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呪薬作成

『先程からどうかなさいましたか、主殿。』

「マタシャベッタアァァァァァァァァァァ!!」

アイエェェェェェェ!?ナンデ!?ナンデ!?アイエェェェェェェ!?

俺は平伏しながら首を傾けるワイバーンに驚きを隠せないでいる。

いくら獣属結びがされたところで結ばれた存在と会話なんて不可能だ。そう言った事をするための術式じゃない。普通ならあり得ない。

「な、何で話しているんだお前は!?」

『某に使った魔術が影響しているかと。』

「……はぁ!?」

確かに、俺は何故か知らない呪文を詠唱してしまったが……まさか、それが原因か!?

『あの呪文式は獣属結びの呪文。それ以上でもそれ以下でもありません。』

「いや、俺は最後の三行の呪文を知らないのだが。」

『……恐らく、某の血と主殿の血が原因でしょう。』

ワイバーンと俺の……血?

『某の血はオベリスク竜人王家に使えた天竜の末裔。所謂、高潔な血(ノーブル)と呼ばれている血筋です。そして、主殿は異界の血。その二つが絡み合って普通の魔術から逸脱した何かが生まれてしまったのでしょう。』

俺の血とワイバーンの血が混ざって魔術式が変質してしまった……化学の実験みたいだな。

「それならそれで良いか。」

『それと主殿……その、某に名前をつけて貰いたいのですが……宜しいでしょうか。』

俺が洞窟から出ようとした時、肩に飛び乗ったワイバーンが俺に呟いた。

名前……?確かに、名前が無いと話しづらいから、つけた方が良いか。

……うーん、名前をどうしようか。こいつの鱗は母親だと思うワイバーンと違って銀色だし……シルバーか?うーん、それだと捻りが無いな。となると、シルバーをちょっと変えて……。

「シルン、で良いか?」

『シルン……!それが、某の名前ですか!?』

「あ、あぁ。気に入ってくれたのならそれで良いか。」

シルンは名付けられて喜んでいるのか、俺の周りを飛び回る。

そんなに名前をつけられて喜ぶ事だったのか。それなら、それで良いか。


==========

『主殿、一体何をしているのですか?』

「何って……普通に薬草採取しているだけだが?」

山から下っていき、低い木々が立ち上る森林に入ったところでカトンカを採取する。

カトンカは極彩色の花弁と青い茎が特徴の花で、根は薬草として使える。

「そう言えば、お前が肩に乗っても重さを感じないが、何かしているのか?」

『獣属結びモドキのせいでしょう。それにより、某は主殿と霊的なパスがつながり、某が主殿の体の一部となっている、のだと思います。』

体の一部だから、そうやって脳が錯覚を起こしているのかもな。だが、実際にはシルンが乗っている訳だから重さがある。

『ですが、主殿。そのような効果が貧弱な草を取ったところで何も意味をなさないのでは?』

「実は、これを含めて複数の薬草を特殊な方法で混ぜると強力な毒薬に変わるんだ。」

『……誰かを殺すのですか?』

「まぁな。……まぁ、俺が異界の人間だと知ってしまった以上、消さないとな。」

あいつらが幾ら言わないと言っても、捜査系の勇者スキルの中には心を読むスキルもある。それがある以上、殺しておかないと俺が生きている事がバレてしまう。

「……あ、別にあいつらを殺さなくてもいいじゃん。」

『……確かに、異界の人間だとバレなければ良いわけですから、記憶を消すなどの方が良いかと。』

「いや、捜査系の勇者スキルを保有する奴を殺してしまえば良い。」

あいつらは明日、リヴァイアサンの討伐に駆り出される。その時、戦闘のどさくさに紛れて……暗殺してしまえば、楽ではないか?

『ですが、その捜査系のスキルを保有する存在が戦闘に出るのでしょうか。』

「出るだろうな。」

王国はギルドとの不和を嫌っている。良好な関係を築くためには実力主義のギルドの構成員たちを認めさせなければならない。そして、その不和を煽っているのは勇者、それも戦闘に直接関わらない勇者だ。そいつらを指揮や作戦を立案させ、矢面に出して構成員たちとの関係を友好にする。そのためにリヴァイアサン討伐を行う……それが今回、勇者どもが戦闘に加わる大きな要因だ。

