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オタク、刀に狂う  作者: Asansol ackey
間章(3ー4)
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間章-24:物語る武具

パリ、エリゼ宮。


大統領・フィリップ・ロシュフォールは、継刃に関する報告書を前に、珍しく、朝から上機嫌だった。


「武具そのものが、物語を宿す」


彼は、資料を読み上げるように、静かに呟いた。


「これほど、我が国の文学的感性に合致する現象は、そうはない」


「大統領、興奮されているようですね」


文化担当大臣が、苦笑しながら言う。


「当然だろう。刀が、斬った相手の性質を受け継ぎ、成長する。まるで、伝説の武具そのものの誕生譚だ。アーサー王の剣が、なぜ王だけを選ぶのか。北欧神話の武器が、なぜ持ち主を選ぶのか。我々が、物語の中でしか語れなかった論理が、今、現実の科学として、目の前にある」


「研究面での進捗は」


「我が国の研究機関も、独自の検証を進めています。ただし、日本の事例のような、明確な発現には至っていません」


「焦る必要はない」


ロシュフォールは、資料を閉じた。


「我々には、我々の物語の紡ぎ方がある。真似るのではなく、我が国らしい形で、この現象と向き合えばいい」


「具体的には」


「文学者と工学者、双方の視点を組み込んだ、独自の研究チームを編成する。技術だけでなく、この現象が持つ、文化的、精神的な意味合いも、丁寧に考察したい」


「哲学者からも、参加の希望が来ています」


「歓迎する。むしろ、彼らのような視点こそ、この現象の本質に迫るために必要だ」


ロシュフォールは、少し身を乗り出した。


「考えてみろ。あの刀は、なぜ、初めて仕留めた相手からしか、力を受け継がないのか。これは、単なる化学反応や、物理法則だけでは、説明しきれない部分がある」


「敬意、あるいは、記憶の問題、ということでしょうか」


「私は、そう睨んでいる。まるで、初めての出会いにこそ、最も深い印象が刻まれるかのようだ」


「詩的な仮説ですね」


「詩的な仮説こそ、時に、科学を先へ進める」


ロシュフォールは、満足げに頷いた。


「魔素の発現例については」


「国内でも、複数の兆候が報告されています。研究班が、慎重に経過を観察中です。うち一人は、植物の生育を早める能力の兆候を見せているとの、非公式な報告があります」


「植物、か」


ロシュフォールは、興味深そうに眉を上げた。


「農業分野にも、応用の可能性があるということか」


「まだ、憶測の域を出ませんが」


「良い。焦らず、しかし、心は躍らせながら進めよう」


ロシュフォールは、窓の外、セーヌ川の夜景を見つめた。


「あの若き刀鍛冶の物語、いずれ、我が国でも語り継がれる逸話になるかもしれんな」


「大統領らしい表現ですね」


「詩的すぎるか?」


「いえ、素敵だと思います」


ロシュフォールは、小さく笑った。


「実を言うと、今度、彼を我が国に招待できないか、外務省に打診している」


「本当ですか」


「もし実現すれば、我が国の職人や、鍛冶の歴史を紹介したい。彼のような、純粋な情熱を持つ若者になら、我々の文化を、きっと深く受け止めてもらえるだろう」


「素晴らしい計画だと思います」


「我々の物語は、まだ始まったばかりだ」


その言葉には、静かな、しかし確かな期待が込められていた。


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