暗殺決意
(取り敢えず……明後日まで予定もないし、仕事を見るか。)
歩きながらかなりの速度で頭を回す。
まさか、俺の正体を知られてしまうとは……。
あいつは誰にも言うつもりはない、と言っていたけど、確か記憶を読むことが出来る勇者が存在した筈……あの時に殺してしまうのが楽だったかもしれないな。
でも、殺したら殺したで『ホームズ』で一発で推理されてしま……あ、俺の情報は殆んど内密、と言うかそもそも知られていなかった筈……。僅かなピースから全体図作り出す『ホームズ』には情報が必要不可欠。情報を知らなければあいつはただのK☆A☆K☆A☆S☆I、だから今のうちに殺すか……。
となると、手段としては暗殺が好ましいな。シェンショウジンを使えば鏡の光を反射させて殺害する事は可能。けど、その場合ホームズ何かの捜査系のスキルに捕まる可能性が高い。使えば一発で勇者スキルと断定されてしまうからな。となると、普通のこの世界の物質を使う必要があるな。
一応、カーバンクルの村に身を寄せていたときにリーグからここら辺一帯に生えている毒草を教えてもらったった際に毒薬の作り方を教えてもらったから毒物を作ること自体は問題なく出来る。ただ、それを向こうも知っている可能性がある以上、迂闊には使うことが出来ない。稀少な素材を使うか、もしくは一つでは効果が無いか体に良い効果があるが特定の薬草と混ぜたら死に至らしめる効果がある物か……。
(……そう言えば、ハジケグサを使った毒薬ならどうだろうか。)
あの草は単品だと軽い止血が出来る薬になるが、幾つかの種類の薬草と混ぜると極めて危険な毒薬を作ることが出来た筈だ。その薬草もこの土地に群生していたはず。
この毒薬は手順が複雑だから滅多な事では使われないし、そもそも人間ではこの毒薬を作成する事は出来ない。
(となると、専門的な道具が必要か……。)
乳鉢とか、そう言った道具は今手元にないし……仕方ない、買いに行くか。
恨みはないけど俺の秘密保持の為に死んでくれよ、二人とも。
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「えーと……。」
ギルドから出て俺は入り組んだ路地を通っていく。
こう言った路地裏の店から買ったほうが運が良ければ表の店より良い品物を買えたり、足が着きにくくなるから今の俺にはこっちの方がメリットは大きい。
「お、あったな。」
「いらっしゃいな、小僧。」
暗い紫色のとんがり帽子を深くかぶり、同じ色のローブを着た鉤鼻の老婆の露店に立ち止まる。
立ち止まった理由は……どう見ても魔女っぽいから、品質が良い品が置いていそうな気がしたから。
「ふーん……良い品だな。」
置かれていた魔道具の類いを手にとって上下左右に見てみる。
露店ってこう言った掘り出し物があるんだよな。
「お、あったあった。」
俺は白濁とした乳鉢と乳棒を手に取る。
掴みやすいし、動かしやすい。しかも、これは新品だな。いい掘り出し物が手には入りそうだ。
「婆さん、これは何リラだ?」
「五十リラ。お主の目利きに免じてな。」
「ありがとさん。」
「あ、それと。」
婆さんに五十リラを渡し、長居無用と立ち去ろうとすると、婆さんに呼び止められる。
何だ?買うべきものを買ったしさっさと立ち去りたいのだが。
「乳鉢だけでは不便だろうし、薬を作るときに便利な物を渡しておく。無論、タダだ。」
「……ありがとう。」
露店に売っていた薬物を作るときに必要な物を入れたリュクサックを投げ渡してきたため、それをキャッチする。
このリュク……かなり品質の高い革を使っているか手触りがいいなな。しかも、これは空間がかなり拡張されている上、重量が軽減されるようにかなり高度な魔法陣が編まれているな。どれだけの術者がこれを作ったんだか。
さて、日も傾いてきたし、ギルドに戻って寝床を確保しないとな。
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「ふむ……先程の者少しばかりおかしなヒューマンだったな。」
人気が全く無くなった路地裏で自分はローブを脱ぐと、元の姿である若い女の姿に変わる。
自分の毛数本を代価に発動する見た目を欺く魔術具で姿を変えていたから自分の正体にバレてはいないだろう。
(それにしても……おかしな青年だったな。)
白髪の髪に壊れた仮面のような無表情とドロドロと憎悪と狂気に濁った非対称の色合いの瞳をした自分と同年代くらいの青年。
この青年は本来不可視の術式が張られて見えない筈の乳鉢を手に取っていた。嬉しくなって売り物ではなく、私物でもない魔術具を渡してしまった。が、何故か嫌な気分ではない。
「さて……さっさと帰ろうかな。」
「おい、そこで何をやっている!」
ちぇー……露店の片付けをしようとしたら衛兵に見つかったよ、面倒くさいなー……。
「貴様、その身体的な特徴、まさか―――――!」
「分かりすぎ。ご苦労様だね。」
手から伸びた黒い爪が衛兵の首を切り落とし、崩れ落ちる自分の姿を見ながら衛兵は絶命する。
さて……彼は自分にふさわしい主になりうるか、見極めさせてもらおうかな。
「自分はデーモンの一人、夢魔の『■■■■■』。彼は種の掟に従い、自分の主にふさわしいか……見定めましょうか。」
背中から生えた翼で新月の空を飛びながら、一つの宣言を行うのだった。




