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この世界の悪役は僕たちだけでいい  作者: おーやま辰哉
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15話 首とドブは綺麗に洗いましょう

更新忘れてただろうって?

そんな事あるわけないじゃないですかやだも〜!

「まてまてまてまて! 何をしてるんだレオ、お前ちょっと床舐めとけ?!」


 それは予想外の来客だった。

 まさか魔王が花嫁を奪いに来る展開が待っているとは……流石異世界。

 魔王ステラは僕をユノから引き剥がし、腹を蹴って宣言通り床を舐めさせる。くそ痛ぇ……。


「大丈夫ユノちゃん? あのクソ馬鹿色情魔に変なことされてない? 余がレオを今すぐ地面に埋めてこようか?」


 すみませんでした、埋めるのは勘弁してください魔王様ステラ様。

 室内はオロオロする魔王や満更でもない表情のままのユノ、床をペロペロする僕の三人だけで混沌を極めていた。

 収集がつかなくなったのはほぼ九割型僕のせいだが、ユノも悪いと思う。

 だが惚れた女を悪く言うつもりは無いので、僕はこの惨状を生み出した全ての罪を被る事にした。


「ステラ、聞いてくれ」


「何?」


「全部僕が悪い」


「そうでしょうね!! アンタさては本物の馬鹿ね!?」


 渾身のキメ顔が悪かったのか、場は更に炎上した。




▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲



 

 本気の寸劇を終えた僕らはユノ宅のリビングでお茶を飲む。

 ステラにボッコボコにやられた僕は外れた肩の関節を直しながら話を切り出した。


「それで何でステラがここに?」


 カップを置き一息ついた魔王ステラは呆れた顔で僕の顔を見る。


「思い付きの提案で教育係をユノに押しつけちゃったから、一応アフターフォローでも入れておこうと様子を見に来たのよ。まさか勉強もせずにユノに手を出してるとか思いもしなかったし? 心配損っていうか? ねぇ?」


「いや、勉強はしてるって……。部下もちゃんと集める気でいるしさ」


 もう責められるのは嫌なので手を出してる所には触れない。

 それよりもアフターフォローって何をしてくれる気だったのだろうか? そちらの方が気になったのでステラに聞く。

 ステラは懐からバッジの様なものを取り出してレオの前に置く。


「これは……徽章か?」


「そうよ。余の直属の部下である証。まだ正式な四天王ではないけど、コレさえ身に着けておけば人間だから転生者だからと襲ってくる奴は減るだろうし持っておくといいわ」


 あ、襲われることあるんですね。

 アークウィルに来てから襲われたこと無いからすっかり安心していた僕は早速コートの胸元に徽章を付ける。

 しかしコレを渡すためだけにスラムに来たとは思えない。


「本題はコレじゃないだろ」


 ステラは僕の洞察力に目を丸くし答える。


「……ディードリア商会についての忠告よ。レオがどの組織を後ろ盾に選ぶのか、余に口を出す権利は無い。でもディードリア商会だけはやめてほしい」


「そもそも後ろ盾って何だ? ぶっちゃけ四天王の役割も分かってないから教えてくれ」


 質問をぶつける僕に指をさし、これで勉強したとか言ってるの? と言った顔でステラはユノに目で訴えかける。

 何度も頭を下げたユノはどこからか移動式の黒板を持ってきて咳払いをする。


「コホン。それは私から教えましょう」


 こうして妹たちもリビングに集まり勉強会が始まった。


「そもそも魔族国の領地は広大でした。先代魔王様の支配は絶大でしたが絶対では無かった、そのため各都市に設置したのが魔王の代理人四天王なのです。レオさんも知っての通り現在の魔族は人間に敗北し、残った都市はアークウィルだけ。つまり四天王の役割は昔とは変わりました。クルトン様は魔王ステラ様の側近として。リードリヒ様は魔王軍の統率を。ウィオラ様は魔王不在時の代理と区長の管理をされています」


