11話 モフモフって最高だよね
もしかして今日は水曜日って奴では?! さぁ更新だー!
四天王として認めてもらうため、この街で十人の部下を作れと言われた僕は早速街の散策に出た。
最後の魔族領アークウィル。
土地の名前でもあり街の名前でもあるこの名は魔王ステラが名付けたものらしい。
そんな情報を手に入れたのは立ち寄った武器屋で店主と話している時だ。
恰幅の良い中年のおじさんなのだが、下半身が馬なのだ。ケンタウロスという種らしく上半身は細マッチョが多いらしいのだが、おじさんは酒の飲みすぎと運動不足が祟っているらしい。
魔族でも生活習慣が崩れると太るんだな。僕も食生活には気を付けよう。
「兄ちゃん昨日魔王様と歩いてたが魔王軍に入って長いのかい? この辺りじゃ見かけないから街中で噂になっているんだ」
おじさんは僕に興味津々だった。武器の宣伝をするわけでもなく僕の話ばかり聞きたがる。
周りにはいつの間にか野次馬も集まっており、ちょっとこの場を抜け出すという選択肢は使えそうにない。
「僕は転生者なんだ。魔王様に拾ってもらって今は四天王を目指しているんだが──」
「転生者だと?」
仕方なく自分の事を話したのだが、おじさんは食い気味に僕の話を遮る。
ちょっと僕に対する目つきが変わったのは気のせいだろうか?
周囲の人も数歩僕から離れたりと空気が変わったことを感じる。
「転生者がこの街に、魔王様に何の用があるって言うんだ」
その言葉には怒気が混ざっており、周囲もざわざわとし始める。
僕はそれをマズイ状況だと理解して一歩下がったのだが、背中に何か硬いものが当たって下がれなかった。
振り向けば鎧を着た大トカゲの様な魔族が立っており、僕より頭二個分ほど高い位置から鋭い目線で見下ろしている。
「転生者っつったか。ちょいとツラ貸せや」
「いや、普通に考えて無理だろ」
怖い怖い何でどうしてこうなった?
転生者を名乗っただけでこんな扱いされるなんてこの街では転生者は犯罪者って意味なのか?
というか転生者である勇者に魔王倒されたりしてるんだからそりゃ良いイメージなんて無いよな。
ひょっとして裏路地でボッコボコにされて死ぬんじゃないかこれ。
だから大トカゲに腕掴まれたけど必死で抵抗するしかない。
「離してくれないか。急ぎの用事があるんだよ」
「フラフラと散歩をしていただけなのにか?」
このトカゲどっから見てやがったんだ。
もしかして四天王の誰かの差し金なんじゃないかと疑いたいが違った場合本気で命が危うい危険がある。
笑顔で対応するのももう限界で、ちょっと強引に手を振り解こうと腕を振ってみる。
全然離してくれる気配がなく、諦めるしかないと思った時だった。
甲高いホイッスルの音と共に鎧に身を包んだイヌっぽい魔族が走ってきた。
背中に何故か掃除用具のモップを背負っているのだが、あれは武器なのだろうか?
「待ちなさいそこの男! 抵抗は止め大人しく指示に従ってもらうであります!」
声から察するに女の子だろうか?
どこか柴犬を彷彿とさせる色合いとくるんと丸まった尻尾が愛らしい。
彼女をもし五段階のケモ度で表すなら三だな、顔周りは犬っぽいけど人っぽさも多少ある。
あのモフモフの手でどうモップを握るのかは分からないが、僕の手はぜひ握ってほしい。
いやいや、何を考えてるんだ。セクハラで牢屋行きとか笑えないぞ。
「仕方ない。連れてけよ」
僕は手を挙げ抵抗の意思が無い事を示すと大トカゲに両手を差し出す。
なんとなく刑事ドラマの犯人の気分で手を出したが、この世界に手錠はあるのだろうか?
