第32話 ローゼン家の使者
朝のリベル村は、いつもより早く目を覚ました。
誰かが大声を出したわけではない。鐘を鳴らしたわけでもない。
それでも、村人たちは普段より早く家を出て、井戸の水を確かめ、木柵を見回り、治療所の棚を整えた。
魔物が来る朝とは違う緊張があった。
相手は牙も爪も見せない。
笑顔で来る。
礼儀正しく頭を下げ、支援を申し出る。
だから、厄介だった。
村の入口には、昨日トマが書き直した木札が立っている。
『来訪者は村長宅へ。
井戸・水車・結界への無断接近を禁ず。
契約書はその場で署名しない。
治療所への立ち入りは許可制。
発言は記録される。』
トマはその木札の隣に立っていた。弓は背負っているが、手には持っていない。これも決めておいたことだ。
最初から武器を構えれば、こちらが敵意を見せたことになる。
でも、すぐ手に取れる場所には置く。
それが今日の距離感だった。
「来たぞ」
見張り台の少年が、街道の先を指さした。
馬車は三台だった。
一台目は紋章入りの客車。
二台目は物資を積んだ荷馬車。
三台目は護衛兵を乗せた馬車。
薔薇を囲む盾の紋章。
ローゼン侯爵家。
リーゼは村長宅の前で、その紋章をじっと見ていた。
顔色は悪くない。
だが右手は剣の柄に触れそうな位置で止まっている。
セリアが隣に立つ。
「一緒に怖がりましょう」
「……ああ」
リーゼは短く答えた。
「私は怒りも混じっているがな」
「怒ってもいいと思います。でも、今日は記録です」
「分かっている」
俺も二人の横に立った。
「単独接触はしない。相手の持ち物には触らない。契約書は必ず鑑定。能力確認は即答しない」
「分かっている」
「はい」
二人の返事を聞いて、俺は自分にも同じことを言い聞かせた。
怒りで動かない。
見る。
記録する。
拒否する。
馬車が村の入口で止まった。
扉が開き、最初に降りてきたのは若い貴族風の男だった。年は二十代後半くらい。銀に近い淡い金髪を後ろで結び、深緑の外套をまとっている。柔らかな顔立ちで、見る者に警戒心を抱かせない笑みを浮かべていた。
その後ろから、文官らしい細身の男と、治癒師風の女、護衛兵が二人降りる。
若い男は村の入口の木札を見て、軽く目を細めた。
「発言は記録される、ですか。実に堅実ですね」
声は穏やかだった。
村長が一歩前へ出る。
「ようこそ、リベル村へ。村長のバルドです」
男は丁寧に頭を下げた。
「ローゼン侯爵家の名代として参りました、アルヴィン・ローゼンと申します。突然の訪問にも関わらず、お迎えいただき感謝いたします」
ローゼン家の名を持つ者。
リーゼの肩がわずかに強張った。
アルヴィンはそれに気づいたはずだ。
だが、視線を向けるのは一瞬だけに留めた。
うまい。
わざとらしく見ないことで、逆に相手を揺らすタイプだ。
「本日は、リベル村の復興状況を拝見し、必要な支援をご相談できればと考えております」
村長は頷く。
「承知しました。ただし、村内は復旧作業中です。案内はこちらで行います。井戸、水車、結界、治療所への無断接近はご遠慮ください」
「もちろんです」
アルヴィンは笑顔で答えた。
「我々は友好のために参りました。村の負担になることは望んでおりません」
友好。
その言葉が、やけに綺麗に響いた。
綺麗すぎて、冷たかった。
村長宅へ移動する間、ニコルが少し後ろで記録板を抱えて歩いていた。
手は震えている。
でも逃げない。
アルヴィンはそれに気づき、微笑んだ。
「記録係の方ですか」
「は、はい。ニコルです」
「若いのに立派ですね」
「あ、ありがとうございます」
ニコルは少し照れたが、すぐに顔を引き締めた。
相手は褒めて距離を縮めてくる。
これも技だ。
