10話 始まってすらなかった物語
ふふふ、夜中に更新しちゃおっと!
SM……じゃなくてエルフの女王であり四天王のウィオラに鞭で叩かれた翌日。
思いのほか強烈な一撃だったせいか僕はそのまま気を失ったらしい。
流石に四天王相手に調子に乗り過ぎたことは後悔しているが、ボンテージは無いだろう。あれに反応するなって方が無理あるし、あれがエルフの女王とかエルフの平服が気になって仕方がない。
僕は痛む頬を気にしながらベッドから降りると、服が着替えさせられている事に気付く。
まさかルドガーが本気で僕を食ったのだろうか。
「んなワケねぇから! 気持ち悪ぃ想像すんなレオ」
ノックも無く部屋どころか頭の中まで入って来たルドガーの雰囲気が心なしか柔らかい。
「ノックぐらいしろ。後それはスキルか? 勝手に人の頭の中覗くな気持ち悪ぃ」
さっきの反省はどこへやら、脊髄反射で嫌味ったらしく返してしまったので後悔してももう遅い。
だが予想に反してルドガーはご機嫌よろしく豪快に笑う。
「昨日の今日でよく俺への態度変えねぇな。マジメ腐ったユキトと違って良いじゃねぇの。俺ぁ好きだぜそういう奴」
「……昨日のは演技か?」
今話しているルドガーからは昨日感じた鬼気迫るほどの凄みが無かった。それどころか僕の軽口に機嫌を損ねる様子もない。
ルドガーはさぁな、と告げ持っていた服を僕へ投げる。
「血や砂埃で汚れてたから洗わせた。もう乾いてるからさっさと着替えて食堂に来な。んじゃ先行ってるわ」
手をヒラヒラと振り立ち去るルドガーを見送った僕は、ようやく嵐が去ったと溜息を吐く。
思考が読めるスキルを持っているのなら、僕が最初からハッタリをかましてやる気でいたことが全てバレていたのだろう。
わざと最初の印象を悪くし、翌日気さくに話しかける。
スキルで思考を読めることも匂わせる辺り、人心掌握に長けているのだろう。
「四天王のトップを名乗るのも嘘じゃないな」
こう考えるまでルドガーの想定済みではあるのだろう。
僕は同僚になる人物像を分析しながら身支度を終え、食堂へ向かう。
自分の居た部屋がどこか分からなかったが、部屋を出た目の前は中庭であることを考える。
確か中央広間の東側だったなこの中庭。だとしたら広間を抜けた西側が食堂の筈だ。
ステラに連れ回された記憶が早速役立った。
「翌日まで目を覚まさないとは、そんなに強烈だったか?」
食堂へ行こうと一歩を踏み出すと、中庭から入って来たクルトンに声を掛けられる。
次からは気を付けろ、と僕の心配をしてくれるので他愛もない話をしながら共に食堂へ向かう。
「昨日のルドガーはやっぱ演技だよな」
「あの性格は本物だが昨日の様に怒った姿は滅多に見せないな。呼び方一つでああはならんよリードリヒは」
「クルトンはルドガーって呼ばないんだな」
単純な疑問だったがクルトンは丁寧に説明を始める。
「リードリヒは魔族の中で最強の者が名乗ることが許される称号でもあるのだ。だから大抵の者は彼を尊敬の念を込めてリードリヒと呼ぶ。彼をルドガーと呼ぶのは力量の差で負ける気は無いという愚か者と、彼の妻に見初められようと企む者、そして親しい友人だけだ」
「クルトンはルドガーの友達じゃないのかよ」
「馬鹿なのか? 私は彼に敬意を払っているのだ」
軽口を挟んだつもりだったが本気で馬鹿と言われた。
しかし最強か。僕みたいな新入りが名前を呼ぶのはやめておいた方が良いのかもしれない。
「遅ぇぞレオ、クルトン。早く飯にしようや」
ようやく食堂に着くとルドガーは待ちくたびれていた。
たかが数分の差だが、余程腹が減っているのかもしれない。
「悪いルドガー。クルトンと話し込んじまった」
使用人もクルトンもステラもウィオラも目を丸くして凍りついていた。
「貴様はさっきの話を聞いていなかったのか?」
「ああ、お前がルドガーを友達だと思ってない話か」
僕の発言にクルトンは開いた口が塞がらない。
「嘘だよ、尊敬がどうとかだろ。悪いがその話を聞いてなおさら僕はルドガーと呼びたくなった」
当の本人はそれを静かに聞いている。
僕がどう出るか見定める気なのだろう。例えそうでなくとも僕の思考はもう読まれているのだから関係ない。
「最強は確かに偉いかもしれないが、四天王は四天王だろ。同じ立場なら僕はルドガーの友人でありたいと思うね」
リードリヒなんて下から存分に呼ばれるんだろう?
