契約
「ふんふんふふ~ん。」
翌日、昨日と同じように依頼を受けてハジケグサを採取していく。
取り敢えず、これだけあれば一見すれば一日かけて取ってきたとギルドは誤認するだろう。
さて、ここからが今日の本題である毒薬作成の為の薬草を採取しにいかないとな。
(確かミミジグサ、ウチメクサ、カトンカの根、ヨツメバナの蜜……だったか。)
ミミジグサは止血に使え、ウチメクサは痛み止め、カトンカの根は腸の調子を整え、ヨツメバナの蜜は胃もたれを治す。……ほんと、この毒薬の製作方法を考えたカーバンクルのご先祖様々だよ。
「取り敢えず、一番取りに行きにくいヨツメバナから探さないとな。」
ヨツメバナの特徴は花弁に四つの眼のような模様があることで、生えている場所は『一定の温度以下の山岳地帯』であること。ヨツメバナは木々が生えない山の上に行けば行くほど自生している植物、所謂高山植物の一種なのだ。
ここはあいつらと来た森ではなく、その奥にある山の麓である。ここからヨツメバナが自生しているところまではなら普通なら数日かかる。
「シェンショウジン。」
普通なら、な。
俺には大きさを変えれて自由に動かせる銅鏡がある。これなら山の頂上まですぐに向かえる。明日の事もあるし、今日の内に暗殺しておきたい以上、さっさと回収して作らないとな。
「えーと……あったな。」
ヨツメバナの蜜を採取した後、下山しながら木がまばらに生えていた所ウチメクサを採取していく。
ウチメクサは赤い葉が特徴で寒暖差が激しい場所によく生える特性を持っている。ヨツメバナよりは高地には生えないが、中腹くらいにはよく生えている。
ヨツメバナを採取して下山ついでに採取するのが効率がいい。
「ん……?」
ふと、横を見たときに岩に隠された大きな横穴がある事に気がつく。
何だろう、ちょっと気になるから入ってみるか。
中は結構薄暗い。だが、寝る前に買ったランプを使うまでもない、かな。
「くるぅ……。」
「おいおい……まじかよ。」
奥に進んでいくと、様々な草が敷き詰められた場所に一匹の幼体のドラゴンが心細そうに鳴いていた。
ドラゴン……種としてはワイバーンか。まさか、昨日俺が殺したワイバーンの子供か?縁って言うのはかなり奇妙なものだな。
ここで殺すのは簡単だが……気が引ける。害獣なら喜んで殺すけど、ドラゴンは種としては頂点に存在するから無意味に殺して生態系のバランスを壊すのは良くないよな。
(そう言えば、村長が教えてくれた魔術の中に『獣属結び』があったな。)
主に獣人族が使用する魔術で、様々な生物を自分の下僕として使役する事が出来る魔術だ。だが、この魔術は相手の承諾がなければ発動しない上、こちらの言葉を読み取れる程の知性がなければ意味がない。それ故に鳥に使って通信手段として使うのが主流だ。
だが、ワイバーンは下位とは言えドラゴン。人の言葉を承諾する知能は持っている。通信手段くらいにはなるだろうし、使ってみるか聞いてみるか。
「俺の獣属になるか?」
「キュウ!」
甲高い鳴き声と共に頭を強く縦に振る。
肯定……で良いのか。なら、さっさと始めるか。
「『天文は獣。縛るは我が血。繋がるは竜。』」
ワイバーンの尖った角で指を刺し、流れ出た血がワイバーンの額に落ちる。
「『戒めよ、汝の魂は我とあり。戒めよ、汝の叡智は我とあり。』」
複雑な幾何学模様の魔法陣を描き、その魔法陣が赤く光だす。
「『ニール・バイン・オール・ゴールノ・バークス・ウズール・ファー・ラムス。』」
祖は白亜の皇帝なり。魔は呪詛なり。
「『ズール・ヨールス・オリーム・ヨモクシ・クロノス・アレイスター』」
魔導王アレイスターの名において契約を執行する。
「『ウルズ・ヴェルザンディ・スクルド』」
ん?あれ?何で俺は知らない呪文を唱えてるの?
「『黄金の夢は彼女たちで潰えた。』」
な、何なんだ、この呪文は!?俺の頭に膨大な量の魔術的な知識が流れ込んでくる!
「『運命の流転は神々の力を縛る。故に、命を我が魂に捧げよ。』」
魔法陣がから生まれる紅い光は強く光輝き、膨大な魔力を放出する。
知識の逆流はあったとしてもそれをすらすらと言える訳ではない。この魔術、絶対におかしいだろ!?
「契約は……成功しているか。」
ワイバーンの腹につけられた竜を基調とする魔法陣があることから成功した事がよく分かる。
俺の体にもどこかに魔法陣がついている筈だが……鎧を着ているから後で探そ。
『さて、生きましょうか主殿。』
「あぁ、行こ……うん?」
声に促されるまま洞窟から出ようとしたところで立ち止まる。
あれー?何で俺以外に誰もいない筈の洞窟から人の言葉が聞こえるんだー?
『主殿、早く生きましょう。』
「いや、だから誰だよ。」
『主殿の後ろにいますが、それが何か。』
後ろ……?後ろには契約したワイバーンの幼体しかいないが……。
『何をしているのですか、主殿。』
「シャベッタアァァァァァァァァァァァァァァ!?」
ワイバーンの幼体が……喋っていた。




