停泊
「ふっ……はっ……!」
連結剣で素振りをしながらリヴァイアサンの討伐方法を考える。
正直に言ってしまえば、リヴァイアサンは反則級に『強い』。
勇者として王国の王宮にいた頃に蓄えた知識とシルン与えられた知識から考えてもそれは事実だろう。
(『情報探偵』の鯖徒。『記憶読心』の阿久津瑠花。『猛毒音響』の乙島乾。こいつらを殺した後が大変だな。)
この三人はどれも裏方の作業に特化したスキルを保有している。『記憶読心』は死体や人から記憶を読み取るスキル。『猛毒音響』は音から相手の心を聞くことができるスキル。前に話した鯖徒の『情報探偵』も含め、Cランクながら厄介なスキルだ。
こいつらを殺す暗殺ミッションとリヴァイアサンの討伐ミッションを同時進行させなければならない……正直に言って無茶苦茶キツイ。
何せ、リヴァイアサンは反則級に強く、勇者どもはしっかりと警護されてる。タイミングも一瞬だし、それを逃したら後は無い。
(だが、このタイミングで殺してしまえば……小さな揺らぎが発生する。)
王国は四千年の歴史を持っている。何度も国難に陥っているがそれを乗り越える国力がある。それ故に、外部から食い潰すのにはなかなか難しい。内部からだと俺の正体に感づかれてしまうため却下。
なら狙えるのは……『バタフライ効果』だけだろう。これは『外部から影響を与えた場合と与えなかった場合でその後が大きく変わる』という現象を指す言葉だ。ここで王国が保有する勇者が死んだ場合や勇者が建てた計画を失敗してしまえば死ななかった場合や成功した場合と大きく変わってしまう。
たった一人の行動で揺らぐ程王国は柔ではない。だが、それが積み重なれば……確実に王国は滅ぼせる。
今回はその揺らぎを発生させるために最も重要な計画なのだ。
(となると、相手が確実に油断した隙を突くしかない……か。)
そのタイミングが何時になるか……それはある程度予想出来る。となると、そのタイミングまで勇者が乗っている船を確認しなければならない。
船は六隻。その一つに乗っている可能性が高い。それを探すのは……ちょっと難しい。シェンショウジンの使い方を変えれば何とかなる。だが、このタイミングでシェンショウジンを使う訳にはいかない。確実にバレてしまう。
(となると……リヴァイアサンに魔法を撃つ直前『夜』か。)
リヴァイアサンは日中は海深くいるが、夜になると海上まで上がってくる。そこを仕留めるのだが……魔法を撃つためには詠唱が必要であり、それにはかなり集中する必要があるため、揺れを最低限にしなければならない。そのため、詠唱する十数秒、今回は感電させるからもう少し長引きそうだからプラス十秒程かかるだろう。その僅かな時間で勇者を見つけ、殺す。……中々シビアだな。
『主殿。そろそろ最寄りの島です。』
「おう、分かった。」
素振りを終え、連結剣を鞘にしまってマントで口元を隠しながら甲板を見ると、既にギルドが直轄で管理している島まで辿り着く。
ここで、夜まで待つらしい。
それなら夜に出港すれば良い話なのだが、それでは戦闘が大陸の近くになり、攻撃の余波が街に届く可能性があるためだと。
本当に反則級に強過ぎないか?
「うーん……。」
船に揺られてからか体が揺れるような感覚を残しながら船は停泊し、島に降りる。
島には乾燥した草で作られた屋根を持つ島民たちの住居や酒場、食堂なんかがある。
(大陸とは違って木だけではなく、草の屋根を使っている……どちらかと言えば、日本の古い家屋……江戸時代とかの農民の家に近いな。)
「さて、俺はちょっと散策するか。」
「あ、あの!」
声をかけられ、振り向くとカルメニィさっきのようにおどおどとした雰囲気で話しかけ来た。
何か、あるのか?
「そ、その……散策するのなら、一緒について行っても構いませんか?」
「……構わない。」
俺が了承した瞬間、カルメニィはパッと表情を明るくし、何故か俺の顔をみてはすがしそうにローブについたフードを被る。
?何かあったのか?
「どうかしたのか?」
「い、いえ!そ、それではいきましゃう!」
……噛んだな、今。
「うわぁ……!様々なアクセサリーがあります。」
島の市場に来てみると、カルメニィは雑貨屋に売られているアクセサリーの前に屈んで見いっている。
俺としては、この島の食べ物とかを確認したかったが……こいつに付き合わせれてると時間も潰せるし、問題ないか。
「あ、ホワイトさん。ちょっと近づいて下さい!」
「あ、あぁ。」
さっきまでのおどおどとした雰囲気から明るい雰囲気になったカルメニィに若干引きながら身を屈めると、カルメニィが俺の頭に何かをつける。
これは……髪飾りか?肩まで髪を伸ばしてはいるが、前髪はちゃんと切っているぞ?
