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この世界の悪役は僕たちだけでいい  作者: おーやま辰哉
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14話 冗談でカプリチオ

水曜日のオヤツターイム!

今日の話は甘めで行こうか

 ディードリア商会を追い返した僕は、改めて前任の四天王ユキトやスラムの現状を聞く事にした。

 もちろん酒もつまみも用意して、だ。

 酒の席が好きな訳ではないのだが、どうにも異世界に来てから困ったら宴会する癖がついてしまった。


「で、僕はどの辺りから聞いたら現状が理解できそうなんだろうか」


 聞くもの全てが初めてのものなので順を追って話してもらった方が良いと思った。

 冒険者の事すらよく知らないいままアークウィルに来た僕の知識の無さを舐めない方がいい。

 開き直った僕に愛想笑いをしたポウロは服のポケットから地図を取り出し、机に広げた。


「ではまずこの世界の話をしようか」


 ポウロの説明は長いので端折るが、この世界には三つの大陸があり、そのうちの一つに僕らは居る。

 女神の加護が一番強く、数千年の歴史の中で一度も滅びることがなかった強国の名がランドライズ王国。僕が転生されてぶっ倒れてた国だな。

 王国と隣り合い、なおかつ魔族の国を取り囲んでいた国が帝国と共和国らしいのだが、今は関係無いからパスパス。


「王国は女神が遣わした転生者が最初に降り立つ地であり、彼ら転生者は王国でこの世界の知識を得る」


 それすなわち、偏った思想を植え付けやすい環境って話で。

 みんな王国で魔族と魔物は敵って習うし、その常識は他の国にも浸透している。

 そもそも女神に世界を救うように言われて転生するのだから、王国での教育は目的が間違っていないか確認し、刷り込むための場所でもある。


「先代魔王様は幾度も人間たちに交渉を持ちかけた。我々は敵ではなく隣人であると」


 だが転生者たちは魔王は倒すべき悪だと刷り込まれた後。

 魔王の言葉に耳を貸すような奴はいなかった。


「常に戦争をしていた。転生者は勇者と名乗り魔王軍に挑み、幾人もの勇者が死んだ」


 もちろん魔族も死んでいるのだが、力量があまりにも違ったらしい。

 勇者は与えられた力を過信し、ろくに鍛えもせず進軍していた。

 そりゃ戦ったことはおろか、まともな運動神経があるやつが転生者の中に何人居たと思う? 僕はほんの一握りだと思うね。

 いくらチートみたいな能力を手に入れても上手く使うには基礎が必要だ。


「そんな中現れたのが勇者アラタと四天王ユキトだ」


「あ、そいつは知ってるぞ。一回戦ったわ」


 自分が何かまずいことを言ったのは空気で理解した。

 みんなドン引きして、ひきつった顔でこっちを見てるし。


「魔王を討った歴代最強の勇者だぞ? お前そんな奴と渡り合えるほど強くないだろ」


「ま、ほぼクルトンが戦ってたようなもんだ」


 とりあえず鍔迫り合いで攻撃を凌いだ話とかはしないでおこう、と思った僕はクルトンになすりつけて話の続きを催促する。


「勇者アラタはこれ以上説明することはないな。問題はユキトの方だ」


 ポウロは僕から目をそらし、渋い顔で語り始めた。


「四天王ユキトは魔王軍に初めて味方した転生者だった」


 白髪で小柄な少年だったらしい彼は、今まで誰も辿り着けなかった魔王の元、謁見の間にポンッ! 何の誇張もなく、そう現れたらしい。

 彼は魔王に人間は女神のせいで狂っていると言った。

 その話に興味を持った魔王は彼と連日連夜議論を交わし、四天王に迎え入れることを決めた。

 もちろん魔族からは反発があった。

 数千年に渡り魔族と手を取り合うことを拒否してきた敵が国のトップに立つのだから。

 批判、誹謗の嵐の中、彼は類まれなる軍才を活かして魔王軍の戦略を高め力を示し、分け隔てない優しさで魔族との距離を縮めていった。


「当時、王国との戦争は五分五分だった。勇者アラタの猛攻は止まらず、四天王ユキトが居なければとっくに魔王軍は全滅していただろう」


 しかしその均衡も破れ、勇者アラタは魔王の元へ到達。

 歴戦の魔族が敗れても、魔王が敗れることは無いと皆信じていた。


「四天王ユキトはな、魔王様の隣に居たんだ」


 最終決戦を魔王と共に挑んだ彼は勇者アラタにではなく、魔王に牙を剥いた。


「左腕を切り落とされた魔王様は突然の凶行に走ったユキトを問いただそうとしたんだ」


 だがユキトは何も答えなかったらしい。

 勇者アラタと共に魔王を討ち、首都を、他の街を襲撃し魔族を裏切った。

 その事実だけが残り、彼は消息を絶った。


「ん? 待て待てポウロ、ユキトはまだ生きてるってことか?」


「さぁな。だがもし生きてるなら聞きたいことはある」


 その先を口にしなかったポウロだが、他の魔族も考えていることは同じだろう。

 なぜ最後の最後で裏切ったのか。

 その答えは本人しか知らない。あるいは勇者アラタなら知っているのかもしれないが、歴代最強の勇者と会話できる気がしない。


「にしてもユキトにそんな背景があるなら、僕が四天王になるのは無理だろう」


 なんでかユノの家族とポウロたちと仲良くなれたが、四天王は魔王に次ぐ国のトップだ。

 民の支持なくして上に立つことなど不可能だろう。

 僕の嘆息にポウロはそんなことは無いと人差し指を立てる。


「四天王には必ず後見人が付く。そこで出てくるのがディードリア商会だ」


 ああ……そういや居たな、そんな奴ら。

 だいぶ気分が良くなって来た所で店長が話を遮り、つまみを作ってくると言う。

 それなら一旦小休憩にしようと全員エールを煽っていた時、背中に悪寒が走る。

 次の瞬間、店の扉がぶっ壊れる勢いで蹴り開けられ、びっくりして椅子から転がり落ちた僕の前に彼女は立った。


「昼間っから何してるんですかレオさん?」


「や、スラムいちの知識人様と歴史の勉強をだな──」


──パァンッ!


