第5話 壊れた村と、壊れていない聖女
朝になっても、井戸の周りには人がいた。
夜明け前の冷たい空気の中で、村人たちは桶を手に並んでいる。誰も大声ではしゃいでいない。けれど、その顔は昨日までとは少し違っていた。
諦めきったような沈黙ではない。
今日は畑に水を撒ける。
子供に飲ませる水を、少し多めに汲める。
鍋を洗う時、底に残った一滴を惜しまなくていい。
たったそれだけのことが、村全体の表情を変えていた。
「おはようございます、レオンさん」
背後から声をかけられて振り返ると、セリアが立っていた。
昨日の泥だらけの修道服ではない。村の女たちが貸してくれたのだろう、生成りの上着と長いスカート姿になっている。まだ少し大きいらしく、袖の先から指が半分だけ出ていた。
「おはようございます。眠れましたか」
「はい。久しぶりに、ちゃんと眠れた気がします」
「それはよかった」
「レオンさんは?」
「俺も。少しだけ」
「少しだけ?」
セリアが眉を寄せる。
「もしかして、あまり寝ていませんか?」
「いや、昨日はいろいろ考えることがあって」
「だめです」
即答だった。
「だめ、ですか」
「はい。人には無理しないように言うのに、自分は無理する人の顔です」
意外と鋭い。
俺が返事に困っていると、セリアは少し得意げに胸を張った。
「神殿にいた頃、怪我人や病人の顔色を見る訓練は受けました。私は失敗ばかりでしたけど、見るだけなら少しはできます」
「じゃあ、俺も患者扱いですね」
「必要なら」
真面目に返されて、思わず笑ってしまった。
それを見て、セリアも少し笑う。
昨日出会った時の怯えた顔からは、まだ完全に遠い。けれど、確かに彼女の表情には生気が戻り始めていた。
「レオン殿!」
井戸の方から村長が呼んでいる。
白髭を揺らしながら、杖を片手にこちらへ歩いてくる。昨日より背筋が少し伸びて見えた。
「おはようございます、村長」
「うむ。よく眠れたか」
「はい。空き家を貸していただいて助かりました」
「掃除もろくにできておらん家ですまんかったな」
「屋根があるだけで十分です」
「そう言ってもらえるとありがたい」
村長は井戸を振り返る。
「昨夜から水は出続けておる。濁りも少しずつ取れてきた。まるで昔の井戸が戻ったようだ」
「完全に安定するまでは、数日は様子を見た方がいいと思います。魔力の流れは仮復旧なので」
「仮復旧でこれか」
村長は苦笑した。
「王都の技師に聞かせてやりたいわい」
「やめてください。面倒なことになりそうです」
「もうなっておる気もするがな」
その言葉に、俺は返事をしなかった。
村長はたぶん、半分冗談で言ったのだろう。
けれど、俺は笑いきれなかった。
昨日見えた表示。
《真職業:修復鑑定士》
《分類:神職系・希少職》
これが本当なら、俺の力はかなり珍しい。珍しい力は、人を助けることもできるが、厄介事も呼ぶ。
勇者パーティーでさえ、鑑定士の俺を使い潰していたのだ。
神職系の希少職などと知られたら、どこから手が伸びてくるか分からない。
「レオン殿?」
「あ、すみません。考えごとを」
「水車を見てもらってもよいか」
「はい」
俺たちは村の東側へ向かった。
井戸から少し離れたところに、小さな水路があった。今はほとんど乾いている。その先に、古い水車小屋が建っていた。
木の板は黒ずみ、屋根の一部は苔に覆われている。水車は半分ほど傾いたまま、長い間止まっているようだった。
「昔は、あれで粉を挽いたり、畑に水を送ったりしておった」
村長が言う。
「井戸が細ってから、水路も弱り、水車も止まった。直そうにも、木材も職人も足りん。王都へ頼めば金がかかる。結局、放置だ」
「見てみます」
水車に近づく。
