↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オタク、刀に狂う  作者: Asansol ackey
間章(3ー4)
102/134

間章-26:小さな、しかし確かな歩み

ブラジリア、大統領府。


大統領・エドゥアルド・アルヴェスは、久しぶりに、穏やかな表情で報告を受けていた。


「あの実効支配区画について、動きがありました」


治安担当大臣が言う。


「詳しく」


「組織側の一部から、正式な対話に応じる意向が示されています。継刃の一件をはじめ、各国での探索者制度の広がりを見て、『いずれ、正規のルートに乗った方が、自分たちの子どもたちの世代のためになる』と考える者が増えているようです」


「......そうか」


アルヴェスは、静かに頷いた。


簡単な話ではない。長年、力による支配が続いてきた場所だ。一朝一夕に、綺麗な形に収まるとは思っていない。


「対話に応じる意向を示しているのは、組織のどのあたりの層だ」


「主に、若い世代です。組織の幹部たちが子どもの頃から見てきた、暴力による支配の連鎖に、疑問を持ち始めている者が、少なくないようです」


「彼らにとって、探索者制度は、抜け出すための、正当な道筋になり得るということか」


「そう考えています。もちろん、慎重に進める必要はありますが」


「だが、確かに、状況は、少しずつ動いている」


アルヴェスは、資料をめくった。


「一般開放の規模についても、拡大を検討できるか」


「治安状況次第ですが、次の四半期には、対象区域を、現在の倍程度まで広げられる見込みです」


「良い報告だ」


アルヴェスは、少しだけ、表情を緩めた。


「継刃の件について、我が国での関心は」


「非常に高いです。特に、限られた資源の中でも、工夫次第で価値あるものを生み出せる、という点に、多くの国民が共感しています」


「我が国らしい受け止め方だな」


アルヴェスは、小さく笑った。


「我々は、いつだって、限られたものの中で、最大限の価値を見出してきた国民だ。あの神崎という青年の生き方に、自分たちの姿を重ねる者が多いのも、頷ける」


「実際、リオの若手デザイナーたちの間で、継刃のデザインをモチーフにした、装飾品やストリートアートが流行し始めています」


「面白いな。文化として、既に根付き始めているというわけか」


「はい」


「魔素の研究については」


「他国からの技術協力を受けながら、着実に進んでいます。国内でも、知覚変化の報告例が、少しずつ増えています。アマゾン地域の探索者の一人は、植物との親和性を訴えており、研究班が注目しています」


「アマゾンか。この国の豊かな自然が、そこでも、何か特別な意味を持つのかもしれんな」


「経済対策との連携は」


「新たな雇用創出の一環として、素材研究や、装備製造に関わる職業訓練プログラムを、拡充しています。特に、あの実効支配区画周辺のコミュニティに向けて、優先的に案内を進めています」


「先を見据えた、良い判断だ」


アルヴェスは、頷いた。


「もし、あの組織との対話が実現すれば、その若者たちにも、この訓練プログラムへの道を開いてやってくれ」


「それは、国民感情として、反発を招く恐れも」


「分かっている。だが、罰することだけが、正義ではない。彼らに、正規の道を示すことこそ、真の意味での治安回復に繋がるはずだ」


「......承知しました。慎重に、世論の準備も進めます」


「よし」


アルヴェスは、窓の外を見た。


以前より、確かに、街の空気が変わってきている。


喧騒は、まだ残っている。


だが、その中に、以前にはなかった、微かな希望の色が、混じり始めていた。


「一歩ずつだ。だが、その一歩が、着実に積み重なっている」


簡単な道のりではなかった。これからも、簡単ではないだろう。


それでも、この国は、自分たちの力で、前へ進み続けていた。


「大統領」


秘書官が、控えめに声をかける。


「他国の首脳会談への、参加打診についてですが」


「まだ、うちには早い、というのが、正直なところだ」


アルヴェスは、静かに答えた。


「だが、いつか、必ず。この国が、胸を張って、あの列に並べる日を、目指す」


窓の外、夕暮れのブラジリアの空が、静かに赤く染まり始めていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。