とりあえず紐で手を縛られた僕はその状態のまま街中を連れ回されたのだが、部下探して来いって言われてるのにこんな印象を街に植え付けたらマズいんじゃなかろうか。
「で、どこ向かうの?」
「魔王様の元へ連行するに決まってます! 厄災を放って置くわけにはいかないのであります」
キビキビと答えてくれるのはありがたいのだけど、僕そこから街に来てるんだけど……。
▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲
「ねぇレオ、余はちょっと情けない気持ちになってます」
「奇遇だな、僕も今同じ気持ちだ」
城から飛び出して一時間足らず。
部下ではなく衛兵を二人連れて謁見の間に帰ってきた僕をステラは引きつった顔で迎えてくれた。
この状況を情けないと言わず何と言えるのか。
「後さっきからユノちゃんのことチラチラ見すぎ。 余より可愛いのは認めるけど腹立つからやめて」
「やっぱステラから見ても可愛いか。まぁそう言うなって、見たこと無くて興味津々なだけだから」
軽口を叩きあう僕らを見たイヌっ娘と大トカゲは困惑しっぱなしなわけで、僕はステラに説明してもらうようお願いする。
というかステラはこの犬っ娘の友達か何かだろうか? ちゃん付けだし仲良さそうなんだよな。
「んっとね、レオは転生者なんだけど空席になっている四天王候補なの。街に出る許可は出してあるから自由にさせてあげて?」
「魔王様、衛兵の身分で進言するのは大変無礼と存じた上で失礼いたします! その……正気でございまするか?」
犬っ娘であるユノちゃんは尻尾を垂らし震えた声でステラに問う。
僕はてんで状況が掴めないので聞く一方なのだが、僕の存在の何がいけないのかは知りたい。
「転生者は女神の手先。それは過去対峙してきた勇者や冒険者との関係で分かりきっている事。ですがそれ以上に前四天王、転生者ユキトの件をお忘れになったでありますか」
もしかして全部いけないのではないか。
ちょくちょく話に出て来たユキトって転生者、何かやらかしてんのかもしかして。
「忘れてはいないよ。でもレオに話すにはちょっと早いかなって」
ステラは僕を一瞥する。この場で自身の口から説明する気は無いようだ。
ユノちゃんも察したのか首を横に振りそうですかと一言。
「話さないのは構いませんが、レオ……さん、を一人で街に放つのはお勧めしないであります。立場というものが分かっていないでありますから」
放つって僕は野生動物ではないのだが?
一人じゃ厄介な目に会いそうなことは否定しない。また捕まったら情けないとか言われるんだろ。
じゃあどうするかとステラは口元に人差し指を当て考える。
「ん~、ではユノちゃんをレオの教育係に任命します!」
「「はい?」」
思わずハモってしまうくらい行き当たりばったりの人事だった。
▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲
「うぅ〜、なんで転生者の教育係なんてする羽目に……」
謁見の間から出た僕達は衛兵の詰所へ来ていた。
大トカゲは街の巡回に戻り、他の衛兵も仕事熱心なのか詰所には気落ちしたユノちゃんと僕だけが居る。
魔王様に抗議する胆力は無く、渋々僕の教育係を引き受けた彼女は文句を言いながら教本やら生活用品やらの荷物を鞄に詰めている。
「いや、何で荷物まとめてんのさ」
「魔王様からの命令をもう忘れたでありますか?!」
忘れるわけがない、あの酷い人事伝達と宣言を受けてからまだ三十分も経ってないのだから。
まず一つ目はユノちゃんが僕の教育係に任命された事。
二つ目は僕の宿は魔王城には無い事。
三つ目はユノちゃんは衛兵ではなくなったので、詰所の自室は引き払う事。
「どう考えてもユノちゃんが追い出されんのは違うだろ~」
教育係と衛兵は別に兼任できるだろうと思ったのだが、どうやらステラはユノの下で僕が衛兵の仕事をしてしまうのは本意ではないみたいだし、衛兵を辞めさせるのは仕方がないのかもしれない。
