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オタク、刀に狂う  作者: Asansol ackey
第一章:ダンジョンについての有識者会議
9/88

1−9:未知の建造物

 「……始めましょう。」

 午後六時。

 首相官邸の記者会見室には、普段の倍以上の報道陣が集まっていた。

 テレビカメラ。

 新聞社。

 海外メディア。

 ネットニュース。

 誰もが、同じことを知りたかった。

 あの門の向こうに、何があったのか。

 壇上に立った九条恒一は、一度だけ深呼吸をする。

 そして、静かに口を開いた。

「本日未明より実施した無人機による調査について、ご報告いたします。」

 会場が静まり返る。

「まず結論から申し上げます。」

 一拍。

「構造物内部への侵入に成功しました。」

 ざわっ、と会場が揺れた。

「映像をご覧ください。」

 スクリーンに映像が映る。

 石造りの通路。

 天井は高い。

 壁には苔のようなものが張り付き、ところどころに青白く光る結晶が埋め込まれている。

 照明器具はない。

 なのに、暗くない。

「……」

 誰も喋らない。

 ただ映像を見つめる。

 ドローンはゆっくりと奥へ進んでいく。

 広間。

 石柱。

 さらに奥へ続く通路。

 どう見ても。

 どう見ても、人が作った建物だった。

「この映像はCGではありません。」

 九条が続ける。

「編集も行っておりません。」

 質問の前に答えておく。

 当然、その疑いは出ると思っていた。

「調査の結果、この構造物は現在確認されているいかなる建築物とも一致しません。」

 記者たちが一斉にメモを取る。

「また、建設記録も存在しません。」

「……」

「さらに。」

 ここからが本題だ。

「内部ではGPSが使用できません。」

 ざわめき。

「電波は著しく減衰します。」

 さらにざわめく。

「時計にも誤差が確認されています。」

 会場の空気が変わる。

「なお、現時点で原因は不明です。」

 質問の手が、一斉に上がった。

「はい。」

「NHKです。」

「どうぞ。」

「この建造物は、人類が建設したものではない、と考えてよろしいのでしょうか。」

 九条は少しだけ考える。

 そして。

「現時点では。」

 ゆっくり答えた。

「その可能性を否定できません。」

 会場がどよめく。

「つまり。」

 別の記者が立ち上がる。

「未知の文明による建造物ということですか。」

「それについても現時点では回答できません。」

 答えられない。

 分からないからだ。

 憶測では話せない。

 それが政府だ。

「共同調査は。」

「各国と継続しています。」

「危険性は。」

「不明です。」

「内部へ人を入れる予定は。」

 その質問だけは、即答だった。

「ありません。」

 九条ははっきりと言った。

「安全が確認されるまでは、いかなる理由があっても、人員を投入する予定はありません。」

 会見は四十分ほどで終了した。

 記者たちが慌ただしく部屋を出ていく。

 テレビ局は速報を流し始める。

 九条も控室へ戻ろうとして。

「総理。」

 秘書官に呼び止められた。

「ドローンの追加映像です。」

「追加?」

「公開しなかった部分になります。」

「見せてくれ。」

 モニターを見る。

 ドローンが広間を飛んでいる。

 何もない。

 ……ように見えた。

「止めて。」

 九条が言う。

 映像が止まる。

「少し戻して。」

 数秒戻る。

「そこ。」

 画面の端。

 石柱の陰。

「拡大。」

 技術員が映像を拡大する。

 粗い。

 だが。

 そこには。

 何かがいた。

 四足歩行。

 犬ほどの大きさ。

 全身を青い毛に覆われた、生き物。

 こちらに気付いたのか。

 一瞬だけ顔を上げる。

 赤い瞳。

 そして。

 次の瞬間には、暗闇へ消えていた。

 部屋が静まり返る。

「……動物、ですか。」

 誰かが呟く。

 九条は答えなかった。

 答えられなかった。

 あれが何なのか。

 誰にも分からない。

 ただ、一つだけ。

 確実に言えることがあった。

 あの建造物は。

 もう。

 "空っぽ"ではなかった。


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