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アイコン三国志  作者: 小金沢
第八章 夷陵の戦い
PR
81/126

〇八〇   天に二日あり

~~~許昌(きょしょう)の都 宮廷~~~



挿絵(By みてみん) 曹節(そうせつ)

「な――なんという無礼な!

いくら兄ちゃんの言葉とて許すわけにはいかない!

兄ちゃんを、曹丕をここにつれてきなさい! ぼくが問い質してやる!」



挿絵(By みてみん) 華歆(かきん)

「こ、皇后様、どうか落ち着かれよ」



挿絵(By みてみん) 曹節(そうせつ)

「これが落ち着いて聞いていられるか!

帝位を禅譲しろだって?

華歆! お前は曹丕の臣である以前に漢の臣であろう!

漢の禄をはむお前が献帝陛下によくもそんなことを言えるな!」



挿絵(By みてみん) 曹丕(そうひ)

「はしたないね曹節君。皇后なら皇后らしくしたまえ」



挿絵(By みてみん) 曹節(そうせつ)

「兄ちゃん! いや曹丕! そこに直れ!

曹彰兄ちゃんから習った虎殺しの奥義を見せてやる!」



挿絵(By みてみん) 曹丕(そうひ)

「怖い怖い。たしかに素手の勝負なら君には敵いそうもない。

でもご覧のとおり、僕の左手には亡き父上から習った剣がある。

いくら君でも剣には勝てないだろう?」



挿絵(By みてみん) 曹節(そうせつ)

「むむむ。皇后であるぼくを脅すつもりか!?

そもそも帯剣して宮中に上がるなんて――」



挿絵(By みてみん) 献帝(けんてい)

「よしなさい、曹節。

…………もういいのだ」



挿絵(By みてみん) 曹節(そうせつ)

「陛下! もういいってどういうこと?」



挿絵(By みてみん) 献帝(けんてい)

「曹丕殿。あなたに帝位を譲ろう」



挿絵(By みてみん) 曹節(そうせつ)

「!?」



挿絵(By みてみん) 曹丕(そうひ)

「これはこれは。さすがに陛下は話が早くて助かるね。

僕も手荒な真似はしたくない。だから禅譲という形を取ろうと言うんだ。

曹節君と違いそのあたりを陛下はよくご存知だよ」



挿絵(By みてみん) 曹節(そうせつ)

「な――なにが禅譲だ! こんなのは簒奪だ!」



挿絵(By みてみん) 献帝(けんてい)

「曹節、お前の気持ちはありがたいが、それ以上の言葉は慎みなさい。

……朕は何度も曹操に帝位を譲ろうと持ちかけた。

曹操にはいつも断られたが、その子息に譲れるのならば悔いはない」



挿絵(By みてみん) 曹節(そうせつ)

「でも、でも、陛下ぁぁ……。ええ~ん……」



挿絵(By みてみん) 曹丕(そうひ)

「話はついた。華歆君、すぐに準備を整えたまえ」



挿絵(By みてみん) 華歆(かきん)

「は、はい!」



挿絵(By みてみん) 献帝(けんてい)

「これでいい。これでいいんだ。だから泣くな、曹節……」



~~~建業(けんぎょう)~~~



挿絵(By みてみん) 孫権(そんけん)

「曹操のバカ息子が皇帝になったって? へ~え」



挿絵(By みてみん) 諸葛瑾(しょかつきん)

「バカむ……曹丕様は献帝陛下から禅譲されるという形式で、帝位につかれました。

その後、献帝は僻地へ追いやられたとも、暗殺されたとも伝わっています」



挿絵(By みてみん) 張昭(ちょうしょう)

「な、な、なんという傲慢な、横暴な、不遜な、尊大な……」



挿絵(By みてみん) 虞翻(ぐほん)

「こんなことは許しがたいゲス! 即刻、曹丕を討つでゲスよ!」



挿絵(By みてみん) 孫権(そんけん)

「――と、儒者の連中は御立腹だけどよォ。陸遜、おめェはどう思うよ?」



挿絵(By みてみん) 陸遜(りくそん)