それなら、普通なら表に出ない勇者たちが出る。そして、俺は勇者たちの顔と名前、スキルを完全に把握している。……殺せない道理がない。

「採取も終わったし帰るぞ。」

『了解しました。』


==========

「これが依頼分だ。」

「畏まりました。」

リュックからハジケグサを取り出して昨日の受付嬢に渡し、少ししたら報酬を手渡される。

さて、さっさと毒薬を作らないとな。

「そう言えばホワイトさんは調獣師(テイマー)と言う物を知ってますか?」

「調獣師……?なんだそりゃ。」

「調獣師とは、魔物を調教し、使役して闘うスタイルの冒険者の事を指す言葉です。技術やコツが必要となりますが、それなりに使い勝手が良いものらしいですよ。」

「ふーん……。」

調獣師と言うスタイルは初めて聞いたな。俺にはシルンもいるし、そのスタイルの冒険者と言った方が警戒されないだろうな。

「それじゃ、登録出来るか?」

「えっと……魔物がいなければ意味が……。」

「いるぞ。」

「ふにゃ!?」

リュックを開けると、シルンが飛び出し、そのまま受付嬢と激突する。

「ま、ままままさか……ワイバーン!?ワイバーンを調教したのですか!?」

「幼体だがな。」

カウンターの周りを飛び回るシルンを見て驚きのあまり眼の中がぐるぐると回っている。

それにしても、シルンを見た他の冒険者たちがそれぞれの得物に手をかけて険悪な雰囲気になっているな。もし、手を出してきたら……殺そうかな。

「わ、ワイバーンを調教……分かりました。では、必要な書類を書いて下さい。」

平静を取り戻した受付嬢から羊皮紙とペンを貰い、内容を確認する。

簡単に言ってしまえばちょっとした契約書だな。内容としては調教した魔物が暴れても一切の責任を負わない、て内容だな。

(ただ、羊皮紙から魔力が漂ってくるんだよな。)

何かしらの罠……の類いではないが、厄介そうな感じがする。

「これを使って何に使うんだ?」

「……!その契約書に記入すると、契約に違反した場合、罰が下されるのです。」

「罰の内容は?経済的な物では無いようだが。」

「……一回目で体に激痛が走り、二回目で体の一部が一時的に使えなくなり、三回目で……死にます。」

おいおい……これってかなり強力な魔道具だな。けど、登録しておかないと不信がられる。

「……書いたぞ。」

「ありがとうございます。」

しぶしぶ契約書に俺の偽名を書いた瞬間、ねっとりとした魔力がまとわりつく。

気持ち悪い。

「それと、これを。」

「何だ、これは?」

「渡しそびれていたギルドカードです。そのカードを通すしてステータスを見ることが出来ます。」

受付嬢から貰ったカードを持ちながら魔力的に確認する。

ステータス、ねぇ……。まぁ、このくらいの貧相なレベルだと、俺のステータスを確認出来る訳では無いようだが、貰っておいて損はないか。

「それじゃ。……そう言えば、お前の名前は?」

「私ですか?私は……ミル・シルフィーユです。」

「分かった。ありがとな、ミル。」

ミルの名前を聞いた後、俺は建物の外に出て森に向かう。

錬成しているところを見られたら困るからな。最大限の警戒は怠たらない。

『主殿、それではどのように行うのですか?』

「まぁ、見てなって。」

小さな川が流れている場所の近くの木の根っこに座ると、リュックから乳鉢を取り出す。

さて……始めるか。

「『赤い星を一。極彩の星を二。破裂する星を一。四の目の星を三。壺に入れる。』」

それぞれを適切な順番、配分で乳鉢の中に入れる。

「『星たちの空は七つ左に回る。』」

呪文を詠唱しながら乳棒を七回ほど回すと、薬草が少し白く光だす。

「『微かな日差しはほのかに我を照らす。』」

乳棒を薬草がこずくと、光は更に強く光る。

この時点で止めれば、強力な解毒剤になる。

だから、ここから堕落させる。

「『日差しは反転。月の光となる。』」

白い光は呪文を詠唱した瞬間、黒い光に変色する。

「『月の光に祝いの清水を注ぐ。』」

手で川の水をすくい、乳鉢にいれる。

「『月は五夜回る。』」

左と右にそれぞれ五回乳棒を回す。

「『最後。四の贄を持ってこれを完成とする。生命に冥福を。死神に祝福あれ。』」

乳棒を起き、最後の呪文を唱えた瞬間、黒い光は静まり、赤黒い液体だけが残る。

よし、これで毒薬……確か、名前は『アン=リクスの呪薬』だったっけ。それが完成した。

『アン=リクスの呪薬……!』

「どうした、知っているのか?」

『カーバンクル族に伝わる凶悪な呪薬……普通の生物なら傷口から入っただけで即死、ドラゴンでも数日後に確実に死ぬ、最悪クラスの呪薬……!』

シルンの驚きの声を聞きながらリュックから試験管を取り出し、液体を入れる。

さて、これで用意を整えれ……

「なぁ、シルン。」

『どうかしましたか?』

「あいつらを事故死に見せかけて殺す予定だから……この呪薬、使わないわ。」

『……無駄な、労力でしたね。』

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