村長宅の机には、あらかじめ席順を決めてある。
村側は村長、俺、ニコル。
少し離れてセリアとリーゼ。
トマは入口付近。
ローゼン側はアルヴィン、文官、治癒師。護衛兵は外で待つことになった。
アルヴィンは部屋を見回し、柔らかく言った。
「温かい家ですね」
「古いだけじゃ」
村長が返す。
「古くても、よく手入れされています。良い村なのでしょう」
言葉は丁寧。
敵意は見えない。
だからこそ、皆が緊張していた。
アルヴィンは文官に合図をし、巻物を机に置かせた。
「まず、ローゼン侯爵家からの支援案をご説明いたします。魔石、木材、鉄材、薬草、布、護衛兵の一時派遣、技師の派遣。必要であれば、治癒師の巡回も可能です」
並ぶ品は、どれも欲しいものだった。
グランベル商会と同じだ。
いや、もっと魅力的に整えてある。
村長は動じない。
「ありがたい話ですな。条件は?」
アルヴィンは微笑む。
「もちろん、一方的に押しつけるつもりはありません。古代結界という危険な設備を扱う以上、王都側との連携が必要です。そこで、まずは共同調査を提案いたします」
「共同調査」
「はい。リベル村の古代結界、井戸、水車、地下設備の有無、治療能力者の状態、特殊戦闘能力者の状態。これらを確認し、適切な支援計画を立てるためです」
地下設備の有無。
治療能力者。
特殊戦闘能力者。
狙いは明確だった。
セリアの指が膝の上で強く握られる。
リーゼの視線が鋭くなる。
俺は契約案の巻物に視線を落とした。
「書面を確認しても?」
「もちろんです。レオン・アスター殿の鑑定眼は、王都でも評判ですから」
アルヴィンは笑った。
褒めているようで、こちらの力を知っていると言っている。
俺は巻物に直接触れず、机の上に置いたまま鑑定した。
《貴族家支援提案書》
《表面目的:辺境復興支援》
《隠れた拘束条項:あり》
《術式反応:微弱》
《才能封鎖術式類似反応:契約印章部》
《危険度:高》
やはり。
契約印章部。
署名や印を押す場所に、微弱な術式がある。
俺は顔を上げた。
「この提案書には、契約印章部に術式反応があります」
部屋の空気が変わった。
アルヴィンは笑みを崩さない。
「貴族家の正式文書には、改竄防止のための術式が入っています。珍しいものではありません」
「改竄防止にしては、本人の魔力署名へ干渉する形です」
文官の表情がわずかに動いた。
アルヴィンは静かに俺を見る。
「ほう。そこまで見えますか」
「鑑定士ですので」
俺は提案書の該当部分を指した。
触れない。
ただ示すだけ。
「この印章部に触れて署名すると、署名者の魔力癖が記録されます。通常の契約確認以上に深い。さらに、契約対象者が“協力意思あり”と解釈される可能性があります」
「それは王都式の契約では一般的です」
「ここはリベル村です。その場で署名しないと掲示しています」
トマが入口で木札の方を親指で示した。
「書いてあるからな」
アルヴィンは少しだけ笑った。
「確かに。村の規則は尊重しましょう」
彼は文官に合図し、提案書を一度戻させた。
早い。
危険を見抜かれたら、無理に押さない。
次の手に移る気だ。
「では、書面契約は後日にしましょう。本日は状況確認だけでも」
村長が問う。
「どこを確認したいと?」
「井戸、水車、外周結界。それから治療所と、セリア・ルミナス殿、リーゼ・ヴァルト殿、レオン・アスター殿の能力確認です」
直接来た。
セリアの顔が少し青くなる。
リーゼは黙っている。
村長は穏やかに言った。
「井戸、水車、外周結界は、こちらの案内で外観のみ確認いただく。治療所への立ち入りは許可制。能力確認は本日行わぬ」
アルヴィンの笑顔は変わらない。
「理由を伺っても?」