「そうですね。

曹丕さんが皇帝になられたなんて、とってもおめでたいことです。

ぜひお祝いしましょう!」



挿絵(By みてみん) 程秉(ていへい)

「い、言うに事欠いてお祝いだと!?」



挿絵(By みてみん) 厳畯(げんしゅん)

「き、貴様は何を言っているかわかっているのか!?」



挿絵(By みてみん) 陸遜(りくそん)

「ええ? だって、ボクらは曹丕さんに降伏してるんですよ。

臣下が主君の即位をお祝いするのは当たり前じゃないですか~」



挿絵(By みてみん) 孫権(そんけん)

「ははっ。違ェねェや」



挿絵(By みてみん) 張昭(ちょうしょう)

「そ、孫権殿…………!」



挿絵(By みてみん) 陸遜(りくそん)

「それにそれに、お祝いしたらきっとお返しがもらえますよ。

曹丕さんが皇帝なら、孫権艦長は王位くらいもらえるんじゃないかな?」



挿絵(By みてみん) 諸葛瑾(しょかつきん)

「それはいい。

艦長は偉そうにしてますが官位はたかが荊州刺史に過ぎませんからね。

王になれれば箔が付くというものです」



挿絵(By みてみん) 孫権(そんけん)

「そうなりゃますますでけェ顔ができるってもんだ。

――ってなわけで、誰か曹丕のヤローに御祝儀を届けてきてくんな」



挿絵(By みてみん) 張昭(ちょうしょう)

「……漢の滅亡までも自分のために利用なさるか。

まったく、我が御主君はたくましくなられたものだ! 大変に結構ですな!!」



~~~成都(せいと)~~~



挿絵(By みてみん) 劉備(りゅうび)

「陛下が……死ん、だ……?」



挿絵(By みてみん) 孫乾(そんけん)

「い、いえ。亡くなられたかどうかまではわかりません。

依然として情報が錯綜していまして……」



挿絵(By みてみん) 伊籍(いせき)

「いずれにしろ、漢は滅びた。それだけは確かなようです……」



挿絵(By みてみん) 劉備(りゅうび)

「なんということじゃ……。

わしは陛下のために何もできんかったのか……」



挿絵(By みてみん) 張飛(ちょうひ)

「曹丕め……。正直、アイツを甘く見てたわ。

こんなに強引に事を進めるなんて……」



挿絵(By みてみん) 劉巴(りゅうは)

「帝位を簒奪する前には、弟の曹植や曹彰らを失脚させたそうだ。

特に曹植は詩聖とうたわれるほど名声が高かったからな。

だが腹心の楊脩らも殺され、もう何もできまい」



挿絵(By みてみん) 彭羕(ほうよう)

「曹操の弟分だった曹洪も投獄されたそうだぞ。

自分の対抗馬になりうる一族を次々と排除してやがる。

曹操以上に冷酷な男だぜ……」



挿絵(By みてみん) 秦宓(しんふく)

「何より憂慮すべきは、これで我々が漢王室の復興という大義名分を失ったことだ。

せっかくの漢中王という称号も有名無実なものになってしまった。

これからどうすべきか……」



挿絵(By みてみん) 諸葛亮(しょかつりょう)

「馬鹿め。これは絶好の機会ではないか」



挿絵(By みてみん) 許靖(きょせい)

「ぜ、絶好の機会? なんの話だ?」



挿絵(By みてみん) 諸葛亮(しょかつりょう)

「これだけ雁首そろえてなぜわからぬ?

漢が滅びた? だからどうした?

ならば貴様が漢そのものになればよかろう」



挿絵(By みてみん) 劉備(りゅうび)

「…………へ? わ、わしが? 漢に? どういう意味じゃ?」



挿絵(By みてみん) 諸葛亮(しょかつりょう)

「貴様が献帝の次の皇帝となり、漢はいまだ健在だと言えばよかろう。

貴様は皇帝の末裔サマで、しかも漢中王サマなのだろう?

資格は十分ではないか」



挿絵(By みてみん) 劉備(りゅうび)

「わ、わしが……皇帝に……?」



挿絵(By みてみん) 諸葛亮(しょかつりょう)

「どうした。皇帝になるのは貴様の夢であろう。もっと喜ばぬか」



挿絵(By みてみん) 劉備(りゅうび)

「い、いや……急に言われたもんじゃから、なんか実感が湧かなくてのう」



挿絵(By みてみん) 張飛(ちょうひ)

「でも、それって良い考えよ。

天下広しといえども、献帝陛下の跡を継げるのは、

今やアンタしかいないんだから!」



挿絵(By みてみん) 趙雲(ちょううん)

「おめでとうッス! ついに劉備先輩の夢が叶うッス!」



挿絵(By みてみん) 劉備(りゅうび)

「わしが……皇帝に……」



挿絵(By みてみん) 諸葛亮(しょかつりょう)

「そうだ、ちょうどいい。貴様にあれをくれてやろう。

――黄月英」



挿絵(By みてみん) 黄月英(こうげつえい)

「はいです。ででででん。伝国の玉璽~~」



挿絵(By みてみん) 玉璽(ぎょくじ)



挿絵(By みてみん) 劉巴(りゅうは)

「ぎょ、ぎょ、ぎょ、ぎょ、ぎょ、玉璽ィィィ!?」



挿絵(By みてみん) 李厳(りげん)

「玉璽って、皇帝の証だというあの印綬か!?」



挿絵(By みてみん) 張飛(ちょうひ)

「ち、ちょっと諸葛亮! アンタこれどこで手に入れたのよ!?」



挿絵(By みてみん) 諸葛亮(しょかつりょう)

「拾った」



挿絵(By みてみん) 費詩(ひし)

「拾えるものなのか……」



挿絵(By みてみん) 龐羲(ほうぎ)

「こ、こんな大事な物を無造作に持ち歩いておられたのか?」



挿絵(By みてみん) 諸葛亮(しょかつりょう)

「ただの良く光る判子だ。だが今の貴様らには有用であろう」



挿絵(By みてみん) 劉備(りゅうび)

「ううむ……。皇帝か……。

ぎ、玉璽を見ているとなんだかその気になってきたぞ……」



挿絵(By みてみん) 簡雍(かんよう)

「あのろくでなしの劉ちゃんが皇帝になるんか。

……世も末だな」