「そういえば区長っていうのがこの街にはいるんだったな。四天王がやればよかったんじゃないか?」


「区長はこの街が出来る前からその任を務めてきた方々ですから、そう簡単に後退することは出来ませんよ。それに四天王が持つ権力はかつてほどありません」


 黒板に勢力図を書くユノの声は段々と元気がなくなり、部屋の中が静まり返る。

 ハッとして明るく振舞うユノだが、その表情は浮かない。


「アークウィルでは魔王ステラ様も四天王も難民の一人という認識です。そしてこの街が拠点になってから2年経った今も、区長たちは受け入れた側、難民たちは受け入れてもらった側という意識が抜けずにいます」


「その結果なんかあんのか? 結構平和に見えるんだが」


「税の優遇、職の斡旋の偏り、流通制御による利権の独占。他にもありますが、区長側に付く魔族とそうでない魔族との格差はこうして開く一方なんです」


「魔王の力でどうにか出来ないのかよ……?」


 思ったより区長の権力問題は根深いらしく、僕はちらりとステラを見る。


「余には無理。先代と違いただのお飾り魔王だもの」


 ステラの一言は闇が深そうなので無視することにした。

 そんな事よりディードリア商会と後ろ盾の話だ。僕はユノに説明を催促して背筋を伸ばす。


「あからさまなフラグ折る奴が居るー?」


「絶対話し長いから今度聞くわ」


 好意で無視してあげたのにわざわざ聞くもんだからステラは端っこで丸くなっていじけてしまった。


「と、とりあえず、その区長の力が特に強いのがこのスラム地区なの。そしてスラム地区長と最も密接な関係にあるのがディードリア商会なの」


「あー、わかった! 僕がディードリア商会を後ろ盾にして四天王になると区長派になるから、それは避けたいって事か」


「余はレオが区長派になっても構わないけど、そうなった場合ユノが悲しむなぁー」


 ステラの素直じゃない引き留め方に僕は苦笑する。

 元より権力を間違った使い方をする奴は嫌いなので心配無用なのだが、ステラがわざわざ忠告しに来たということは僕がディードリア商会の話に乗ってしまうようなメリットがあったのだろう。

 念の為、そう引っ掛からないように念の為聞いておかねばならない。


「仮に僕がディードリア商会の後ろ盾を得て、区長派になったとして何のメリットがあるんだ?」


「屋敷、強力な装備品、豪華な食事、潤沢な資金が手に入るな。ユノより可愛い子なんて滅多にいないでしょうけど女の子に困りもしないでしょうし? ウィオラから提示された部下十人もすぐ集まるし」


「……デメリットは?」


「ここに居る全員の笑顔は二度と見られないと思え?」


「あーあーあー、僕が悪かった。仲良くなった奴らの笑顔と引き換えに得る力とかロクなもんじゃない」


 淡々と答えていたステラは僕の嫌がる姿を見てご満悦のようで、じゃあ余は帰ると言って玄関へと歩き出す。

 ユノは見送りについて行き、僕は未来の義弟、義妹を抱きしめて裏切らないから安心しろ、とあからさまな小芝居をする。


「レオ、別に余は本気で止めないけど、ユノちゃんを泣かせたらその首即座に斬り落とすから覚悟しておきなさい?」


「毎日綺麗に洗っとくわ」


「泣かせる前提やめんか?!」


 気持ちの良い突っ込みをしてステラは帰った。

 僕はユノが黒板に書いた勢力図を眺めながら自分に問う。


「最初は魔王の部下を名乗って古代兵器を片付けようとしただけだったんだけどな。成り行きで四天王を目指していいものか考えないといけないな」


 僕の目的は女神をぶっ飛ばすことだ。

 それも世界崩壊を防ぐために魔王と共闘することにはなったが本当に四天王になる必要があるのか?