「やっぱり、この水色の髪飾りがよく似合います!」
「どれどれ……。」
元気そうな笑顔で褒めちぎるので髪飾りを取って確認する。
髪飾りはシンプルな作りの水色の雪の結晶の形で、結晶の中心には丸い赤色の石が埋め込まれいる。よく見るとかなり細部まで細かく彫刻されている。かなりの腕の細工師が造り上げた一品のようだ。
(しかも、これに使われている石は……魔鉱石の一種、クォーツ石か。)
魔鉱石とは、魔力を帯びた鉱石でクォーツ石はその中でも比較的メジャーな石だ。俺は鑑定系のスキルを保有している訳ではないからこれの価値はよく分からないが……魔鉱石は色が寒色系であればあるほど効果が高いらしい。これは赤色だからそこまで効果は高くないようだ。
「おっさん、これの価値は?」
「五百リラだ。」
「買う。」
「まいどあり。」
俺は無精髭の鶏冠頭のおっさんに五百リラを渡し、この髪飾りを購入する。
何となく買ってしまったが……まぁ、この髪飾りは効果的にも俺ではなく魔法職の奴に渡すべきか。
「これ、あげるよ。」
「えっ!?な、何でですか?似合っていたのに……。」
「その魔鉱石の効果上、魔法を使えない俺には無用の代物だ。」
クォーツ石の効果は『魔力の貯蓄』。魔力をストックさせて魔力切れを起こした場合に魔力を回復させる事ができる。魔力を回復させるためには自然治癒しかない以上、これはかなりのメリットになる。
最も、効果が弱いから簡単な魔法を数回撃てる程度しか貯めれないが。
「ほら、よく似合ってる。」
「は、はわわわわわ……!」
髪飾りをカルメニィの髪につけると、カルメニィは顔を真っ赤にして頭から湯気を出してしまう。
ん?何かしたか?
「どうかしたのか?顔が赤いぞ?」
「~~~~!!」
カルメニィの額に手を当てた瞬間、カルメニィは更に顔を赤くさせ、目をぐるぐるになり、倒れてしまう。
な、何があったんだ!?
「あんちゃん……無自覚でもそれはないぞ。」
「「取り敢えず、爆発してしまえ!」」
「ゴフッ!?」
呆れる店主に追い付いてきたルミエとオルトリアに腹を殴られてしまう。
な、何故に……?
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「羨ましい……。」
近くの露店商のところでイチャついてる冒険者のカップルを見て若干嫉妬してしまう。
私も……彼と、白とあんなふうに出来たかもしれないと思うと……ちょっと寂しい。
彼は……私が隣で寝ていたのに、何もせずにどこかに去ってしまった。これでも体のプロポーションには自信が合ったのに何もされずにどこかに行ってしまったのはショックだが、それ以上に彼がどこかに行ってしまった事がショックだった。
彼と初めて会ったのは中学一年の秋。親の仕事の関係で転校し、新しい学校でたまたま隣の席に座っていたのが彼、白だった。真っ白な髪に力強く、それでいて優しい赤い瞳が特徴の人だった。
『恐い』。私が彼を見て最初に思った感情はそれだった。
身体的な特徴は特に恐くない。けれど、その雰囲気が、佇まいが何か私たちと違って、恐かった。
この印象が変わったのは二年生の冬だった。
私は……世間的に言うなら虐められていた。
初めは机の落書き程度だった。それが日に日にエスカレートして、階段を突き落とされたり、トイレで水をかけられたり、机を濡らされたり……様々だった。
それは、みんなと違ってこんな見た目だから虐められて当然だと、割りきっていた。小学校も耐える事で嵐が去るのをじっとまっていた。
『……何で、泣いているんだ?』
誰もいなくなった教室で一人油性ペンで書かれた落書きを消していると、部活を終えたのか白が立っていた。
泣いている?と目を擦ると手に数滴の涙がついていた。
『手伝うよ。』
物静かに彼はバケツと綺麗な布を持ってきて私の机の落書きを一緒に消してくれた。
礼をしたかった。けど、彼は……。
『お前がほっとけないだけだ。貸しでも何でも無いからな。もし、何か辛かったら俺を頼れ。』
そう言って彼はさっさと帰ってしまった。
彼も私のように虐められている。それなのに、私を助けてくれた。それはとても嬉しくて、笑いながら涙を流してしまった。
多分、このときに私は……
「お待たせ、蝴蝶ちゃん。」
「夜野さん。来ましたか。」
思い出に耽っていたら、明るい声が聞こえてきたから振り替えると、私の友人の夜野さんがいた。
彼女はAランク勇者で、スキルは『戦闘線』。接近戦で無類の力を発揮出来る勇者スキルらしい。
「へへー、良いものがいっぱい買えたよ。」
「それなら構いません。」
「あ、待ってよ!」
夜野の子供のような笑顔と悪癖に呆れながら船に戻っていく。
夜野……部屋の中がまた魔道具に埋まってしまいますよ。
(そう言えば……さっきの男の人、別人だと思うけど白に似ていたな。)
白、今、どこで何をしているの?会いたいな……。