~~~許昌の都 軍議場~~~



挿絵(By みてみん) 曹丕(そうひ)

「劉備君が皇帝を名乗った? だからどうしたんだい?

魏帝国にあだなす逆賊が何を自称しようが痛くもかゆくもないよ。

どうせ僕が滅ぼすまでの短い栄華の時さ。好きにさせておきたまえ」



挿絵(By みてみん) 董昭(とうしょう)

「は、はい……」



挿絵(By みてみん) 王朗(おうろう)

「しかしこれは由々しき事態ですぞ!

一刻も早く劉備を討つべきでしょう!」



挿絵(By みてみん) 賈詡(かく)

「いや、焦ることはありますまい。

劉備はいま、関羽の仇討ちのため孫権の討伐を目論んでいる。

劉備と孫権が共倒れになるのを待つべきであろう」



挿絵(By みてみん) 鍾繇(しょうよう)

「ずいぶんと消極的な考えじゃな。

魏帝国が建国された今こそ、一息に中華統一をすべき――。

んん? 誰かと思えば程昱ではないか。何しに参った?」



挿絵(By みてみん) 程昱(ていいく)

「なんじゃなんじゃ。

久々に参内してみたというに、見飽きた面々が顔をそろえておるわい。

人事を一新したのではなかったのか?