「怪我人と治療補助者の安全のためじゃ。能力確認は、防衛局またはギルド立ち会いのもと、本人意思確認を経て行う」
ニコルがすぐに記録する。
本人意思確認。
この村の合言葉みたいになっている。
アルヴィンはセリアを見た。
「セリア・ルミナス殿。あなたは神殿から離れた聖女候補と聞いております。神殿へ戻り、正式な保護を受ける意思はありませんか」
セリアは一度息を吸った。
俺もリーゼも、口を挟まない。
これは彼女が答えるべきところだ。
「現時点ではありません」
声は小さめだったが、はっきりしていた。
「私はリベル村で治療補助を続けたいです」
「神殿の保護を受けずに?」
「はい」
「危険な力を抱えたまま、辺境村にいるのは不安では?」
優しい声だった。
だが、その言葉はセリアの不安に触れようとしている。
セリアの手がわずかに震えた。
リーゼが少しだけ体を動かす。
だが、何も言わない。
セリアは続けた。
「怖いです。でも、私はここで自分の力を学び直しています。誰かに決められて戻るつもりはありません」
アルヴィンは頷いた。
「立派なお考えです。ただ、神殿側はあなたを心配しているかもしれません」
「心配なら、まず私の意思を聞いてほしいです」
セリアはそう言った。
部屋が静まった。
その言葉は強かった。
アルヴィンは少し目を細めた。
「なるほど。記録に残る言葉ですね」
ニコルが、かりかりと筆を動かしている。
「はい。残しています」
ニコルの声は震えていたが、負けていなかった。
次にアルヴィンはリーゼへ視線を向けた。
「リーゼ・ヴァルト殿。あなたがこちらにいるとは、王都でも驚く者が多いでしょう」
「そうだろうな」
リーゼは短く返した。
「騎士団へ戻る意思は?」
「今はない」
「名誉を取り戻したいとは思いませんか」
リーゼの目がわずかに鋭くなる。
「私の名誉は、王都が預かっているものではない」
アルヴィンの笑みが少しだけ深くなった。
「さすが、かつて剣姫と呼ばれた方だ」
「その名で呼ぶな」
「失礼しました」
謝罪は早かった。
だが、わざと呼んだのは明らかだった。
リーゼは剣の柄に手を置かなかった。
膝の上で拳を握っている。
「私は今、リベル村の防衛役として滞在している。本人意思によるものだ」
ニコルが記録する。
「本人意思によるもの、と」
アルヴィンはそれを聞き、少し笑った。
「この村は、意思確認を大切にするのですね」
村長が答える。
「人を物のように扱わぬためじゃ」
「なるほど。実に尊い」
言葉は丁寧だが、少し薄い。
次にアルヴィンは俺を見た。
「レオン・アスター殿。あなたの能力確認についてはいかがでしょう。古代結界を直し、魔物誘導術式を見抜いた鑑定士。王都としても非常に関心があります」
「必要があれば、防衛局とギルド立ち会いのもとで対応します」
「ローゼン家では不足ですか?」
「不足というより、担当が違います」
「我が家は辺境支援に長く関わっております。優秀な鑑定士を適切な場へ紹介することもできます」
「今はリベル村の復旧が優先です」
「あなたほどの才を、辺境村一つに留めるのは惜しいと思いませんか」
その言葉に、村人ではなく俺を直接揺さぶる意図が見えた。
王都へ出れば、もっと評価される。
もっと大きな仕事がある。
こんな村にいるのはもったいない。
昔の俺なら、少しは揺れたかもしれない。
でも今は違う。
「リベル村一つを軽く見る人に、王国全体の復興は任せられないと思います」
アルヴィンの笑みが止まった。
ほんの一瞬だけ。
リーゼが横で小さく息を吐いた。笑ったのかもしれない。
セリアはまっすぐ前を見ている。
村長は静かに頷いた。
「村も王国の一部じゃ」
村長が言葉を重ねる。
