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この世界の悪役は僕たちだけでいい  作者: おーやま辰哉
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13話 勘違いパレード

雨が降ってますなぁ~。

ストックの進みもイイ感じなので投稿!

 さて、僕が勢いに任せて提案した大宴会が始まって三十分が経過しようとしている。

 スラムの中心地が住民憩いの広場であったため、宴会場に困る事もなく料理も酒も尽きる気配がない。

 その様子に僕は頭を悩ませている訳で……。

 だって経費で落ちないらしいよコレ。

 まだ四天王じゃない僕は無一文のヒモ、つまり金など無い。


「ステラに土下座するか」


「それで肩代わりしてくれると思ってるでありますか?」


「そう言うなよユノ、他に当てないんだから」


 僕に厳しい目線を送るユノは弟や妹の更に料理を盛っている。

 大宴会が始まる前に一度ユノの実家に立ち寄った時に顔を合わせたのだが、大家族だった。

 足場の崩落時に救ったライルも含めて六人。長女のユノ、次女のシュリ、三女のリーフ、四女のエチカ、長男のライル、次男のアース。

 この姉弟全員が犬っ子で、最初は僕だけ場違いな感じになると思った。しかし、何をどう勘違いしたのか僕の呼び名はこう統一された。


「レオ義兄さん、魔族の食事は口に合いませんか?」


「いや、美味しいよシュリちゃん」


「レオ義兄ィ、早くお話ししてよー」


「アースまずは食事を楽しんでからな」


 なんでユノの彼氏と思われてるんだ。

 しかもやたら義兄を強調してきて逃す気のない狩猟本能みたいなものを感じる。

 テーブルの向こう側ではユノが他の弟や妹と話しており、声が聞こえて来た。


「みんなその呼び方はやめなさいって言ってるでしょ!」


 ユノはあれが素なのか、あります口調ではなくなり必至に僕のことを彼氏じゃないと周囲に訂正し続けている。

 傷ついてなんかないよ? ただずっと否定され続けるのって悲しいなって思ってるだけ。


「ユノ姉が初めて連れて来た彼氏ですもん、恥ずかしがるのはわかります」


「わかってない、わかってないよリーフ?」


「次期四天王が彼氏とかヤベェな姉ちゃん」


「ライル、ヤバいのはアンタたちの頭ね?」


「あたしまだオバチャンになりたくない」


「結婚もしないからそんな予定も無いのよエチカ」


 長女って大変なんだな。ユノキレる寸前じゃないか?

 一応助けようとは思っているのだが、僕がフォローに入るとややこしくなりそうなので遠くから眺めるだけにしている。


「あの……」


 隣でもじもじするシュリちゃんに僕は遠慮しなくて良いと伝える。


「レオ義兄さんは、その……姉様のどこを好きになられたんですか?」


 僕は口からワインを垂れ流して固まる。

 ああ、これ本気で彼氏だと思ってんのね。


「むしろ好きにならない要素ある?」


 ちょっとした悪ノリとヤケクソで言ったタイミングが最悪だった。


「「「「「「…………」」」」」」


 音楽が間奏に入り、周囲の魔族がシュリちゃんの質問に耳を傾け一斉に黙り、流石に気になったのかユノは僕を見つめた瞬間に僕は爆弾を投下してしまった。


「……ウチらの希望の星に何手ェ出してくれとんじゃボケェェェェッ!!」


 問答無用でゴングが鳴り、魔族VS僕の試合が始まる。

 姉弟はユノと僕に熱いエールを送り、他の魔族は僕をぶちのめせと野次を送る。

 どうしてこうなってしまったのだろう?

 そんな事を考える暇も無く、無数の拳を躱す中でそのメッセージは現れた。


『ユノとの間にあった心の壁が壊れました』


「はぁ!? ユノはそんなにチョロくないから!」


 デレ期はもっと先だろうが!