王朗が司空(しくう)じゃと? そんな人事で大丈夫か?」



挿絵(By みてみん) 王朗(おうろう)

「こ、これは手厳しいですな程昱殿。

ところで引退なさった御老体がなんの用ですかな?」



挿絵(By みてみん) 程昱(ていいく)

「フン、曹丕の陛下に招かれて復帰したんじゃ。

ワシのことはいい、それより孫権が即位の祝儀とともに捕虜を返還してきおったぞ」



挿絵(By みてみん) 于禁(うきん)

「ただいま、戻りましたぜ」



挿絵(By みてみん) 東里袞(とうりこん)

「…………戻りました」



挿絵(By みてみん) 浩周(こうしゅう)

「は、はは…………」



挿絵(By みてみん) 呉質(ごしつ)

「むざむざ関羽の捕虜になり、

孫権の手に渡っておきながら、無様に帰ってきたのか。

どのツラ下げて陛下に会いに来たのだ? んん?」



挿絵(By みてみん) 曹丕(そうひ)

「まあまあ、そのくらいにしてあげたまえ。彼らも苦労したんだ。

ところで孫権君は僕の即位に関して何か言っていたかな?」



挿絵(By みてみん) 浩周(こうしゅう)

「た、大変おめでたいことであると喜んでいました!

も、もはや孫権が陛下に逆らうことはないでしょう!

中華統一も目前です!」



挿絵(By みてみん) 東里袞(とうりこん)

「……いや、それは表面上だけのことだ。

いつの日か必ず、孫権は再び我らの敵となるだろう。

決して油断なさるな」



挿絵(By みてみん) 浩周(こうしゅう)

「と、東里袞。へ、陛下の前でなんということを言うんだお前は!」



挿絵(By みてみん) 曹丕(そうひ)

「ふうん。于禁君はどう思うんだい?」



挿絵(By みてみん) 于禁(うきん)

「孫権の旦那は一代の傑物だ。俺っちが言えるのはそれだけさ」



挿絵(By みてみん) 曹丕(そうひ)

「なるほど。

――そうだ、君たちは父上の葬儀にも出られなかっただろう。

せっかくだから墓参りをしてきたまえ。質素だけど良い墓ができたんだ」



挿絵(By みてみん) 于禁(うきん)

「ああ……」



~~~許昌の都 墓所~~~



挿絵(By みてみん) 于禁(うきん)

「………………」



挿絵(By みてみん) 浩周(こうしゅう)

「あわわわわわわわわ。

へ、陛下は、内心では激怒しておられるのだ……。

あわわわわわわわわ……」



挿絵(By みてみん) 東里袞(とうりこん)

「けっ……。性格の悪い野郎だとは思ってたけどよ、ここまでとはな!

『関羽に降伏し醜態をさらす于禁と、降伏を拒絶し壮絶に討ち死にする龐徳』

の壁画だとよ!」



挿絵(By みてみん) 于禁(うきん)

「…………まあ、よく描けてるじゃねえか」



挿絵(By みてみん) 浩周(こうしゅう)

「どどどどどどうしましょう!?

ど、どうすれば陛下の怒りを解くことができますか!?」



挿絵(By みてみん) 東里袞(とうりこん)

「知らねえよ。自分で考えろ」



挿絵(By みてみん) 于禁(うきん)

「……俺っちは鮑信の旦那に代わり、

曹操の旦那の行く末を見守るため、生き恥をさらすことを選んだ。

でも曹操の旦那はくたばった。生き恥だけが残っちまった」



挿絵(By みてみん) 東里袞(とうりこん)

「だがこれで曹丕という男の底は見えましたよ。

魏に何十年も仕えてきた于禁将軍にこの仕打ちとはな!

こんな男には見切りをつけましょうや、将軍!」



挿絵(By みてみん) 于禁(うきん)

「よせよ。俺っちはもう将軍でもなんでもねえ。ただの一兵卒の于禁だ。

曹丕の旦那がどう思ってようが、俺っちには関係ねえ。

ま、一兵卒は一兵卒らしく、一からやり直すとするさ」



挿絵(By みてみん) 東里袞(とうりこん)

「…………曹丕のもとに残られるのですか?」



挿絵(By みてみん) 于禁(うきん)

「曹丕じゃねえ。

俺っちはいつまでも曹操の旦那の、いや旦那の残した魏の臣さ」



挿絵(By みてみん) 東里袞(とうりこん)

「………………」



挿絵(By みてみん) 浩周(こうしゅう)

「どうしようどうしようどうしようどうしよう…………」



~~~成都 式典場~~~



挿絵(By みてみん) 劉備(りゅうび)

「わしはここに漢王室の再興を宣言する!

