鍛冶屋
(……あのちみっこ、確実に気がついていたな。)
俺は路地裏の適当な場所にある木箱に腰掛けながら僅かに漏れ出ていた気配を隠す。
俺は相手の気配を察知できる。逆に言えば俺が気配を隠していることに気がついている奴を察知できる。『気配を隠しているだけではダメ。気配を欺き、気づく事が重要』村一番の女狩人であり、族長の一人娘だったネネから教わった狩りでは必要な技能だ。
(となれば、俺の素性について調べ始めるかもしれないな……。まぁ、辿り着く事は無いだろう。)
ホワイト・コールドは完全な偽名だし、いくら本名を知っていたとしてもEランク勇者『月読白』と言う人物に辿り着く為には王族や貴族に何かしらのコネクションが無ければならない。
そんな回りくどく、それなりの権力者との結びつきが必須な方法で無ければ辿り着けないのなら、動くことは不可能に近いだろう。
(……そう言えば、この世界に召喚する方法は何なんだ?
魔法陣が見えたことから魔法などの超常現象の類であることは分かっている。だが、その現象は何なんだ?魔法は基本的に四大元素であり、それ以外には存在しない。
(もし、俺の予想が外れていなければ――――皮肉的だな。)
何せ、忌々しいとしている技術を使っているのだから。『弱者の文明を奪い、貶す』。人間らしい、傲慢だな。
「まぁ、今は武器を入手するのが先決か。」
========
「……ここか。」
路地裏と表通りを組み合わせて複雑に進んでいくと紹介状に書いてあった鍛冶屋があった。
鍛冶屋は……所謂、あばら家とか言われているおんぼろな平屋立ての家屋で屋根に付けられた煙突から白い煙が出ている事から中には人がいるのだろう。
「失礼します。」
「お、お兄さんお客さんかい?」
あばら家の扉を開けると俺と同い年くらいの青年が番台でいたずらっ子のような笑みを浮かべていた。
……兵士のような鍛えてできた筋肉ではないな。恐らく、鍛冶師か。
それにしても……ここが鍛冶屋か。壁やら床に様々な武器が置かれているが……何というか、凡作が多いような気がする。
「ギルドの紹介で来た。」
「よし、分かった。それじゃあ……。」
番台は少し奥に入ると武器がいっぱい入った木箱を四、五個程を俺の前に置く。
「これの中から武器を選んでくれ。」
番台はニシシッ、と笑って元の位置に戻って眺めている。
ここで選んだ武器が本当に自分に合った武器か分からない。だからこそ、こうやって使わせてみて適性を調べているのか……、もしくは選別をしているのだろう。
「ふーむ……。」
(この剣は少し脆いな。この剣は見た目が良いが切れ味が悪そうだ。この剣は刃が重い。この剣は……。)
俺は木箱に入った武器を一つ一つ、手にとって振り、音を鳴らし、確かめていく。
これだけの量があると時間がかかりそうだが……一応、命を預ける物だ、いくら時間があっても足りない。
「……これは。」
探し始めて数十分。俺は一つの剣を手に取り、持ち上げて刃を見る。
(……連結剣か。)
連結剣とは刃を節々に分断し、柄から強靭な糸で連結させたこの世界特有の剣で、元の世界でも架空の武器として存在する蛇腹剣のような物である。
元の世界では強度の問題で存在しなかったが、この世界では鉄以上の硬度の鉱石である『ミスリル』等の鉱石があり、使い手も僅かながら存在する。
無論、使えば確実に目立つ剣ではあるが
(面白そうだ。)
俺は、どうやらこの剣を気に入ってしまった。
俺自身、剣や槍、弓、ナイフ、徒手空拳が高いレベルで身に付けている事もあってか変わった武器が好みらしい。
「これにしよう。」
「……分かった。親父、ちょっと来てくれ!」
選んだ剣を見た番台は奥の方に入ってすぐに慌てたような大声で自分の父親を呼び出す。
確かに使用者は少ないし素材はそこそこ希少価値が高いけど、ここに入っていたからには貰える訳だし、作った本人たちがそんなに驚くような事か?
「親父……。」
「まさか、その剣を手にしたのか。」
番台の青年が背中を押して無理矢理引っ張り出した青年よりも頭一つ分大きな中年くらいの昔気質な雰囲気を出している男が調べるような目で俺を見る。
全く……だから、何でそんなに驚いているんだよ。
「……よし、決めた。お前さんの防具は儂らが新しく作ろう。」
……はい?
防具を、新しく作る?
俺の体に合った防具が入手出来るのは個人的には嬉しい誤算だが……一体何故、そんな事を考えたんだ?
「代金はいらん。要望を言え。」
(……理由は、無さそうだ。)
男の瞳を見た俺は自分のその考えが馬鹿馬鹿しいと一蹴した。
この男は王族や貴族と繋がっている訳ではないし、昔気質な堅気な人間だから言ったことに裏表なんて存在しないだろう。
なら、こっちも自分の要望を言わないと無作法と言ったところか。
「メインは軽装の鎧でいい。マントは魔法防御、耐刃性能が高いのが望ましい。色は鎧は適当で構わないがマントは黒で。刺繍に関しては一切無しだ。」
「くくっ、そこまでの要求に答えるために一晩待て。おいカイン!今から始めるからアベルを呼んでこい!あいつに魔法加工を手伝わせろ!俺はイブを呼んでくる。」
「分かったぜアダムの親父!」
快活そうに笑ったアダムは張り切ったように奥の部屋に入っていった。
結構無茶振りしたんだが……まぁ、いいや。にしても、アダム、イブ、カイン、アベルねぇ……旧約聖書に書かれた初期の人間の名前か……。珍しくないが、それが家族として鍛冶屋をしているとなると、ちょっと運命みたいな物を感じるよ。
まぁ、俺は悲劇を引き起こした運命が嫌いだけど。
……時間に宿が必要になるけど、どうしようか。確か、ギルドにはタダで泊まれる雑魚寝の大部屋があったはずだし、そこで一晩明かそう。