一体ルドガーとして誰かに気を許せる時間はどれくらいあるんだろうな。
「……レオ。俺ぁテメェの四天王入り認めてやろう。ダチになるのもだ。クルトンもいい加減名前で呼んじゃくれねぇか? 流石に長ぇ付き合いしてんのにダチと思われてねぇのは堪えるわ」
「なっ、私はリードリヒを友人だと思っているとも。コイツの戯言に付き合うのはやめろ」
ルドガーにしんみりという言葉も雰囲気も似合わないのだが、クルトンを見つめる姿は他に言いようがなく、それを見たクルトンは戸惑いながらも決意を固める。
「こ、今回だけだぞ……ルドガー」
━━パンッ!
クルトンを辱しめた僕とルドガーはハイタッチを交わす。
からかうの楽しいな。乗ってくれるとは思わなかったわ。
「リードリヒ、レオ=サカキ、まさか貴様らッ!?」
怒った所でもう遅いですぅ。
しっかり友情を大切にするクルトンさんをみんなの目に収めましたぁ。
どうせ怒られるなら盛大にからかってやろうと、僕はルドガーの後ろに回り最強の盾越しにクルトンを挑発する。
「レオってばいつの間にルドガーと仲良くなったと思う?」
「最初からウマが合うのは分かっていたのではなくて」
僕らが喚き散らしている間にステラとウィオラは優雅に朝食を取る。
ステラは楽しげに眺め、ウィオラは昨日の様に止めるつもりはないのか目もくれない。
「ユキトもあんな感じだったよね」
「えぇ、あの様に味方のフリをして裏切りましたわ」
それは僕には聞こえない様にしたのだろうが、僕はウィオラの悲しみと憎悪が相まった呟きをしっかり聞いていた。
▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲
一通り騒いで満足した僕とルドガーは怒り疲れて声も出ないクルトンを置いて朝食を取る。
ステラがこのまま会議も行うと言うので、使用人たちは茶菓子をテーブルにセットし食堂を後にする。
「コホン。まずは余から報告しようかな」
口元をナプキンで拭いたステラは昨日の内にまとめたのか、報告書を手にして話し始めた。
「今回余とクルトンが当たったランドライズ王国の偵察任務はアクシデントの発生により失敗。しかし王国から奪取予定であった【摂理の魔眼】をアクシデントの対象であるレオ=サカキが所持しており、当人ごと回収した」
淡々と長い報告が続くため要約するが、ステラとクルトンはランドライズ王国の首都セントラル・ライズの偵察が目的だったらしい。
その道中、交易中枢都市ラウンドトップにて暴れ回るアイアンマーダーを発見。
様子を伺っていると転生者でありながら魔王の部下を名乗る僕が現れ、アイアンマーダーと遊ぶ僕を見かねて救助。
「まさか【摂理の魔眼】を持ってるなんて思わなかったし、勇者の剣も止めちゃうんだからびっくりだよね」
途中から疲れたのか段々と話し言葉になった報告をステラが終えると、ウィオラが手を挙げる。
「ん、ウィオラどうぞ」
了承を得たウィオラは席をスッと立ち僕に目線を向ける。
まぁ、言いたいことは大体予想がつく。
「レオ=サカキを四天王に任命する必要はないのでは?」
だと思った。
あの時は勢いで四天王の座をくれるって言うから貰った訳だけど、よく考えなくても問題だろう。
いきなり知らない世界から来た奴が軍を束ねるトップの一人になるとか意味が分からない。
「四天王の空席を埋めることは我が国の課題の一つではありますが、魔眼の所持と女神を打倒する目的の一致くらいしかレオ=サカキにはありません。スキルの不明点も多い上に、本当に我々の味方である保証もない。第一国民には何とご説明される気か?」
ウィオラの意見にステラはぐうの音も出ない。
そりゃ当然、言われたこと全てが事実なのだから。
だが言われっぱなしなのは僕も同じなので、助け船を出すことにした。
「ウィオラさんはどうしたら僕を四天王と認めてくれるのか教えてくれないか」
「あくまでも自らその座を降りる気は無いと」
「ああ、そうだ」
ルドガーやクルトンにも本気で四天王として認められていないのは分かる。
だが全員で批判しては魔王であるステラを全否定するのと同じだ。
彼女が認めないというのは四天王全員の本心なのだ。
それで折れるくらいなら最初から四天王の座なんて辞退している。
「……ならばこの街で部下を十人、自らの手で集めて来なさい。期限は本日からひと月」