曹魏の偽りの世を正し民を救い、献帝陛下の雪辱を果たすんじゃ!!」



挿絵(By みてみん) 張飛(ちょうひ)

「漢皇帝・劉備バンザーーイ!!」



挿絵(By みてみん) 趙雲(ちょううん)

「漢帝国バンザーーイ!!」



挿絵(By みてみん) 馬岱(ばたい)

「せや! 魏を討つんや!!」



挿絵(By みてみん) 李恢(りかい)

「やりましょう! 我々の力で! 必ず!」



挿絵(By みてみん) 黄権(こうけん)

「バンザーーイ!!」



挿絵(By みてみん) 魏延(ぎゑん)

「オオオオォォォォオオオオン!!」



~~~成都~~~



挿絵(By みてみん) 劉備(りゅうび)

「ふう……。さすがに疲れたのう」



挿絵(By みてみん) 諸葛亮(しょかつりょう)

「ご苦労。

ただの無能だとばかり思っていたが少しは演説もマシになったではないか。

即位の祝いだ。たまには褒めてやろう」



挿絵(By みてみん) 劉備(りゅうび)

「いやあ、亮さんの台本が良かったんじゃよ。

三日三晩、徹夜してそれを丸暗記しただけじゃ」



挿絵(By みてみん) 張飛(ちょうひ)

「でも暗記できるようになっただけでも大した進歩じゃないの!

伊達に皇帝サマじゃないわね!」



挿絵(By みてみん) 劉備(りゅうび)

「いやあ、そんなに褒められると照れるのう!

……でもそんなことより、わしは、いや朕にはやるべきことがあるんじゃ。

早速じゃがその相談をしたい」



挿絵(By みてみん) 張飛(ちょうひ)

「……関羽の仇討ちね」



挿絵(By みてみん) 劉備(りゅうび)

「おう。孫権を討つ。それが朕の皇帝としての初仕事じゃ!」



挿絵(By みてみん) 趙雲(ちょううん)

「待つッス先輩! ついさっき打倒・曹魏を掲げたばかりなのに、

孫権先輩を攻めるんじゃあ道理が合わないッスよ」



挿絵(By みてみん) 張飛(ちょうひ)

「道理なんて関係ないのよ。アタイと劉備の一番の願いはそれなんだからね!

……この晴れの舞台に、関羽のヤツにもいて欲しかったわ。

あのバカ! なんでこんな時に死んじゃうのよ……」



挿絵(By みてみん) 董夫人(とうふじん)

「……でも道理の問題だけじゃなく、遠征自体にも不安が残るわよ。

荊州の軍馬を失ったことも大きいし、上庸(じょうよう)も魏に寝返ったと聞いてるわ。

益州に残ってる戦力も、うちの馬超は毒矢で撃たれて寝込んでるし、

留守を任せる糜竺は弟が謀叛した責任を取って隠居したし、

法正や黄忠も漢中制圧戦で無理をして倒れてるし……」



挿絵(By みてみん) 法正(ほうせい)

「それなら心配はいらん。ワシは大丈夫じゃき」



挿絵(By みてみん) 劉備(りゅうび)

「法さん!? 寝ておらんと駄目じゃろうが!」



挿絵(By みてみん) 黄忠(こうちゅう)

「ゴーーホッゲホゴホッ!! わ、儂もまだまだ戦うんじゃからな!」



挿絵(By みてみん) 張飛(ちょうひ)

「黄忠まで……そういうのを年寄りの冷や水って言うのよ!

おとなしく寝てなさい!」



挿絵(By みてみん) 法正(ほうせい)

「孫権を討つのだろう? それならワシの……グフッ!

ワシの、頭脳が、必要だろうが……」



挿絵(By みてみん) 趙雲(ちょううん)

「駄目ッスよ。御二人にもしものことがあったら、それこそ一大事ッス」



挿絵(By みてみん) 張飛(ちょうひ)

「そうそう。それにまだまだアタイらには戦力が揃ってるんだから心配しなさんな。

――たとえば、そこでふんぞり返ってる偉そうなウチワ馬鹿とかさ!」



挿絵(By みてみん) 諸葛亮(しょかつりょう)

「余を指すに適当ではない呼称は見逃してやるとして、

いったいなんの話だ?」



挿絵(By みてみん) 張飛(ちょうひ)

「なんの話って――アンタが遠征軍の指揮を執りなさいって話に決まってるでしょ!」



挿絵(By みてみん) 諸葛亮(しょかつりょう)

「はあ? 何を言っているのだ貴様は。

もはや余が手を貸してやることはない。

約定は果たしてやったではないか、劉備よ」



挿絵(By みてみん) 劉備(りゅうび)

「へ?」



挿絵(By みてみん) 諸葛亮(しょかつりょう)

「貴様を望み通り皇帝にしてやった。

余は約定を果たしたのだ。

これ以上、貴様ら凡愚どもに付き合ってやる義理はない」



挿絵(By みてみん) 張飛(ちょうひ)

「し、諸葛亮……アンタ……」



挿絵(By みてみん) 諸葛亮(しょかつりょう)

「余は草廬へ帰る。

余の貴重な頭脳を貴様らのために消費させてやるのは無駄だからな」



挿絵(By みてみん) 張飛(ちょうひ)

「……ああ、そう。

アンタのこと、ちょっとは認めてたんだけどね……。

いいわ。アンタの力は借りない。

今までご苦労さん。草廬でもどこでも行っちまいなさいよ!!」



挿絵(By みてみん) 諸葛亮(しょかつりょう)

「無論だ。貴様の赦しがいることか?

行くぞ、黄月英。馬謖」



挿絵(By みてみん) 黄月英(こうげつえい)

「はいです」



挿絵(By みてみん) 馬謖(ばしょく)

「ええ、御主人様」



挿絵(By みてみん) 李恢(りかい)

「と――止めなくてよろしいのですか?」



挿絵(By みてみん) 張飛(ちょうひ)

「止めて止まるようなタマじゃないわよ! もう知らないわあんなヤツ!!

ほら劉備! しゃんとしなさいよ! 遠征軍の編成を考えるわよ!」



挿絵(By みてみん) 劉備(りゅうび)

「………………亮さん」



