12話 小さな街にもスラムはあるんだな
お、今日も更新されてるぞ!
トイレから戻った僕は荷造りを終えたユノに声を掛ける。
どうやら荷物は配送屋に頼むらしく、詰所を出た僕らの荷物は少ない。
「それで、これから向かう実家ってのはどこにあるんだ?」
「南のスラム地区であります。この街は山に囲まれているでありますが、敵が攻め入った時に盾の役割を果たすのがスラム地区の役割を持つ地区なのでありますよ」
僕はスラムという言葉に良いイメージが沸かない。国の手が回らず、日々生きていくのがやっとの人々が住まう暗部で犯罪も横行するような危険な場所だと勝手に思っている。
人に進んで見せるものではない、そんな意識がこの街にも潜在的にあるのだろう。
城から真っ直ぐ大通りを南に向かって歩いているがスラムらしきものは見えないどころか、正面には外へと通じる巨大な門と両端に並ぶ店ばかり。
「ここを曲がるでありますよ」
ユノに付いて行くこと十数分、意外と大きいなこの街。
若干疲れてきた所で急に視界が開けて……世界が広がっていた。
木製の平屋や石造りの建物などが好き勝手に立ち並んだデザイン性の欠片もない雑然とした街並みに、活気あふれる魔族の話し声や呼び込みが合わさって心地いい。
「なんつーか想像してたスラムと全然違うな」
「かつての戦争で生き残った魔族のほとんどが集まっているでありますからね、呼び名こそスラムではありますが生活水準は高いでありますよ」
「それって難民ってことだよな? それなら普通生活水準は落ちるんじゃないのか?」
僕はここが魔族領最後の街アークウィルであることを思い出し、ユノに問う。
首都も滅んだと聞いたし、着の身着のまま逃げて来た筈だ。物資も食料も足りず、居住場所も足りなくなるためにスラムが出来上がるのだが生活水準が高いというのは一体……。
「ふっふっふ。きっとこの話を聞いたらレオさんは先代魔王様に足を向けて寝られなくなる上に、食事の前に祈りをささげることになるであります」
くるんと丸まった尻尾を振りながらユノは楽しそうに語り始める。
話を聞き終えたら先代魔王の墓が何処にあるかも聞いておこう。
「この街は先代魔王様が非常時の避難先として整えていた街なのであります。職にあぶれた者たちを斡旋したことで雇用事情の改善にも役立った一大事業でして、首都よりも堅牢な天然要塞、一都市だけで自給自足可能を実現した農耕地、エネルギー供給のために綿密に計算され地脈の位置など全てを完璧に備えたのがこのアークウィルなのであります」
ただの街だと思ったら国の事業で作られた防災都市だった。それも首都や他の都市が滅んだ際の。
「よく完成したな。全都市が滅んだ時のための街のために金を使った訳だろう、反対派とか出たんじゃないか?」
「もちろん出たであります。起きるか分からない未来を危惧するなら、そんな未来が来ないように軍備の増強に充てた方がいいと。しかし先代魔王様はこう言ったのであります。『この世界に絶対はない。未来を憂うのは皆同じ、ならば様々な可能性に備えるべきだ』と。いくら備えても不十分で、いつだってイレギュラーが起こる。その備えの一つなんですよ」
結果として先代魔王の考えは正しかった。
アークウィルが何の備えも無い街であったら僕が想像していたような難民で溢れかえった街になっていただろう。
だがアークウィルが機能してしまったということは想定していた中で一番最悪な未来が訪れてしまったということだ。
「そんな都市に集まったのは王国との戦争を生き延びた優秀な魔族たち。最初こそ悲しみに暮れましたが、今はみな必ず復興できると信じているであります」
ポジティブだな魔族。残った奴らが優秀だなんて言いきれる自信は見習いたいものだなと思う。
ユノは説明を止めケーキ屋の前で立ち止まり、僕の袖を引っ張る。
「じゃ、ここでお土産を買って行くであります。首都じゃ有名なパティシエで、毎日行列が出来てこんなに気軽に店に入れなかったのでありますよ」
「閑古鳥鳴いてるけど大丈夫なのか……」
それは誰も居ない店内へユノが嬉しそうに入っていく時だった。
しばらく見なかったメッセージ画面が僕の前に現れる。
『支柱が経年劣化により破損。足場が崩落します』
振り向くと折れた支柱を見た住民が悲鳴を上げ、支えを失った木の板で出来た足場が降ってくるところだった。
その足場から空中に放り出された少年を見つけた僕は全力で走る。
それが正義感からなのか、誰かが死んだメッセージを見たくなかったからなのかは分からない。
「うわぁぁぁぁぁ!」
少年が驚き落下する恐怖を認識して叫んだ時には地面がもう目の前に迫っていた。
僕は手でキャッチする自信がなく、足からスライディングで突っ込む。
体全体で少年を受け止め、降り注ぐ木片から庇うように僕は背中を天に向け少年を抱え込んだ。
「っぐぅ! 無事かよ犬っ子」
いくつか破片が背中やら腕に直撃したが、少年には当たらなかっただろうか?
