1−10:最初の一歩
「……人を入れるしか、ありません」
会議室に、その一言が落ちた。
誰もすぐには返事をしない。
当然だった。
九条恒一も腕を組んだまま黙っている。
数秒。
いや、数十秒だったか。
沈黙を破ったのは総理自身だった。
「理由を」
短い一言。
促され、防衛省の担当者が立ち上がる。
「無人調査には限界があります。」
モニターに映像が映る。
これまでドローンが持ち帰ったデータ。
通路。
広間。
階段。
そして途中で乱れる映像。
「内部では一定距離を超えると通信が著しく不安定になります。」
「原因は」
「不明です。」
またその言葉か。
誰もがそう思ったが、口には出さなかった。
「さらに。」
映像が切り替わる。
一枚の写真。
青白い結晶。
「こちらをご覧ください。」
「鉱石か。」
「はい。」
分析班が答える。
「回収には成功しました。」
「結果は。」
「鉄ではありません。」
「銅でもありません。」
「アルミニウムでもありません。」
「既知の金属ではありません。」
会議室が静まり返る。
「元素分析でも一致するデータがありません。」
「……」
「未知の物質です。」
九条は資料を見る。
写真だけでも分かる。
美しかった。
青く透き通り、まるで宝石のような鉱石。
(ミスリルっぽい)
違う。
違う違う。
またラノベが出てきた。
落ち着け。
「総理。」
「何だ。」
「問題があります。」
担当者の表情が険しい。
「この鉱石ですが。」
「うん。」
「工具で切断できません。」
「……何?」
「ダイヤモンドカッターでも傷一つ付きません。」
今度こそ。
会議室全員の空気が変わった。
「ですが。」
担当者は続ける。
「内部では、現地で拾った石と接触した際に表面が削れました。」
「つまり。」
「内部の物質同士では相互作用があります。」
九条は資料を閉じた。
もう理解した。
人が必要だ。
現場で。
直接。
調べるしかない。
「総理。」
別の職員が立ち上がる。
「有人調査隊の編成案です。」
資料が配られる。
自衛隊。
警察。
医療班。
研究者。
各分野から選抜された二十名。
「武装は?」
「小銃を基本とします。」
「近接武器は。」
「念のため警棒のみ。」
九条は少し考えた。
「……警棒だけか。」
「はい。」
誰も剣など持ち出さない。
現代日本だ。
それが普通だ。
普通。
そう。
普通なら。
(ラノベならここで剣なんだよな)
……いや。
現実だ。
現実。
自分に言い聞かせる。
そして静かに口を開いた。
「許可する。」
その一言で。
日本初。
いや。
人類初の有人調査隊が正式に発足した。
翌朝。
そのニュースは世界中を駆け巡る。
日本が最初に踏み出した。
未知への一歩。
それは後に。
人類の歴史を変えた一歩として語られることになる。