~~~成都 郊外~~~



挿絵(By みてみん) 黄月英(こうげつえい)

「………………」



挿絵(By みてみん) 諸葛亮(しょかつりょう)

「何か言いたそうだな、黄月英。

名残が惜しいとでも言いたいのか?」



挿絵(By みてみん) 黄月英(こうげつえい)

「……私は御主人様に従うだけです」



挿絵(By みてみん) 諸葛亮(しょかつりょう)

「クックックッ……。

人形のように無機質な貴様も、だいぶあの愚者どもに感化されたようだな」



挿絵(By みてみん) 黄月英(こうげつえい)

「……それを言うなら御主人様の方こそです」



挿絵(By みてみん) 諸葛亮(しょかつりょう)

「なんだと?」



挿絵(By みてみん) 黄月英(こうげつえい)

「昔は従者にいちいちそんなことを聞く人じゃなかったです」



挿絵(By みてみん) 諸葛亮(しょかつりょう)

「…………下らぬ」



挿絵(By みてみん) 馬謖(ばしょく)

「そ、そんなことよりあのー。

な、なぜかうちの兄貴がついてきちゃってるんですけど……」



挿絵(By みてみん) 馬良(ばりょう)

「………………」



挿絵(By みてみん) 黄月英(こうげつえい)

「きっと馬良はついてくれば働かなくてもいいかもと考えてるです」



挿絵(By みてみん) 諸葛亮(しょかつりょう)

「馬鹿な。ついてきたからにはタダ飯は食わせぬぞ。働け馬良」



挿絵(By みてみん) 馬良(ばりょう)