手を触れる前から、いくつもの壊れた箇所が目に入った。
軸の歪み。
羽根板の腐食。
水路の詰まり。
歯車の欠け。
魔力補助石の沈黙。
ただの水車ではない。
これも井戸と同じ、古い魔道設備の一部だ。
《対象:リベル村・東水車》
《状態:停止》
《主原因:軸歪み/水路閉塞/補助魔石劣化》
《修復可能》
「直せそうですか?」
セリアが横から尋ねる。
「一日で完全には無理です。でも、応急的に動かすだけなら」
「本当か!」
村長が思わず声を上げる。
「はい。ただ、人手がいります。水路の泥を掻き出す人。羽根板を外す人。軸を支える人。あと、木材と鉄具が少し必要です」
「人なら出せる。木材も古い納屋を崩せば使えるはずだ」
「壊していい納屋なんですか」
「昨日、半分吹っ飛んだ納屋だ。どうせ直さねばならん」
村長の声に、少しだけ笑いが混じっていた。
セリアが申し訳なさそうに肩を落とす。
「すみません……」
「責めとらん。あれのおかげで、古い梁が腐っていたことも分かった。いつか誰かが潰されていたかもしれん」
村長はそう言ってから、少し照れくさそうに咳払いした。
「それに、井戸が戻ったのだ。納屋の一つくらい、安いものよ」
セリアは何かを言おうとして、結局小さく頭を下げた。
「ありがとうございます」
その声は震えていたが、昨日ほど怯えてはいなかった。
村人たちが集められ、水車修理が始まった。
俺は壊れた箇所を見ながら指示を出す。
「その板はまだ使えます。腐っているのは端だけなので、切れば大丈夫です」
「この鉄具は?」
「右側はだめです。左側は磨けば使えます」
「水路の泥はどこまで掻き出せばいい?」
「その先の曲がり角まで。そこに石が詰まってます」
「見えるのか?」
「まあ、一応」
村人たちは最初こそ半信半疑だったが、俺の言った通りに泥を掻くと本当に石が出てきたり、使えないと思っていた部品が再利用できたりするたび、目の色を変えていった。
「おい、鑑定士ってこんなことまで分かるのか」
「王都の鑑定士は、宝石の値段を見るくらいだと思ってたぞ」
「いや、レオン殿が特別なんじゃないか」
聞こえている。
聞こえているが、反応に困る。
俺自身、その答えが分からないのだから。
セリアは水路のそばで、子供たちと一緒に泥を運んでいた。聖女候補だったというのに、嫌な顔ひとつしない。むしろ、桶を持つ子供が転びそうになるとすぐに手を伸ばして支えている。
その手から、淡い光がこぼれた。
子供の膝にできた小さな擦り傷が、ふわりと消える。
「あ」
セリアが固まる。
子供も固まった。
周囲の大人たちも、一瞬だけ緊張した。
昨日までなら、ここで誰かが叫んだかもしれない。
けれど、子供は自分の膝を見て、ぱちぱちと瞬きをしたあと、にっと笑った。
「痛くなくなった!」
セリアは戸惑いながら言った。
「ご、ごめんなさい。勝手に」
「なんで謝るの? ありがとう!」
子供はそう言って、また泥の入った小桶を持って走っていった。
セリアはその後ろ姿を、呆然と見送っている。
「……ありがとう」
誰に言われたのかを、しばらく理解できなかったような顔だった。
俺は水車の軸を確認しながら、少しだけ笑った。
壊れていたのは、彼女の力だけではない。
彼女が受け取ってきた言葉も、たぶん壊れていた。
失敗作。
災厄。
役立たず。
そういう言葉で塞がれていたものが、少しずつほどけていく。
「レオン殿、こっちはどうする!」
村人の声で、俺は作業に戻った。
昼を過ぎる頃には、水車の形はずいぶん整っていた。羽根板は全部直せなかったが、半分以上は交換できた。軸の歪みも、応急の支えを入れて動かせる状態になっている。
問題は、魔力補助石だった。
