↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オタク、刀に狂う  作者: Asansol ackey
間章(3ー4)
103/134

間章-27:国家の管理下で

今回から中国の視点も入れていきます

北京、中南海。


国家主席・趙振華は、国内の歪みに関する定例報告を、幹部たちと共に受けていた。


会議室の壁には、国内で確認されている歪みの位置を示す、大きな地図が掲げられている。


「各国の一般開放の動きについては」


「日本、アメリカ、イギリス、韓国をはじめ、多くの国が、民間人への段階的な開放を進めています」


国家安全部門の責任者が答える。


「カナダ、ドイツ、フランス、イタリア、ブラジルも、規模の差はあれ、同様の方針です」


「我が国の方針は、変更しない」


趙は、静かに、しかし断固として言った。


「未知のエネルギー、未知の生態系。これらを、民間の判断に委ねるのは、あまりに危険が大きい。国家の統制なくして、この規模の未知に、責任を持って対応することはできない」


「はい。国内の歪みは、引き続き、人民解放軍及び国家科学院の管理下に置いています。現在、全十七箇所の歪みのうち、十二箇所で、恒久的な観測施設の建設が完了しています」


「調査の進捗は」


「魔素と呼ばれるエネルギーについて、独自の分析を進めています。日本の研究発表とも一部整合する結果が出ており、生物、及び特定の条件下では、無機物にも影響を及ぼす可能性が高いと見ています」


「継刃、という刀の件は」


「把握しています。武具そのものが、戦闘経験を通じて特性を蓄積するという現象です。国家科学院では、これを、装備開発における重要な研究対象と位置づけています」


趙は、資料に添えられた映像の静止画――両腕から炎を纏う日本人青年の姿を、しばらく、無言で見つめた。


「これほどの現象を、一人の民間人が、偶然の積み重ねで引き出したというのか」


「はい。事前の計画によるものではなく、探索を続ける中で、段階的に発見されたものと見られます」


「非効率だな」


趙は、小さく息を吐いた。


「もし、我が国が、体系的な研究として、同様の現象を追求すれば、より速く、より安全に、同等かそれ以上の成果を得られるはずだ」


「同感です」


「民間に、そのような力を持たせるのは危険だ」


趙は、はっきりと言った。


「あの現象は、国家が体系的に研究し、管理下で運用すべきものだ。個人の情熱や偶然に委ねるべきではない。何より、あのような力を持った武具が、統制の外で、無秩序に増えていく事態は、断じて避けねばならない」


「探索そのものも、選抜された精鋭部隊のみに限定する、という方針は、継続されますか」


「継続する。国民には、安全確保のための当然の措置として、引き続き説明する」


「かしこまりました」


「精鋭部隊の育成状況は、どうなっている」


「特殊部隊出身者を中心に、現在、三百二十名を選抜し、段階的な訓練を実施しています。継刃のような現象の再現を目指し、素材の割り当ても、優先的に行っています」


「良い。だが、焦るな。安全性の検証を、疎かにするな」


「承知しました」


「各国の配信文化については、どう見ている」


趙は、資料の中の、日本の探索者たちの映像を、じっと見つめた。


炎を纏う青年。各国の探索者たちとの、賑やかな交流。コメント欄に流れる、無数の反応。


「率直に言えば」


責任者が、慎重に答える。


「非効率的で、統制が取れていないように見えます。ですが」


「ですが?」


「情報の集積速度と、技術革新の速度において、無視できない成果を上げているのも、事実です。あの配信を見た数百万人が、無償で、実質的な観測データを提供している構図とも言えます」


趙は、しばらく、黙って資料を見つめていた。


「......一理あるな」


「はい」


「引き続き、動向を注視しろ。学ぶべき点があれば、我が国のやり方に、取り入れることも検討する。特に、あの、複数の分野の専門家を集めた有識者委員会の仕組みは、参考にする価値があるかもしれん」


「我が国でも、類似の枠組みを、非公開の形で構築することは可能かと」


「検討しろ。ただし」


趙は、資料を閉じた。


「民間への開放という選択肢は、当面、取らない。国家の管理下で、着実に、この未知の領域を掌握する。それが、この国の責任の取り方だ」


窓の外、北京の空を見上げながら、趙は、静かにそう結論づけた。


「この国は、この国のやり方で、新しい時代に向き合う。派手さはなくとも、着実に、そして、誰よりも深く」


会議室を出る間際、趙は、ふと立ち止まり、もう一度、あの映像を思い出した。


炎を纏う、一人の青年の姿。


(......いずれ、彼のような存在が、我が国からも現れるだろうか)


その問いに、まだ、誰も答えを持っていなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。