「………………」



挿絵(By みてみん) 馬謖(ばしょく)

「あ……帰ってった……」



挿絵(By みてみん) 黄月英(こうげつえい)

「入れ替わりに誰か来るです。殺すですか?」



挿絵(By みてみん) 法正(ほうせい)

「し、諸葛亮殿! はあっ、はあっ……。

ゴホッ! ゲホッ! ゴホッ!!」



挿絵(By みてみん) 黄月英(こうげつえい)

「殺すまでもなさそうです」



挿絵(By みてみん) 法正(ほうせい)

「ま、待ってくれ諸葛亮殿。ワシの……ワシの頼みを聞いてくれぜよ」



挿絵(By みてみん) 諸葛亮(しょかつりょう)

「断る」



挿絵(By みてみん) 法正(ほうせい)

「ワシは……もう戦えん。

口では強がりを言ったが、ワシの身体はもう従軍には堪えられんぜよ」



挿絵(By みてみん) 諸葛亮(しょかつりょう)

「断ると言った」



挿絵(By みてみん) 法正(ほうせい)

「どうかワシの代わりに軍師を務めてくれ!

殿を、陛下をこれまで通り助けてくれんか……」



挿絵(By みてみん) 諸葛亮(しょかつりょう)

「…………貴様は龐統になりたかっただけではないのか?」



挿絵(By みてみん) 法正(ほうせい)

「え……?」



挿絵(By みてみん) 諸葛亮(しょかつりょう)

「益州で不遇をかこち、才能を腐らせていた貴様は、龐統がうらやましかった。

仕えるべき主君を持ち、信頼を受け、才能を存分に発揮していた龐統が」



挿絵(By みてみん) 法正(ほうせい)

「………………」



挿絵(By みてみん) 諸葛亮(しょかつりょう)

「その龐統が目の前で死に、後釜になれる機会が転がってきた。

貴様は龐統に成り代わった。

そしていま己が死に瀕し、龐統の役目を余にやらせようとしている。

下らぬ。余は龐統ごときの代わりなど死んでも御免だ」



挿絵(By みてみん) 法正(ほうせい)

「…………ああ、そうぜよ。ワシは龐統がうらやましかった。

龐統になりたかった。否定はせん。

だが、それだけじゃないぜよ。

龐統と同じようにワシは、殿が好きになったんじゃ。

殿のために戦いたい。殿の力になりたいんじゃ」



挿絵(By みてみん) 諸葛亮(しょかつりょう)

「ほう。龐統ではなく法正の代わりをしろと言うのか。ますます御免蒙る」



挿絵(By みてみん) 法正(ほうせい)

「理由はなんでもいい!

どうか、どうかもう一度、殿のために……ゴホッ! ゲハアッ!!」



挿絵(By みてみん) 黄月英(こうげつえい)

「気絶したです。とどめ刺すですか?」



挿絵(By みてみん) 諸葛亮(しょかつりょう)

「捨て置け。

行くぞ、黄月英。馬謖」



挿絵(By みてみん) 黄月英(こうげつえい)

「………………やっぱり変わったです。

法正にたくさんしゃべったです」



挿絵(By みてみん) 諸葛亮(しょかつりょう)

「だからどうした? 傷をえぐってやっただけだ」



挿絵(By みてみん) 馬謖(ばしょく)

「お前さっきから御主人様に対して生意気だぞ」



挿絵(By みてみん) 黄月英(こうげつえい)

「馬謖は黙るです」



挿絵(By みてみん) 諸葛亮(しょかつりょう)

「うるさい。死ね。不満があるなら消えろ」



挿絵(By みてみん) 黄月英(こうげつえい)

「消えないです。従者はついていくだけです」



挿絵(By みてみん) 諸葛亮(しょかつりょう)

「好きにしろ」



~~~~~~~~~



かくして伏龍は劉備のもとを去った。

残された劉備、張飛は義兄弟の仇討ちを新たに願う。

だが立ち上がったばかりの蜀漢の行く手には暗雲が待ち構えていた。


次回 〇八一   次代の風

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