水車小屋の奥に埋め込まれた青い石。これが水の流れを安定させ、水車の回転を補助する役目を持っていたらしい。
だが今は、完全に濁っている。
《補助魔石》
《状態:劣化》
《魔力伝導率:二十一%》
《修復可能:低負荷再起動推奨》
「完全復旧は無理ですね」
俺は呟いた。
「だめですか?」
セリアが心配そうに覗き込む。
「だめではないです。ただ、一気に動かすと割れます。最初は低い水量で回して、魔石を慣らす必要があります」
「人みたいですね」
「え?」
「急に頑張ると壊れてしまうところが」
セリアはそう言ってから、少し慌てた。
「あ、すみません。変なことを」
「いや、分かりやすいです」
実際、そうなのかもしれない。
壊れたものを直すには、ただ元に戻せばいいわけじゃない。長く止まっていたものには、少しずつ動き方を思い出させる時間が必要だ。
人も、道具も、村も。
「セリア、少し手伝ってもらえますか」
「はい」
「魔力をこの石に流してください。ただし、井戸の時よりずっと弱く」
「弱く……」
「蝋燭に火を灯すくらいです」
「分かりました」
セリアが補助魔石に手をかざす。
淡い光が、青い石に染み込んでいく。
俺はその流れを見ながら、濁った部分を少しずつ整えた。完全に綺麗にはならない。だが、魔力が通る道だけを確保する。
《修復鑑定:部分発動》
《補助魔石:低負荷再起動》
青い石が、ほのかに光った。
水路に水が流される。
細い流れだった。
それでも、水車の羽根に触れた瞬間、ぎし、と音が鳴る。
村人たちが息を止める。
ぎし。
ぎし、ぎし。
止まっていた水車が、少しずつ動き出す。
最初は苦しそうだった。長い眠りから覚めた老人のように、軋みながら、ためらいながら。
やがて、回転が続く。
水車が回る。
「動いた……」
誰かが呟いた。
次の瞬間、歓声が上がった。
「水車が動いたぞ!」
「本当に回った!」
「これで畑に水を引ける!」
村人たちが手を叩き、子供たちが水車の周りを走り回る。村長は杖を握ったまま、何度も頷いていた。
「戻ってきた……」
村長が小さく言った。
「村の音が、戻ってきた」
水車の音。
水が落ちる音。
歯車が回る音。
人が笑う声。
確かに、昨日までのリベル村にはなかった音だった。
セリアが隣で静かに泣いていた。
「また泣いてる」
「すみません……」
「いや、悪い意味じゃなくて」
「分かっています。でも、止まらなくて」
彼女は袖で目元を拭う。
「私、神殿にいた時は、祈れば祈るほど壊していました。誰かを治そうとすると、物が割れて、人が怖がって……だから、私の力は間違っているんだと思っていました」
「間違ってませんよ」
俺は水車を見ながら言った。
「昨日も今日も、ちゃんと人を助けています」
「レオンさんがいてくれるからです」
「きっかけはそうかもしれない。でも、力を流しているのはセリアです」
セリアは黙った。
それから、小さく聞いた。
「私、ここにいてもいいんでしょうか」
「それ、昨日も聞いてましたね」
「何度も聞きたくなります」
「なら、何度でも言います」
俺は彼女を見る。
「いていいと思います。少なくとも、この村には君の力を必要としている人がいる」
セリアはしばらく俺を見ていた。
そして、深く息を吸ってから、こくりと頷いた。
「……はい」
その声は、まだ小さい。
けれど昨日のように、自分を責めるだけの声ではなかった。
作業が一段落した頃、村の女たちが簡単な食事を用意してくれた。黒パン、豆の煮込み、井戸水で薄めた山羊乳。豪華ではないが、温かかった。
俺が木の椀を受け取ると、昨日助けた老人が隣に座った。
「足はどうですか」
「痛みはあるが、歩ける。セリアのおかげだ」
老人はそう言ってから、少し照れくさそうに声を潜めた。