 問答無用の平手打ちが僕の左頬を襲う。

 昨日殴られたところでまだ痛いんだけど、弱点狙うの上手だねユノ?

 心底軽蔑した目で僕を見下すユノに気圧され、僕はおとなしく土下座する道を選んだ。


「すみませんすみませんすみません……」


 その姿を見てため息を漏らすユノは店内に居た魔族に毅然とした態度で声を掛ける。


「レオさんの教育は私の仕事であります。次期四天王を堕落させないでいただきたい」


 ひーん、みんな助けて。

 ユノに後ろ襟を掴まれた僕は呆然とする飲み友たちに助けを求めながら店を後にする。

 もしかして家までこのまま引きずれ回されるのでしょうか?


「……完全にダメ男だよなアレ」


「ユノちゃんの尻に敷かれるなら本望だろ」


 おーい、聞こえてますよー? そのダメ男四天王になる予定なんですけどー?

 悲しきかな僕の声はスラムの喧騒に消され、その姿も人混みに消えるのであった。




▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲




「というわけで、ただいま」


「どういう訳か知らないけど何で左頬に手形ついてるのレオ義兄さん?」


 次女のシュリちゃんがお出迎えしてくれたのだが、その説明をすると自分が本当にダメ男だって自覚する羽目になるからそっとしておいてほしい。

 笑って誤魔化した僕はユノに引きずられて土が付いたコートやズボンを払い、ソファに座る。


「さて、ユノ。僕はちゃんと情報収集しに行っていてだな」


 お茶を淹れていたユノが座ったタイミングで話を切り出してみたが、飲んでいた事実は覆らないので言い訳をとりあえず並べようとした。

 しかしユノは無言でお茶を啜り、僕の言い訳など聞くつもりもないのか目も合わせてくれない。


「すみませんすみませんすみません……」


 結果、許してくれるまで僕は土下座をし続けることにした。

 下宿一日目にして最悪のスタートである。


「はぁ……。それでどこまで勉強したんですか」


 ようやく許しが出たのは五分後。一時間ぐらいは覚悟していたのだが、流石に家族の目線がキツかったのだろう。


「先代魔王がどれだけ民に信頼されていたか、そんな魔王を支えた転生者が何をしたかって所まで。でもイマイチ実感湧かないんだよなぁ」


 僕はポウロや店の客に教えてもらった事をユノに聞かせる。

 本当に僕が勉強していたとは思わなかったのか、目を丸くして話を聞いてくれる姿が愛らしい。先程までの鬼の形相が嘘のようだ。


「絶対失礼なこと考えてますよね」


「ユノちゃんが可愛いとしか思ってないよ」


「その軽薄さ、直した方がよろしいかと」


 怒って口調が素に戻っているの指摘したいなぁ。指摘したらまた怒ると思うんだよ、私が怒ってる時に何を考えているんですか? とか言っちゃってさ。

 そんな事を考えていたらユノのもふもふした手が俺の両頬を掴み、強制的に正面へと向かされる。


「人の話を聞く時は目を見てください。……まったく、私の旦那様がそんな体たらくじゃ困ります」


「……え?」


 ちょっと聞き捨てならない言葉がありましたね?

 彼氏から旦那様に昇格してるのはどういう事でしょうか?

 まだ出会って二日しか経っていないのですが?

 混乱してユノから目が離せない上に、言葉も出てこない僕を見たユノは手を頬から離してクスクスと笑う。


「冗談ですよ……バーカ」


 チョロかったのは僕でした。

 手のかかる僕への仕返しは効果抜群を通り越して急所に刺さり、ライフはもうゼロだ。


「じゃ、ディードリア商会とスラムの確執を教えますね」


 何事もなかったかのように会話を続けるユノの手を思わず掴む。


「えっ!? レ、レオさん?」


「一生幸せにします」


 跪いた僕、右手を取られたユノ。

 その構図は冗談を本気にした痛い男のガチプロポーズであり、ユノは顔を真っ赤にし、部屋に居たシュリちゃんは絶句し、偶然部屋の前を通りがかったラウルは花瓶を落とし、それを聞き付けた妹たちはニヤニヤと状況を詮索する。


「じょ、冗談で……すよね?」


「ユノ姉が結婚……? 教会に連絡しなきゃ……」


 互いにチョロいのに互いにからかうと大変な事になるんだな。

 おかげでラウルの奴、割れた花瓶をそのままに家出てっちまったよ。

 そして僕は自分の発言を撤回する気はないし、場の空気に慌てふためくユノに追い討ちをかける。

 結果どうなるかって?


「僕は本気だ、ユノ」


「ふ、ふちゅちゅかものですがよろしくお願いします……?」


 部下より先に嫁が出来た。

応援されるとアイスを食べます。

執筆速度とお腹の調子がスピードアップするかも(しないかも)

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