4-25:継がれた技
第五章があんまり進みません。
どんなストーリーがいいなどございましたら参考にさせていただきたいと思います。
4-25以降の各話の『感想欄』に書いていただけましたら、それを参考にさせていただく可能性がございます。
また、具体的に誰のものを参考にしたのか、そもそも誰かのを参考にしたのかなどは基本的には公開しないつもりですが、もし参考にしたかどうかを公開して欲しい方は、公開時に書かれたい名前(ペンネーム的な奴)と『公開希望』と感想の最後に添えていただけると助かります。
あと、今書かせてる別の作品は自衛隊系のミリタリーなローファンタジーです。
読みたい方は、『読みたい』と感想ください。
多ければ、手直しして公開します。
地を蹴った瞬間。
視界が変わった。
これまでの防戦一方の自分ではない。
酒呑童子の拳が迫る。
速い。
だが見える。
あの二ヶ月、何百回といなされ続けた、俺自身の、この動き。
力任せの一撃。
その軌道を最小限の動きで躱す。
夜桜がいつもそうしていたように。
「――そこ」
懐へ潜り込む。
継刃を下から掬い上げる。
浅く肩を捉えた。
だが確かな手応え。
「ギァッ......!」
初めて酒呑童子の動きが大きく崩れた。
その隙を逃さない。
結刃で追撃を放つ。
力ではなく技で。
構造を読み最短の距離で急所へ。
これまで彼女に教わってきた全てを注ぎ込む。
『すごい、押してる......!』
『さっきまでとまるで違う』
『これが二ヶ月の成果......』
視聴者の声すら今は遠くに聞こえる。
意識はただ目の前の一挙一動だけに注がれていた。
酒呑童子がなおも力任せに腕を振るう。
だがその一つ一つがもう当たらない。
躱し。
流し。
時に受け流した力をそのまま逆に利用する。
夜桜が何度も何度も体に叩き込んでくれた技。
(あなたが教えてくれたことです)
心の中でそう呟く。
フィジカルで圧倒しようとする獣を技だけで圧倒する。
あの日、稽古で何度も投げ飛ばされた自分が、今まさに彼女がしていたことをしている。
皮肉なようで、これ以上ない答えだった。
酒呑童子の動きが次第に精彩を欠いていく。
膨大な力をただ振り回すだけの暴走。
その隙間はあまりにも大きかった。
「――今」
継刃を両手で握り直す。
結刃で最後の隙を作る。
酒呑童子の胸元。
心臓の位置。
そこへ迷いなく切っ先を突き込んだ。
深く刃が沈み込む。
「ア、ア――」
酒呑童子の口から獣のものではない人の声が漏れた。
その瞬間だった。
継刃の柄を通して、これまで感じたことのない圧倒的な奔流が流れ込んできた。
「――っ!?」
彼女の中に蓄えられていた膨大な魔素。
継刃がその全てを貪欲に吸い上げていく。
だが。
「な――」
刀身の表面に亀裂が走った。
一つ、また一つ。
継刃全体を覆うように蜘蛛の巣状に罅が広がっていく。
量が多すぎる。
これまで幾度となく力を蓄えてきたあの刀でさえ受け止めきれないほどの奔流だった。
「くっ......!」
それでも手を離さなかった。
最後まで刃を突き通す。
やがて奔流が止まる。
酒呑童子の体から力が抜けていくのが分かった。
同時に。
「......あ」
その瞳から赤黒い濁りが静かに消えていく。
代わりに見慣れた優しい色が戻ってくる。
「......錬司」
その声はもう獣のものではなかった。
いつもの夜桜の声だった。
「夜桜さん......!」
夜桜の体が崩れ落ちるように地面に膝をつく。
慌てて駆け寄り支える。
「大丈夫ですか」
「......負けてしもうたな」
夜桜は弱々しく微笑んだ。
「代償も大きいようじゃ」
「代償......」
そこで初めて気づいた。
夜桜の体が指先から静かに崩れ始めていた。
まるで砂のように。
「夜桜さん、これは」
「鬼族は妖力、今なら魔素の力で体を保っておる」
夜桜が静かに答える。
「その魔素を全て、お主の刀が吸い取ってしもうた」
「......そんな」
「詫びる必要はない。わらわが頼んだことじゃ」
崩れていく体を抱きしめるように支える。
「何か方法は。魔素を戻せば」
「無駄じゃ」
夜桜は静かに、しかし確かに首を振った。
「これは消えるということじゃ。ようやく、じゃ」
「そんなこと言わないでください」
声が震えた。
「錬司」
夜桜が崩れかけた手をそっとこちらの頬に添える。
「よい顔をしておる。あの日と同じじゃ」
「......あの日」
「安綱が、わらわを斬ったあの日の顔と」
夜桜は懐かしむように目を細めた。
「辛そうで、それでもまっすぐで」
その言葉に堪えきれなくなった。
「夜桜さん、俺......」
言葉がうまくまとまらない。
それでも伝えたかった。
「俺、あなたのことが好きでした」
声が震える。
だが止まらなかった。
「多分、初恋だったんだと思います」
夜桜が少しだけ目を見開いた。
「......そうか」
その表情に悲しみとも慈しみともつかない色が浮かぶ。
「お主のその想い、嬉しく思う」
「でも」
夜桜は静かに続けた。
「わらわは、その想いに応えてやれぬ。もう時間がない」
「夜桜さん」
「安綱にも、似たようなことを言われたことがある」
夜桜は小さく笑った。
「不思議なものじゃな。時を超えて、似たような想いを受け取るとは」
崩れていく手がそれでもこちらの頭をそっと撫でた。
いつものように。
いつもより優しく。
いつもの稽古の後のように。
「錬司」
「はい」
「よくやった」
その一言に全てが込められていた。
これまでの稽古の日々。
彼女の孤独な途方もない時間。
そして、その頼みを果たしきった、この瞬間。
「......夜桜さん」
「見事な卒業じゃ」
夜桜の体が光の粒子となって崩れていく。
その顔は最後まで優しく微笑んでいた。
「――さらば、じゃ」
その言葉を最後に。
夜桜の姿は完全に消えた。
「......夜桜さん」
呆然とその場に座り込む。
声を上げることもできなかった。
ただ静かに涙が頬を伝った。
どれくらいそうしていただろうか。
ふと目の前に何かが光っているのに気づいた。
夜桜がいた場所に小さな玉が一つ落ちている。
紅色の美しい玉。
その中心には淡い桜色の光が静かに揺らめいていた。
震える手でそれを拾い上げる。
温かい。
まるでまだ彼女の温もりが残っているかのように。
「......持って帰ります」
誰にというわけでもなく、そう呟く。
その玉を大切に両手で包み込んだ。
崩れ落ちた広間に静寂が戻ってくる。
赤黒く染まっていた花びらが少しずつ元の優しい桜色に戻り始めていた。
その光景を涙で滲む視界の中で、いつまでも見つめ続けていた。
急用のため8/8の投稿ができません。
明日2日分投稿します