「昨日までは、あの子を見ると怖かった」
「はい」
「だが、怖い顔をしていたのは、こっちだったのかもしれんな」
俺は返事に迷った。
老人は自嘲気味に笑う。
「年を取ると、知らんものが怖くなる。若い娘が苦しんでいるのを見ても、自分たちに害があるかどうかで考えてしまう」
「責めるつもりはありません」
「責められた方が、楽な時もある」
老人はそう言って、豆の煮込みをすすった。
「だが、まあ。今日から変えればいい。水車も回ったことだしな」
その言葉は、不思議と胸に残った。
今日から変えればいい。
壊れていたとしても、直せるなら。
間違っていたとしても、やり直せるなら。
そのための今日なのかもしれない。
その頃、王都へ続く街道の反対側では、勇者パーティーが重い足取りで野営地へ戻っていた。
魔物の巣の攻略は成功した。
だが、予定より時間がかかり、消耗も激しかった。
エレナの杖は先端の宝玉が黒ずみ、火力が安定しない。ガレスの鎧は肩当てが外れかけ、マリウスは苛立ったように荷物を漁っている。
「レオンの記録帳はどこだ」
マリウスが言った。
ガレスが眉をひそめる。
「知らん。あいつが持っていったんじゃないのか」
「いや、予備の写しがあったはずだ。魔物の分類表と、装備の整備予定がまとめられたものが」
「そんなものまであったのか」
「……あったはずだ」
マリウスの声は歯切れが悪い。
普段、彼はレオンの記録を馬鹿にしていた。細かすぎる、実戦では役に立たない、学術的価値が低い。そんなことを何度も言っていた。
だが今、彼が探しているのはその記録だった。
カイルは焚き火の前に座り、聖剣を膝に置いていた。
刀身の根元に、ひびがある。
見間違いではない。
さっきの戦闘で、ひびはさらに伸びた。
「カイル」
エレナが声をかける。
「王都に戻ったら、鍛冶師に見せた方がいいわ」
「必要ない」
「必要あるわよ。聖剣でも壊れる時は壊れる」
「壊れない」
カイルは低く言った。
「これは聖剣だ。俺が選ばれた証だ」
「でもレオンは――」
「その名前を出すな!」
カイルの怒声に、エレナは黙った。
ガレスが重く息を吐く。
「怒鳴っても、ひびは消えんぞ」
「お前まで俺に指図するのか」
「指図じゃない。事実だ」
空気が悪くなる。
以前なら、こういう時、レオンが間に入っていた。
装備の話にすり替えたり、次の行程を確認したり、火に薪を足しながら自然に場を流していた。
今は誰もやらない。
焚き火の炎だけが、ばちばちと乾いた音を立てている。
マリウスがようやく古い紙束を見つけた。
「これだ」
彼は紙を開き、眉をひそめる。
「……細かいな」
そこには、魔物の活動周期、地形ごとの注意点、各自の装備点検日、消耗品の補充予定、カイルの聖剣の状態まで書かれていた。
最後の項目に、赤い線が引かれている。
《聖剣アークレイヴ:内部亀裂進行。次回大規模戦闘前に必ず再調整》
マリウスの顔色が変わった。
「どうした」
ガレスが覗き込む。
「……いや」
「見せろ」
ガレスが紙を奪うように受け取り、目を通す。
そして、カイルを見る。
「おい。これ、レオンは前から気づいていたんじゃないか」
カイルは答えない。
エレナも紙を見た。
「だから、昨日……」
カイルの手が聖剣の柄を強く握る。
「黙れ」
「カイル」
「黙れと言っている!」
怒鳴った拍子に、聖剣がわずかに揺れた。
その瞬間。
ぴしり、と音がした。
焚き火のそばにいた全員が、動きを止める。
聖剣のひびが、ほんの少しだけ広がっていた。
誰も何も言わなかった。
言えなかった。
リベル村では、夕方になっても水車がゆっくり回っていた。
完全な回転ではない。軋みもある。途中で何度か止まりかけた。それでも、村人たちはそのたびに水量を調整し、軸に油を差し、慎重に動かし続けた。