「いいだろう。約束破るんじゃねぇぞ女王様」
ひと月で十人の部下を集めるだけなんて随分と優しいボンテージエルフだ。
僕はいけ好かなさ百パーセントの捨て台詞を残して食堂を出たのだった。
▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲
「何で十人にしたの? すぐ集まっちゃうじゃない」
余はウィオラの考えが分からなかった。
クルトンもルドガーも口を挟まなかった所を見るに、四天王総意の条件なんだと思う。
「ステラ様、失礼ながらレオ=サカキは転生してどれぐらいでしょう?」
ウィオラは子供に聞くように優しく、余に目線を合わせて質問してくるが余は答えられない。
だって詳しくは聞いていないから知らないし。
「ラウンドトップで彼が出会った人たちの話はどこまでお聞きになりました?」
その質問には多少答えられる。
ベルクと言う酒場の店主やギルドの受付嬢、移籍までの道中で出会った冒険者のこと。
その辺りの話はレオは沢山話してくれた。
「ふむ。質問の仕方を変えますわね。彼はどれくらい出会った人たちの事を知っていますか?」
「えっと……それは……」
沢山話してくれた筈なのだが余はイマイチ思い出せない。
頭を悩ませる余を見たウィオラは続けざまに質問をしてきた。
「彼の好物はなんでしょう? 彼の故郷はどんな所かしら? 彼は友人とかの話はしなかったのですか?」
「ま、待ってよウィオラ」
「ステラ様。貴女は一体彼の、レオ=サカキの何を知っているのです?」
余はその言葉にハッとする。
余が知っているのはここ数日のレオの話だけでレオ本人の事は何も知らないんだと。
周囲を見回すとクルトンもルドガーも余をじっと見ていた。
「たった数日で築ける関係などその程度なのです。レオ=サカキは人を分析し態度を変えコントロールしようとしています。これは私の予測ですが、彼には友人と呼べる人は少なかったのではないでしょうか」
「それは、聞いてみなきゃわからないじゃん。でもそれなら尚更部下を十人なんてすぐに集めて来ちゃうんじゃ……」
ウィオラのレオに対する考えは辛辣なものだった。
人心のコントロールを評価しているようにも聞こえるが、ウィオラはそれを手段として嫌っている。
そんな余たちの会話にルドガーが溜息混じりに加わってくる。
「直ぐだろうな。だから俺らはその部下を連れて来た所で認める気なんてハナっから無ぇ。まだアイツはこの世界のスタート地点にも立っちゃいねぇんだ」
「レオ=サカキは女神の打倒を目指してはいますが、彼は守るべき人を、国を、世界を何も知らない。最低限の知識だけで知った気になってもらっては困るのです。空っぽのままでは女神の駒のままなのですから」
そう言ったウィオラはもしかして期待しているんじゃないかなって。
もしかしてこの条件はレオが四天王として認められる条件じゃなくって……。
「私たちがレオにとって仲間だって認めてもらうための……?」
「魔王様。それ以上は口になさいませぬ様」
それは咎めるというには優しすぎた。
クルトンが一番レオの事を良く思ってなかった筈なのに。
みんなレオに希望を持っている。
だってもう余たちでは世界の崩壊を止められないと分かったいたから。
そんな状況を打開できるかもしれない人物が現れたら期待してしまう。
でもその期待が裏切られることを恐れてもいる。
「俺ぁ魔王サマがまた転生者を四天王にするって言った時、震えたよ。ユキトの事を思い出してな。史上最悪の裏切り者のアイツを街の奴らだって覚えてる。転生者は今や災厄と同意義だってこと魔王サマは分かってるか?」
「分かってる。でもレオはユキトじゃない!」
「そうだ、そうなんだよ。だからな、俺らが認めてもらうとかちっぽけなもんじゃダメなんだ。アイツが世界崩壊を止める希望であるために俺らはユキトの件を乗り越えるしかねぇんだ」
それがレオに課せられた本当の四天王になるための条件なのだとルドガーは言った。
でもそんな話こそレオの知った所じゃない。
この国が抱えてしまった最大のトラウマをひと月でどうにか出来るわけ無いって余は思った。
だからひと月後、正式に四天王として世界にその名を轟かすことになるなんて思いもしなかっのよ。
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