、複数の視点があった方がええじゃろ』


『もちろん、名前を出す出さないはお主の自由じゃ』


 スマホを持つ手が止まる。


 考える。


 まだ大学生だ。


 実物の鉱石を見たわけでもない。


 映像だけで考えた、ただの憶測。


 そんなものが、本当に役に立つのか。


 ......分からない。


 分からないけど。


「......出してもらっていいですか。」


 気付けば、そう打っていた。


 もし外れていたら、それはそれでいい。


 考えたことが、誰かの役に立つかもしれない。


 その可能性があるなら。


 名前を隠す理由なんて、どこにもなかった。


『よし』


『では、お主の名前で紹介させてもらう』


『......神崎、じゃったな』


「はい。」


 打ちながら、口元が緩む。


『楽しみにしておれ』


『何かあれば、また連絡する』


 やり取りはそこで終わった。


 スマホを置いて、天井を見上げる。


「......マジか。」


 まだダンジョンにすら足を踏み入れていない。


 実物の鉱石も見ていない。


 なのに。


 自分の考えが、少しずつ、思ってもみない場所へ届き始めている。


「......落ち着け、俺。」


 深呼吸。


 まだ何も始まっていない。


 これは、ただの意見交換の紹介。


 それだけだ。


 それだけ、なんだけど。


「......刀、打ちてぇなぁ。」


 気付けば、いつもの呟きが漏れていた。


 でも、その言葉の重みが。


 昨日までとは、少しだけ違って聞こえた気がした。

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