村長は俺に、空き家をしばらく自由に使っていいと言った。
「村を助けてもらっておいて、何も返せんのが心苦しいが」
「十分です。宿代が浮きます」
「若いのに欲がないな」
「追放されたばかりなので、欲を出す余裕がないだけです」
そう言うと、村長は目を丸くした。
「追放?」
「あ」
しまった。
つい口が滑った。
村長は何かを聞きたそうにしたが、すぐに首を振った。
「話したくなったら聞こう」
「すみません」
「誰にでも、言いたくない荷物はある」
そう言って、村長は水車の方へ歩いていった。
俺は空き家へ戻る途中、セリアが井戸のそばに立っているのを見つけた。
彼女は両手で水をすくい、じっと見つめていた。
「セリア?」
「あ、レオンさん」
「どうしました?」
「いえ……水って、こんなに綺麗だったんだなと思って」
「神殿にも水はあったでしょう」
「ありました。でも、こんなふうに誰かが喜ぶ水を見たのは初めてです」
セリアは手の中の水をそっと地面へ戻した。
「神殿では、聖水も祈りも、正しく扱えなければ意味がないと言われました。私はいつも正しくできなかった。だから、何も持っていないのと同じだと思っていました」
「正しくできるようになればいいんじゃないですか」
「簡単に言いますね」
「簡単ではないです。でも、不可能ではない」
セリアは俺を見る。
「レオンさんは、どうしてそう思えるんですか」
俺は少し考えた。
どうしてだろう。
勇者パーティーでは、俺も無能だと言われた。
鑑定しかできない、戦えない、役に立たない。
昨日までの俺なら、その言葉を半分くらい信じていた。
でも今は、井戸が戻り、水車が回り、セリアが笑っている。
「壊れている場所が見えるから、かもしれません」
「壊れている場所?」
「どこが壊れているのか分かれば、そこから考えられます。全部がだめなわけじゃないって分かる」
「全部がだめなわけじゃない……」
セリアはその言葉を、口の中で繰り返した。
それから、少しだけ微笑んだ。
「私、その言葉好きです」
「そうですか」
「はい。神殿で言われた言葉より、ずっと」
夕日が井戸の水面を赤く染めている。
村のどこかで、子供の笑い声がした。
水車はまだ回っている。ぎしぎしと不格好な音を立てながら、それでも止まらずに。
俺はその音を聞きながら、思った。
ここには、壊れたものが多い。
井戸も、水車も、納屋も、畑も。
セリアの魔力も。
たぶん、村人たちの心も。
そして、俺自身も。
でも、それは終わりという意味ではない。
壊れているなら、直せるかもしれない。
その夜、空き家に戻った俺は、古い机の上に羊皮紙を広げた。村長がくれたものだ。
そこに、今日見たものを書き出していく。
井戸。
水車。
補助魔石。
セリアの魔力回路。
封印痕は残り二つ。
防衛結界の状態は未確認。
北の森の祠。
古い結界石。
書けば書くほど、この村の不調がひとつに繋がっている気がした。
井戸が枯れた。
水車が止まった。
畑が痩せた。
魔物が増えた。
セリアのような捨てられた者が流れ着いた。
偶然かもしれない。
だが、俺の鑑定は告げている。
《リベル村・広域状態》
《魔力循環:不安定》
《防衛結界:破損》
《魔物誘引反応:微弱》
俺は筆を止めた。
「魔物誘引反応……?」
その文字だけが、嫌に不穏だった。
村は守られていない。
むしろ、何かが魔物を呼んでいる。
空き家の外で、水車の音が遠く聞こえる。
平和な夜の音に混じって、村の外の森から低い遠吠えが響いた。
俺は羊皮紙を握りしめる。
明日、まず見るべきものが決まった。
リベル村の防衛結界。
それが壊れているなら、この村はまだ救われていない。