「この井戸も、水車も、結界も、ここで暮らす者には命綱です。支援はありがたい。だが、村を小さく見る支援なら要らぬ」
アルヴィンはしばらく村長を見つめた。
やがて、穏やかな笑みを戻す。
「失礼いたしました。辺境の村を軽んじる意図はありません。ただ、広い視点で申し上げたまでです」
「広い視点は結構じゃ。だが、足元の井戸を見落とす者に水は汲めん」
トマが入口で「村長、今日も冴えてるな」と小声で呟いた。
ニコルがそれまで書きそうになり、慌てて止めた。
次に、ローゼン家の治癒師が口を開いた。
薄紫の衣を着た女性で、ここまでほとんど発言していなかった。
「セリア様の魔力状態について、非接触で確認することは可能です。簡易鑑定具を用いるだけですので、危険はありません」
彼女は小さな銀の輪を取り出した。
中枢室の警告が脳裏をよぎる。
装身具。鑑定具。
俺は即座に言った。
「その道具を机に置いてください。触れずに鑑定します」
治癒師の表情が少し硬くなる。
「これは治癒師組合でも使われる安全な道具です」
「机に置いてください」
俺は繰り返した。
アルヴィンが穏やかに言う。
「レオン殿、警戒が過ぎるのでは?」
「昨日、危険な術式反応を確認しています」
あえて言った。
全ては明かさない。
だが、こちらが警戒していることは示す。
アルヴィンの目が少し細くなる。
「危険な術式反応、とは?」
「詳細は防衛局およびギルドへ報告済みです。村では、外部鑑定具への接触を当面制限しています」
ラウル査察官とミリア監査員の名前は出さない。
だが、既に報告済みと示すことで、隠れているわけではないと伝える。
治癒師は渋々、銀の輪を机に置いた。
俺は鑑定する。
《簡易魔力鑑定具》
《表面機能:魔力量測定》
《隠し機能:魔力回路写し取り》
《術式反応:才能封鎖術式類似》
《危険:対象者接触時、魔力回路情報を外部記録》
やはり。
「これは使えません」
俺は言った。
治癒師の顔が険しくなる。
「理由は?」
「魔力量測定だけでなく、魔力回路情報を写し取る機能があります。本人の同意なく行うものではありません」
「治療のためには必要な情報です」
「治療は求めていません」
セリアが言った。
声は震えていた。
でも、はっきりしていた。
「私は今、この道具に触れたくありません」
治癒師は口を閉じた。
アルヴィンは静かに手を上げた。
「分かりました。ご本人が望まないなら、無理にとは申しません」
無理にとは。
つまり、本人が望めばやるつもりだったということだ。
今度は文官が別の書類を取り出した。
「では、能力確認ではなく、支援物資受領の仮同意書だけでも」
「その場で署名しない」
トマが入口から言った。
文官が顔をしかめる。
「これは契約ではなく、受領意思の確認です」
「同じです」
俺が鑑定する前に、村長が言った。
「書面は預かる。返答は後日じゃ」
「支援物資は本日中に置いていけますが」
「契約前の物資は受け取らぬ」
村長は即答した。
アルヴィンが少しだけ感心したように言った。
「徹底していますね」
「昨日今日で学んだ」
「グランベル商会の件ですか」
出た。
相手から名前を出してきた。
「ご存じでしたか」
俺が尋ねると、アルヴィンは柔らかく笑った。
「王都の商会が辺境支援に動くことは珍しくありませんから」
「そうですか」
リーゼの視線が鋭くなる。
グランベル商会とローゼン家の繋がりを、向こうは隠している。
だが、知っている。
このやり取りも記録に残る。
やがて村長は立ち上がった。
「では、井戸と水車、外周結界の外観だけ案内しよう」
「治療所は?」
治癒師が尋ねる。
「外観のみじゃ」
「セリア様の治療記録は?」
「本人および村の許可なく閲覧不可」
セリアの肩から、少しだけ力が抜けた。
