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オタク、刀に狂う  作者: Asansol ackey
間章(3ー4)
104/134

間章-28:閉じられた研究室

ロシアも入れていくよ。


モスクワ、クレムリン。


大統領・ヴィクトル・ソコロフは、国防省と科学アカデミーの合同報告を、寒々とした執務室で受けていた。


「歪みの管理状況は」


「全て、国防省及び科学アカデミーの直轄施設内で、封鎖・管理しています。民間人の立ち入りは、一切許可していません」


国防担当の高官が答える。


「国内で確認されている歪みは、現在十一箇所。うち、シベリア地方の三箇所については、極寒環境という特性上、特殊な観測体制を敷いています」


「それでいい」


ソコロフは、静かに頷いた。


「未知の資源、未知のエネルギー。これらは、国家の戦略的資産として、厳格に管理すべきものだ。歴史を振り返れば、この国は、常に、力を静かに蓄えることで、生き延びてきた」


「各国の動向についても、報告を」


「日本をはじめとする多くの国が、民間人への開放を進めています。中には、配信という形で、探索の様子を公開している国もあります」


「......理解しがたいな」


ソコロフは、小さく首を振った。


「国家の資産となり得るものを、娯楽として、無防備に公開するとは。戦略的な観点から見れば、あまりに脇が甘い」


「ただし、閣下」


科学アカデミーの代表が、慎重に発言する。


「その公開性ゆえに、彼らは、我々よりも遥かに速いペースで、データと知見を蓄積しています。特に、日本の探索者が発見した、武具の特性蓄積現象――継刃の一件は、看過できない事例です」


「詳しく」


「斬った相手の力を、武具そのものが吸収し、成長する。この現象を、我々の研究機関でも、独自に検証する価値があると考えます」


ソコロフは、資料に目を通した。


炎を纏う、東洋の青年の写真。


その姿を、しばらく、無言で見つめる。


「......面白い事例だ」


「はい」


「我が国の兵器開発局にも、この現象の分析を命じろ。ただし、あくまで内部での検証に留め、外部への情報流出は、厳重に管理しろ」


「かしこまりました。既に、シベリア地方の観測施設に、専門チームを派遣する準備を進めています」


「なぜ、シベリアだ」


「あの地域の歪みで確認されている個体の中に、特異な耐寒性を持つものが複数報告されています。もし、継刃のような現象が我が国でも再現できるなら、極寒環境に特化した装備の開発に、直結する可能性があります」


「良い着眼点だ」


ソコロフは、頷いた。


「魔素とやらの、人体への影響については」


「他国からの限定的な情報共有により、一部把握しています。知覚や身体能力に、特殊な変化をもたらす可能性がある、とのことです」


「軍事的応用の可能性は」


「検討に値します。ただし、まだ制御方法が確立されていないため、現時点では、研究段階に留めるべきかと」


「発現例は、我が国にはあるのか」


「非公式な報告が、一件あります。北方領土に近い観測施設に勤務する軍属の一人が、寒冷地における知覚の鋭敏化を訴えています。ただ、正式な確認には至っていません」


「注視しろ。もし発現するなら、その者を、慎重に、しかし確実に、国家の管理下に置け」


「承知しました」


ソコロフは、しばらく、資料を見つめたまま黙っていた。


「各国の中には、我々と近い方針を取っている国もあると聞いたが」


「はい。中国が、同様に、国家による一元管理の方針を取っています」


「あの国とは、この分野に関して、情報交換の余地があるか」


「非公式なルートでの接触は、既に始まっています。双方とも、慎重な姿勢ですが」


「進めておけ。無理に急ぐ必要はないが、閉じた者同士、学べることもあるだろう」


「かしこまりました」


「よし」


ソコロフは、資料を閉じた。


「引き続き、閉鎖的かつ、徹底した管理体制の下で、この未知の領域を研究しろ。この国の力は、こういう時にこそ、静かに、しかし確実に、蓄えるものだ」


「承知しました」


窓の外、モスクワの冷たい空気を見つめながら、ソコロフは、静かに、次の一手を思案していた。


各国が、それぞれのやり方で、この新しい時代に向き合っている。


開かれた道を選ぶ国。


閉じた道を選ぶ国。


この国は、この国なりの、閉じた扉の向こうで、静かに力を蓄えようとしていた。


(あの、炎を纏う青年か)


ソコロフは、資料の写真を、もう一度見つめた。


いつか、この国の閉じた扉の向こうからも、あれほどの現象が生まれる日が来るのか。


それとも、来ないのか。


答えは、まだ、誰にも分からなかった。


政治的な主義主張は入っていないです。

少なくともそういった意図はないので悪しからず

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