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「山と丘は高さなど一律の基準があって明確に区別されているわけではありません、地域によって同じ高さでも丘と呼ばれたり山と呼ばれたりします……か」
床にしゃがんで祥子はひさしの部屋で山と丘の違いについて調べていた。
そこから祥子はデスク前の窓をスライドさせて換気することにした。
初めて入った時からなんとも言えない独特な臭いが気になっていたからだ。
「なんだろう、この臭い。ずっと嗅いでいると頭がぼーっとするような……」
外気を吸いながら二階から眺めている。
視点が高くなるだけで見えてくる風景に大きな違いがある。
ひさしの部屋から外を眺めるのは初めてなので余計にそう強く思う。
「あれは丘だけど、あっちはさすがに山でしょ」
そう判定しながらこの辺りにあんな鳥居がある茂みは本当にあるのか? と探してみた。
改めてひさしのパソコンを開きあの写真達を見てみたくなった祥子。
あの時は山口の横から立って見ていたので、細かい箇所まで見ることができなかったからだ。
ふと各サイトのパスワード一覧がメモされている紙が目に入る。それが裏面になっていたが……。
『もうやらないと誓ったが、やはり悪事はいつか必ず暴かれるのか。もう遅いのであろうか?』
と殴り書きみたいに書かれていた。
「……どういうこと?」
気になる文章だが祥子は先にパソコンを開き写真アプリをクリックする。
しかし、いくらスクロールさせても朽ちた鳥居や祠、例の小屋の写真はなかった。
その代わりにあったのはーー
「あの空き家の写真……」
丸々あの空き家の写真に入れ替わっていた。
「動画は……」
動画は……動画はデータそのものすらなかった。
どういうことだ。
「こんな写真あったっけ?」
その代わり薄い赤色で、指輪のような形状で光っている黒い穴が収められた写真が。
特別な穴がある、山口はそう言っていた。
まさかその穴を潜るとあそこへ行けるとでも言うのか?
思えば何者かに操られていたように有無を言わさず外へ出た山口、祥子は換気をしてあの臭いを外へ流すと頭がスッキリした……。
祥子は駆け降りる。
玄関まで行き靴を履こうとしたが、それよりも電話した方が早いかもしれないと思った時にーー
インターホンが鳴る。誰だこんな時に。山口ではないだろう。
ただならぬ訪問者のような気がしたが、あの時のように無視する気にはなれなかった。
「はぁい。開いてますよー」
それでもこちらから開ける気にはなれなかった。
カチャ、とドアノブを引っ張る音。
訪問者は……暗くてよく見えなかったが、このシルエットは見慣れている。
「ひ、さしさん……?」
「その声、祥子か! なんで祥子がこんな所にいるんだ?」
そんなのここが私達の家だからだろう。何回そう聞いてくるつもりだ。
「こんなでかい家、さっきはなかった。そこに祥子がいるってどういうことだ……」
この家は無かったって。このひさしはどこから来たひさしだ?
「おめでとうございます。生還のチャンスがやってきました」
「君は……」
「あなたは池袋にはよく来られるのですか?」
その言葉……あのメールに書かれていた。この女性がミナだ。
「あの時は面白い返しをしてくる子だなとしか思っていなかったが、君は何者なんだ?」
ひさしはその女性にそう聞く。
「被害者の会、会長のような者です。無論あなたの被害に遭われた方々の」
ひさしの被害に遭われた方? ひさしは何を犯したと言うのか。
あの殴り書きの文章がよぎる。