 そう思ってユノの顔をチラ見したらなんて事でしょう。

 頬を赤らめそっぽを向くユノにトキメク僕。

 そして魔族渾身の右ストレートが僕の意識を刈り取った。




▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲




「いや、まさか余所見するとは思わなかったんだよ」


「慰めんな」


 大宴会の最中で気絶した僕は一夜をそのまま明かしてしまった。

 左頬を腫らして起きた時、ダイニングで顔を合わせたユノがしきりに心配してくれたのが心に染みる。


「しかし悪いな仕事手伝わせちまって」


 そう言って頭を掻くのは昨日僕をダウンさせた魔族だ。

 牛の様な角を頭のサイドに生やした筋骨隆々の男の名はポウロ。このなりで図書館の司書をやってると知った時は驚いた。


「家に居ても終始からかわれるだけだからな、情報収集のついでだよ」


 あの姉弟、よっぽど姉が男を連れ帰って来たのが嬉しいらしい。

 戦争で両親が死に、親代わりになった姉が恋愛も出来ずに青春を過ごさせてしまったと気にしていたり、自分たちの存在が枷になっていると感じていたんだろう。

 結局勘違いさせたまま放置した僕は息抜きにスラム街を散策することにした。

 そこで入ったのがこの図書館。

 石造りの二階建てで、ラウンドトップの冒険者ギルドを彷彿とさせる。


「ほら、返却図書の検品終わったぞ。この二冊だけページが破れてた」


「仕事は早いし丁寧だ……。荒っぽいとこもあるがユノちゃんが彼氏に選ぶのも分かるな……」


 あー、勘違いしっぱなしなのはスラムの住民全員か。これはどっかで訂正しないとユノに失礼だな。

 こうして頭を抱える僕と満足気に納得した筋肉司書との時間はあっという間に過ぎて行った。


「それじゃあ昼飯にでもしよう。働いてくれた礼に奢ろうじゃないか」


 異世界に来てから奢られてばかりな気もするが、断った所で金は無い。無い物は無い。


「東の路地にある定食屋が美味いらしいな」


「お、ここに来たの昨日だろ? よく知ってんじゃねぇか、そこ行こう」


 奢られ方が板についてきたことを喜ぶべきか、悲しむべきか。

 僕と司ポウロは意気揚々と図書館を後にする。

 どうやらご飯時に店や施設を閉めるのは当然のことらしく、『ご飯を食べています』と書かれた札がそこらの店の扉に掛っていた。


「魔族ってオンオフの切り替えがしっかりしてるんだな」


「健康で文化的な生活っていうのが先代魔王様の掲げた理念だったからな」


 ポウロは道すがら自慢気に先代魔王の政策を語ってくれた。

 長くなるから割愛するが、先代魔王は良く出来た人格者だった。実際に社会に浸透させるには相当苦労しただろう政策を念入りにシュミレーションし取り入れてきた。

 その上、民からの信頼が厚い。ユノもそうだったが魔族は皆先代魔王が討たれた後もその意思をしっかりと継いでいる。

 僕の故郷じゃ国のリーダーは居てもここまで民が結束するなんて想像もできない。

 話をしているうちに、少し酸味を感じるソースの香りが鼻をついた。


「もしかしてここか?」


「匂いだけで分かるとかグルメだな、ユノの彼氏」


「レオだ、その呼び方はもうやめてくれ……」


 すっかり名乗ることを忘れていた僕の肩を励ますようにポウロが叩き、店の扉を開け僕をエスコートする。

 

