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澄んだ青空と山岳地帯。地上では山口ひろみがタクシーから降りる。
リュックサックに手提げ袋と泊まりがけの旅行者のようだ。
祥子がキッチンにある戸口から出てきて愛想良く手を振る。
「玄関の鍵は開いているから入ってきて」
「おいっす」
と返すと玄関へと回る山口。
「お邪魔しまーす」
「ごめんね。わざわざ東京から」
「ちょうどこっちで取材する仕事があったから大丈夫。交通費も後から支給されるし。それより祥子は大丈夫なの」
「私は……一人ではしんどいかも。お葬式は近所の人達も色々と手伝ってくれたけど、それも落ち着いてこうしてまた一人になったら……」
語気はしっかりしている祥子であったが頬からやつれているとみて取れる。
「急な上にあんな亡くなり方だったもんね」
石上ひさしは急逝した。なぜか?
死因は心不全らしい。
二週間ほど前の昼間。家の屋根で倒れている所を前を通りかかった通行人が発見したのだ。
おそらく二階にあるトイレの窓を開けて屋根へ行ったのだろう。
「亡くなった場所がどう考えても普通じゃないって。それでも事件性はないって判断されたの?」
「うん。私もその日はずっと家にいたけど侵入者なんていなかったし」
「その日、二階で不審な物音もしなかったの? ひさしさんの声とかは?」
「特に気になるような音はしなかったと思うよ。ただ何か作業でもしているのかなーって音はしてたけど、それって日頃からよく聞く音だったし」
「そう。でも家の屋根なんかに行くってどんな時だと思う?
一、屋根を修理しなければいけない時。二、屋根に物が落ちて拾いに行く時。三、緊急事態の時。火災でもう屋根から飛び降りて脱出するしかない時、または何者かに襲われて逃げ道がここしかない時。そうでしょ?」
「うん……そうかもね。あまりにもの苦しみでおかしくなったんじゃないかって言われたけど」
「なんで苦しいのに屋根なんかに行くの。屋根には窓を開けて足を高く上げてよじ登らないと行けないのに。それなりの労力がかかる。それこそおかしいでしょ」
山口はひさし急死の裏にはまだ何かがあると思っているようだ。
「そうなんだろうけど、部外者が関わっている証拠がない以上は体調の急変でおかしくなって屋根で亡くなったとみるしかないんじゃ……」
「その部外者がもしも人間ではなかったら?」
「何を言っているの? ひろみ」
それでも山口は毅然としている。
二人はリビングへ行き、祥子はお茶と山口が東京駅で買ってきてくれたお土産の洋菓子を出す。
「祥子はひさしさんがどんなことを書いて仕事をしているのかは教えてもらってないんだよね?」
「うん。顔出しNGの作家として活動しているからってどんなことを書いて収入を得ているのか聞かされていない」
「とはいえ、もうひさしさんが亡くなってしまったからには相続のこともあるしその件で今日は実は私が説明しに来たの」
「そうだったの!?」
「ひさしさんはね……ホラー作家としてブレイクした人なの」
「ホラー作家……怖い話を書く人ってこと?」
「うん。実話じゃなくてフィクションの方ね、小説ってこと。けどひさしさんがホラー小説を書き始めたのは三年くらい前でそれまでは小説家ではなくたフリーライターだった。書いていた記事もホラーとは無縁の」
「そうなの」
「知り合いからしてみればなんでホラー、しかも小説というフォーマットで書き始めたのか分からなかった。それも一発目から大ヒットを飛ばした。私はひさしさんに何があったのか聞いてみたの」
「それでなんて答えたの?」
「幽霊が見えるようになったからだって。それで他の作家には真似できない迫真の描写が書けるようになったと」
「うそ……」
「ただの見栄かもしれないけどね。それでも傑作を生み出したのは本当の事。このヒットでひさしさんは念願の専業作家になってここへ引っ越すことになる……引っ越した理由も何かあるんじゃないかと思っているんだけど」
「自然に囲まれた所で書けばストレスも軽減されるからじゃないの?」
「この土地……どうやら事故物件みたいなの」