でも明らかに気落ちしてるし、あまりにも無慈悲だろう。
ほら、気持ちの整理がつかないのかユノちゃんすすり泣き始めちゃったし。
「こんなヒモと暮らすのやだぁ……」
「誰がヒモだよ!」
「レオさん以外に居ないであります」
やめろそんな理由で泣くんじゃない。
お金ないのは事実だが、なんでユノちゃんと暮らすんだよ。他人の世話になって暮らさなきゃヒモじゃないし。
「単純に疑問なんだが僕と暮らす必要は無いだろ」
「その辺にほっぽって殺されちゃったら私の責任になるであります……。でも二人暮らしとか考えただけでおぞましいので、大変不本意でありますが実家に連れてくであります」
僕が泣きそうになるのでおぞましいは今後言わない方向でお願いします。
しかし実家か、それはそれでどうなんだろう。流れ的に両親に殺されるのではないかと僕は不安だよ。
「でもしばらく帰ってなかったでありますから、ちょっと楽しみでありますな」
その言葉に反応して僕は軽い頭痛に襲われる。
実家に帰ろうとして女神に殺されてからまだ数日。
異世界に来てから考えたことは無かったが、向こうじゃ僕は死んだんだよな。
親より先に死ぬなんてやっぱり俺は不幸者かな。
「どうしたでありますかレオさん?」
僕の異変に気が付いたのかユノちゃんは手を止めて僕に駆け寄ってくる。
「いやぁ、土産物でも買って行ったら喜ぶんじゃないか? って考えてただけさ」
「お金ない癖に気は利くでありますね。街で買ってから帰るであります」
咄嗟に考えた言い訳に上々の反応を貰えて何よりだ。
僕の転生の経緯なんて説明しても気持ちの良いもんじゃないしな。
どうせ教育期間中の短い付き合いだろうしいう必要は無いと思った。
再び荷物を整理し始めたユノちゃんは鼻歌交じりになり、少しは気が紛れた様子だ。
「安心しろ、ベッドは半分譲るから」
「床で寝てもらっていいですかねスケベ野郎!?」
軽口が絶好調なのを確認しつつ僕も手伝うことにする。
「一応四天王になる予定なんだぞ? せめてソファで寝かせてくれよ」
「レオさんは絶対に四天王にはなれないと教えてあげるでありますので覚悟しとくであります」
その理由にはユキトって転生者が絡んでいるのだろう。
一体どんな悪事を働いたら関係のない僕まで目の敵にされるのか知りたいものですな。
それから荷造りは順調に進み、パーフェクトコミュニケーションを取り続けた僕はある提案をした。
「ユノちゃん、互いに呼び捨てにしよう。距離感が無い方がフランクに話せていいだろう」
「ではレオさんだけどうぞ。私は遠慮するであります」
流された。
だが人間関係っていうのはあまり焦っても良いことは無い。今回は僕だけでも呼び捨てを許されたのは大きな一歩なので十分と判断するべきだ。
「……レオさんは何歳でありますか?」
ユノは苦笑いの僕に悪く思ったのか初めて僕の事について聞いてくれた。
自分で言って気付いたのだが初めてって事は今まで僕が一方的に話していたことになるんじゃなかろうか。
「僕は二十七だよ。ユノは僕より下っぽいけど……」
「それで二十七でありますか……もう少し落ち着かれた方がいいのでは? 私は今年で二十三になったであります」
巷の二十七歳がどんなものかは知らないが、まだヤンチャしても許されるだろ。許されるよね?
ユノは四つ下か。年相応って感じだとは思う。
「もしかして暗に喋るなって言ってる?」
「空気が読めたなら向こうで休憩してくるのをお勧めするでありますよ」
ニヤリと笑いながら言う顔も可愛いね、なんて返したら一生口を利いてくれなさそうなので、僕は黙ってユノの頭を撫でてその場を離れる。
グルルと唸られたのは聞かなかったことにしよう。
ほぼ自分の所為なのだが仲良くなるのは時間が掛かりそうだな、と思いながら僕はトイレを探しに行くのであった。