 四天王ウィオラから与えられた一ヶ月の間に答えを出さなければならない。

 そのことを改めて胸に刻み、僕はユノに手伝う家事はあるかと聞きに向かうのだった。




▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲




 それから一週間が経った。

 ディードリア商会の使者が現れることも無く、僕は元気に労働に励んでいた。

 今日は街の下水道掃除を住民たちとしている所だ。


「ポウロさん、こっちは終わりましたよ~」


「おお、早いなレオ。悪いがこっちも手伝っちゃくれないか」


「少し待っててくれ。ユノ、【水魔法】と【掃除】スキルでここ流してくれないか」


「はーい!」


 スコップで側溝のゴミや汚れをかき出し、魔法が使える者が綺麗に流す。溜まったゴミも火の魔法で焼却してしまうし、この世界の掃除は見ていて楽しいし、住民総出で行うため交流も出来るのが良い。

 問題は側溝がめちゃめちゃ臭いことで、鼻が利くタイプの魔族には向いていない仕事だろう。

 それはユノ姉弟も例外ではなく、彼女らは掃除の仕上げ担当だ。


「にしても便利だよなぁ【水魔法】に【掃除】のスキル。掃除させたら右に出る者はいないって感じだよな」


「褒めてくれるのはレオさんくらいですよ。【剣術】などの戦闘スキルの方が欲しかったです」


 魔王軍の衛兵をやってたのだからそう願うのも当然かと思う。

 だがこの下水道掃除の指揮を執っているのはユノであり、嬉々として取り組んでいるのを僕は知っている。


「ったく、剣なんか握ってるよりモップの方が似合うよ」


「……? 何か言いました?」


 その呟きがユノの耳に届くことはなく、僕は首を横に振ってポウロの元へと向かう。

 ユノが戦っている姿を見たことは無いし、彼女は衛兵の時からずっとモップを背負っているのでそもそも戦闘が出来るのかも怪しい。


『地下下水道施設にて壁が崩落しました。壁が崩落しました』


 ポウロさんに声を掛けようと挙げた手がメッセージ画面に触れる。

 一週間ぶりのメッセージはどこにあるか分からない施設の壁が壊れたことを僕に伝え、額から冷や汗を流させる。

 このメッセージが出たということは誰かに危険が及ぶ可能性があるということだ。

 僕は急いで誰かに伝えようとして、いったい誰に伝えるべきなのか悩んでしまう。

 その迷いを吹き飛ばすようにウサギの様な魔族が大声で叫びながら近づいて来た。


「全員武器を用意しろぉぉぉぉ!! 地下に巣くってたデッドラットが溢れ出て来やがったぞぉぉぉぉ!!」


 デッドラット。その名を聞いた全員が顔を青くし掃除用具を捨てて露店や自宅から武器を取ってくる。

 子供は家の中へ入れ、内と外の両側から重いもので扉が開かないように迅速に塞いでいく光景は圧巻で、子供じゃない僕は戦闘要員に数えられているため家の中へ誘導されること無く眺めるだけの置物と化していた。


「レオさんは自分のスキルは分かりますか?!」


「ああ、【プライド】と【寵愛】だ」


「それ、戦えるんですか……?」


「死にゃしない」


 ユノは僕も家の中へしまっておけばよかったと後悔したのか目頭を押さえて唸る。

 古代兵器や勇者相手に生き残っているのだから大丈夫だろうと思っているのだが、デッドラットってそんなに危険なのだろうか?


「私の側からなるべく離れずに戦えますか? デッドラットは数が多い魔物ですから囲まれないように注意してくださいね!」


 戦闘経験がそもそも無いから注意も何もないんだよなぁとは流石に言えず、僕は無言で頷き腰に下げた剣を抜く。

 そして地面が揺れるほどの大群が目の前に現れた。


「囲まれるとかいうレベルじゃない件」


 道幅いっぱいに広がり迫る大群はネズミの洪水で、その大きさも僕の知っているネズミとはまるで違う。

 子猫よりデカいな……。


「ヂュゥゥゥッゥウッゥゥウッ!!!!」


 ドスの効いた鳴き声を合図に、デッドラットは僕らを標的として認識する。

 先頭に居た魔族とデッドラットが衝突し、不穏なメッセージと共に戦いの火蓋が切って落とされた。


『ウサギの魔族の腹部がデッドラットの攻撃により損傷しました』


 これは死ぬかもしれないな……。


さぁ久々の戦闘だ!

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