案内は予定通り行われた。
井戸の前では、アルヴィンが水を覗き込む。
「美しい水ですね。王都でも十分価値がある」
トマが小声で「売らねえぞ」と言った。
ニコルがそれを書きそうになって、また止めた。
水車の前では、文官が仕組みを聞きたがったが、俺は低速稼働の範囲だけ説明した。
外周結界では、護衛兵の一人が何気なく結界柱へ近づこうとした。
リーゼがすっと前に立つ。
「触るな」
静かな声だった。
護衛兵は一瞬むっとした顔をしたが、アルヴィンが手で制した。
「失礼。勝手に触れぬよう言っておきます」
「記録しました」
ニコルが思わず言った。
護衛兵の顔が強張る。
トマが満足そうに頷いた。
案内を終え、村の入口へ戻る頃には、日が少し傾いていた。
アルヴィンは最後まで礼儀正しかった。
「本日はありがとうございました。支援案については、改めてご検討ください」
「書面を預かり、確認の上返答する」
村長が言う。
「もちろんです。ただ、リベル村が今後も王都と良好な関係を築けることを願っております」
柔らかい言葉。
だが、その奥に圧がある。
リーゼが一歩前へ出た。
「アルヴィン・ローゼン」
初めて、相手を名で呼んだ。
アルヴィンは振り返る。
「何でしょう、リーゼ殿」
「私は、今ここにいる」
「見れば分かります」
「王都に、そう伝えろ。私は消えていない。剣も折れていない」
空気が張り詰めた。
アルヴィンはリーゼの腰の剣を見る。
そして、微笑んだ。
「承知しました。お元気そうで何よりです」
「それから」
リーゼは続けた。
「私を剣姫と呼ぶな。次に呼んだら、記録に残す」
ニコルが慌てて書いた。
アルヴィンは笑みを少し深くした。
「覚えておきましょう」
馬車が村を出ていく。
誰もすぐには喋らなかった。
完全に追い返したわけではない。
支援案は残された。
向こうはこちらの様子を見た。
こちらも相手の道具と文書の危険を確認した。
初戦は、終わった。
トマが大きく息を吐いた。
「あー……魔物の方が分かりやすい」
「同感です」
俺もそう答えた。
セリアは少しふらつき、慌てて治療所の椅子へ座った。
「大丈夫ですか」
「大丈夫です。今度は本当に、緊張が解けただけです」
「それも記録します」
セリアが苦笑した。
「自分で書きます」
リーゼは馬車が消えた道を見つめていた。
右手は震えている。
けれど剣の柄は握っていない。
「言えた」
小さな声。
「私は、消えていないと」
「はい」
リーゼは少しだけ目を伏せた。
「まだ怖い。だが、言えた」
セリアが隣に立つ。
「私も、触れたくないと言えました」
「そうだな」
二人は顔を見合わせた。
傷ついた者同士が、小さな勝利を確かめ合うように。
その夜、地下工房で今日の記録をまとめた。
『ローゼン侯爵家名代アルヴィン・ローゼン来訪。
支援案提示。
共同調査、能力確認、治療所記録閲覧、特殊鑑定具使用を求める。
提案書の印章部に才能封鎖術式類似反応。
治癒師の簡易鑑定具に魔力回路写し取り機能および類似術式反応。
全て即時拒否または保留。
井戸、水車、外周結界は外観のみ案内。
セリア、鑑定具接触を本人意思で拒否。
リーゼ、王都への伝言として“私は消えていない。剣も折れていない”と発言。』
書き終えると、中枢室の結晶柱が淡く光った。
《外部圧力:継続》
《才能封鎖術式反応:一時離脱》
《証拠記録:増加》
《推奨:警戒継続》
一時離脱。
つまり、終わっていない。
当然だ。
でも今日は守れた。
契約書にも、鑑定具にも、言葉にも、飲まれなかった。
俺は最後に個人記録へ一文を加えた。
『今日は、誰も自分の意思を奪われなかった。』
それだけで、この日の勝利としては十分だった。