メッセージ画面もそれ以上は表示がされないので死んだ奴や重傷者はいなそうだ。
しばらく犬っ子の返事を待ってみたのだが……あ、気を失ってるなコレ。
騒ぎを聞きつけて住民が集まる中、ユノが魔族たちをかき分け僕の元へ駆け寄ってくる。
「レオさん何を無茶してるんですか!」
「助けられたから助けただけだ」
そう言って腕の中で目を回してダウンしてる少年を見せてやるとユノは手を口に当てて驚く。
「ライルッ……」
反応からして弟か何かだなコレは。
ライルは大した怪我もしていないし、足場の崩落もただの事故でこれ以上崩れるものも無いから心配するな、と言いくるめてユノにケーキを買ってくるよう指示を出す。
そして僕は集まっている住民に質問を投げた。
▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲
「外、大丈夫だったかい?」
レオさんにケーキ早く買ってこないと実家に行けないだろうと言われて店に戻った私は店主に声を掛けられる。
「足場が崩れて弟が落下してたであります……」
「一大事じゃないか?! どうして戻って来たんだ、早く弟さんのとこへ」
「あー、無事だったので大丈夫であります」
慌てる店主を見て冷静になった私はレオさんが救出してくれたことを伝え、ショーケースの中に並ぶケーキを適当に選んでいく。
店主がケーキを箱に詰め始めるのを見た私は外が騒がしいことに気が付く。
窓から外を見るとレオさんが住民と何かを話している。
一体何を話しているのか、そこで私はレオさんと中央通りの武器屋の店主が話していた所を私がしょっ引いたことを思い出す。
「まさか自分が転生者だって話したんじゃ?!」
再び店を飛び出した私に店主は驚いて呼び止めるがもう遅い。
再び人をかき分けようとした時、レオさんの声が聞こえて私は止まる。
「さて、僕が転生者だと名乗った瞬間キミたちは敵意を剥き出しにした。魔族を滅ぼすために存在し人間側に付いているのだから仕方ないことだと思っていたんだが、どうにも事情が違うように思えるんだよな」
レオさんが臆することなく、むしろ挑発的に話しかける姿に私は危機感を覚え、再び先へ進もうと人をかき分ける。
「ほぅ、どう違うって言うんだ兄ィちゃん」
住民は苛立ちながらまだ話を聞こうという姿勢で居てくれる。
「ユキトって転生者が原因なんだろ。転生者でありながら四天王になった奴みたいだが、そいつ何したんだ?」
「…………」
いけない。ユキトの名は一般魔族の前ではタブーだ。
何故なら魔王軍が滅び、首都が滅び、先代魔王が討たれた最大の要因の名なのだから。
「一つだけ言っておく。そいつが誰だか知らないが、僕はそいつの後を継いで四天王になる男だ」
レオさんはとんでもない爆弾に火を付けた。
住民はその言葉を聞き唖然とし、拳を震わせる。
そして一人、また一人と罵詈雑言をレオさんに浴びせる。
「ふざけんな! また転生者が四天王になるだと!」「お前がユキトを知らないようにオレたちもテメェのことなんか知らねぇよ!」「人間風情が舐めてんじゃねぇぞ!」「おい、あの足場壊したのもコイツなんじゃないのか!」
私がレオさんの前に辿り着いた頃にはヒートアップした何人かが武器を持っていた。
そんな住民たちを止めようと私が声を上げる寸前、レオさんは片手を上げた。
その場にいた全員が一瞬静かになる。誰もが注目する中で不敵な笑みで一言。
「全部教えてやる、僕の全部だ。だから代わりに全部教えろ、腹割って酒飲んで好きなだけ語るぞ」
このスラムで一番広い広場に酒を、料理を集めろ。武器はこの場で捨てる、やんなら拳一本持ってこい。
そう高らかに叫んで場の空気を変える。実際に腰に下げた剣を捨てた時には正気か疑った。
「代金は全部魔王ステラ宛ツケろ、経費で落とす」
聞き捨てならない発言を真に受けた住民は一斉に散り、即座に宴の準備に取り掛かってしまう。
キメ顔のレオさんにようやく近づけた私は襟元を引っ掴んでブンブンと振る。
「経費で落ちる訳無いでしょうがこのバァァァァァッカ!!」
「うっわブチ切れてる……。ほら、十人の部下つくるためだから落ちるって」
どんな理論だ。
私は心労で飛びそうになる意識を働かせて今後のプランを練る。
元四天王ユキトの話は戦後一番のタブーだ、それをレオは宴会しながら聞き出そうとしてる上に自分は次期四天王だと宣言したのだ。その上売られた喧嘩は買う気でいる。
「いったい何考えてるのよ……」
ようやく定着してきた口調も忘れ、涙を浮かべる私にレオさんは心配するなと笑っている。
というか魔王様の名を出しただけでこんな人間の言う通りに宴会の準備するなよ魔族ぅ……。
「ケーキ忘れないでくれよ」
そんなタイミングでケーキ屋の店主が箱に詰められたケーキを持ってくる。
私に代わってレオさんがそれを受け取ると、店主は躊躇いながらもレオさんに問いかける。
「アンタ察してたんだろ、ユキトの話や転生者の話はしない方がいいって。実際その通りさ、この二年ユキトの名を口にした奴はほとんどいない。彼が残した爪痕は深い、それを語るのは苦しいんだ」
レオさんは捨てた剣に目を落とす。
「なら余計に話してもらう理由が出来た」
私と店主は首を傾げ、レオさんは気を失った弟を背負う。
「前任が人々に残した苦しみ、僕が取り除こう」
その言葉を信じられる要素は何も無い。
何も無い筈なのに信じてみたいと思ってしまった。
応援してくれると作者が夜中にカップラーメンを食べます。執筆スピードは変わりません(ズルルルッ!チュポン!)