「ハッハッハ、少し意地悪だったな」


 冗談じゃなく本気で彼氏だと思ってるだろとは言えないまま、店に入ると店員が元気な声で挨拶をしてくれる。


「っらっしゃぁせー! あ、ユノの彼氏さんとポワロさんじゃないっすか。奥の席どうぞぉ」


 この瞬間、帰ったらユノに土下座しようと心に決めた。




▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲




「そんなに落ち込むな。ユノちゃんが彼女じゃ不満か?」


 店で一番人気の焼肉定食を頼んだ僕たちはあまりの美味しさに無言でがっつき食べ終えた。

 食べ終えたから元気いっぱいと言う訳にいかないのが僕の心で、絶賛彼氏認定の件で落ち込んでいる。


「不満とかじゃなくてですね、ちょっと事情を話すと──」


 僕がアークウィルに来た経緯やユノとスラム街に来た理由を話す。

 ポワロだけに話したつもりだったんだが、気付けば店内にいた全員が耳を傾けていた。


「ってわけで、ユノは僕に魔族の常識を教えてくれる教育係ってこと」


 僕が話し終えると何故か皆顔を背けて肩を震わせている。

 彼氏じゃなかったのがショックだったのか?


「おいレオ……。それってつまりユノは四天王の側近になるって事かよ……」


「は? いやいや、なんでそうなる……」


 ポワロは震える声で僕に確認するが誰もそんなことは言ってない。

 だが店内に居た全員が震える拳を天に掲げ叫ぶ。


「大出世じゃねぇか!!」「流石だぜ、やっぱ努力ってのは大事だな!」「これで区長も終わりだな!」


 思い思いに喜んでるが僕が四天王になったわけでもユノが部下になるわけでも無いんだぞ?!

 懸命にそれを説明しても聞く耳をまるで持ってくれない。

 どんどん勘違いしたまま話が進んでいく事に僕は焦るが、一つ気になった発言がある。


「区長が終わりって何の話だ?」


 そもそもユキトの件を調べたかったんだが、ただの衛兵であったユノがこれだけスラムの魔族たちに知れ渡っていることも気になる。

 僕の声色が真面目なものだと判断したのだろう。全員落ち着きを取り戻して席に着いたんだが、急に冷静になるの逆に怖いから余韻ぐらい残してほしい。


「そうだな。レオが四天王になるっていうなら知っとかねぇとマズいだろうから教えておこう」


 ポワロが真面目な顔をして話そうとした時だった。

 店の扉が乱暴に開かれ、狭い店内に魔族の集団が入ってくる。


「ポウロさん、まさかスラムいちの知識人ともあろう方が中立の立場を破ろうというのですか?」


「ディードリア商会……。私は現状を語ろうとしただけだ。あなた方こそ自分たちの立場を過剰に持ち上げて話される気では?」


 また面倒くさそうな集団が出てきたな。しかもバッチバチに敵対してるだろコレ……。

 ディードリア商会と呼ばれた魔族たちは客を退けると僕の前に立つ。

 先頭に立つシルクハットを被った鳥頭が僕を睨み、偉そうな態度で言う。


「次期四天王候補レオ・サカキ。あなたを区長がお呼びだ、ついて来ていただきたい」


「断ったら?」


「許可も得ずに広場で宴会をしたそうじゃないですか。その責を問うてもいいんですが……」


 あ、ちょっと痛いとこ突かれたな。

 魔族の法律は知らないが無許可で大騒ぎしたら罪になりそうだと思う。

 後、個人的にディードリア商会って奴らが気に食わないんだよね、勘だけど僕を利用しようとしてる気がする。

 人を脅す奴にろくな奴はいないのだ。


「わかった、でも明日にしてくれないか。先約がある客人を脅して連れて行ったところで言うことを聞くとは思うかい?」


「ふむ、では改めて紹介状を送るとしよう。区長との面会前によく勉強しておくといい。ではな、レオ・サカキ」


 僕の茶化した対応にディードリア商会の魔族はあっさりと引き下がる。

 言葉選びがいちいち悪役ちっくなんだよなぁ、と思いつつ彼らが店を出るのを見届けた。


「ポウロ、確認なんだがあれはスラム全体の敵か?」


「ああ、もう少し言うとディードリア商会と区長によるスラムへの圧政を止めるための希望の星がユノだ」


 そこまで要約してくれたら後の話は簡単だ。


「じゃ、その話詳しく頼むわ」


 その言葉を皮切りにアークウィル滞在二回目の宴会がスタートした。

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