〇〇七 董卓追討軍
~~~長沙~~~
「現れたな孫堅! お前とも戦い飽きた。今日こそ決着をつけてやろう!
この長沙は大盗賊・区星様のものだーーッ!!」
「おう、だりィけど暇つぶしによろしく頼むわ」
「旦那様、しばしお待ちください。
袁紹様よりこのような手紙が届いております」
「あぁん? 董卓追討軍を結成するからお前も来いだと? へえ」
「何をだらだらと話している。
よそ見をしている間に斬り捨て――うおおっ!?
ば、馬鹿な。この俺様が、一撃で…………」
「悪ィな区星。おめェと戦ってるより面白そうなことが始まったんだ。
手加減してやるのは今日までだ。
野郎ども、盗賊は片付いた。さっさと都へ行くぜ!」
~~~洛陽への道~~~
「おうおう関さん、張さん。面白そうなことになったのう。
董卓のアホをやっつけちまおうって、
各地から続々と諸侯が集まっとるぞ」
「……で、それになんでアタイたちが参加しなきゃいけないのよ」
「そりゃあ董卓にいいように使われとる皇帝陛下は、
わしの親戚じゃからな。助けてやらにゃいかんじゃろ」
「何が親戚だか。
アンタは同じ姓だから皇族だって勝手に自称してるだけじゃないの。
それにこのドタバタに乗じて一旗揚げてやろうってのが本音のくせに」
「はっはっはっ、全くその通りじゃ。
でも張さんは人が良いのう。
なんだかんだ言いながらわしを助けてくれる」
「そりゃアンタみたいな甲斐性なし、
ほっといたら即座に野垂れ死にするからね。
ちょっとの間でも付き合ってやった仲だもの。
野垂れ死にさせたら寝覚めが悪いじゃないか」
「またまたそんな憎まれ口叩きおって。
張さんみたいなのを世間でああ言うんじゃな。
なんじゃったかな、ほら、ツンツンじゃなくて、ええと」
「ツンデレ」
「そうじゃ、張さんはツンデレじゃ!」
「誰がツンデレよ!
それに天下の関帝様ともあろう人が、初セリフがツンデレって何事よ!
アンタ祟られたいの!?」
「何を興奮しとるんじゃ?
それより、物知りの張さんならあの諸侯もみんな知っとるじゃろ。
ちょっと紹介してくれんかのう」
「全く、しょうがないわね。
アタイがいなけりゃ、何にもできやしないんだから」
~~~董卓追討軍 全諸侯入城~~~
近づきしだい斬りまくってやる!
龍に比された猛将・劉岱だァッ!!
無敵の騎馬軍団が逆賊を踏みつぶす!
北方の雄・白馬将軍こと公孫瓚!!
先祖が偉けりゃ俺も偉い!
儒学の祖・孔子の末裔・孔融だァ!!
強敵のためなら命も惜しまん!
武侠の河内太守・王匡!!
金も名声ももう飽きた! 欲しいのは董卓の首一つ!
名家の伊達男・張邈!!
兄貴だけだと思うなよ! 張家の遺伝子が吼える!
張邈の弟・名家の御曹司・張超!!
にっこり笑顔で人を刺す!
徐州の曲者刺史・陶謙だァーー!!
呂布対策は完璧だ!
文武両道に名高き名門の出・鮑信!!
戦は力じゃない! 頭でやるものだ!
博学な山陽太守・袁遺!!
陛下のためなら命も捨てる!
心優しき仁愛の将・張楊!!
筆は剣よりも強しを証明してやる!
檄文の名手・橋瑁だ!!
ヒロォォォォォいッ説明不要!!
広大な冀州を領する韓馥!!
清談はこの男が完成させた!
当代一の清談家・孔伷!!
袁紹と覇を競うもう一人の名族!
煩悩は力だ! 袁術だァ!!
特に理由はないッ 名族が強いのは当たり前!!
董卓追討軍盟主・ミスター名族・袁紹が来てくれたーーー!!
「ふう、ざっと目に付くのはこんなとこかしら」
「さすが張さんじゃのう。
しかしこれだけそうそうたるメンツが集まったら、
董卓なんかちょちょいのちょいで倒せそうじゃな」
「それはどうかしらね。
董卓軍は厳しい北の大地で、異民族を相手に長年戦ってきたのよ。
黄巾の乱が起きたばかりとはいえ、
中央の兵たちは経験値では董卓軍に大きく劣るわ。
……それより、アンタこれからどうするのよ。
どこかの軍に潜り込まないと、褒美の一つももらえないわよ」
「それなら心配いらん。
公孫瓚とわしは、盧植先生のもとで一緒に学んだ仲なんじゃ。
公ちゃんに頼み込めばきっと雇ってくれるじゃろう」
「ふーん。アンタにしちゃあ珍しく、まともな考えがあったのね。
じゃあ早速、公孫瓚のもとに行きましょ」
「……………………」
~~~洛陽の都 呂伯奢邸~~~
「完全に出遅れてしまったな。
このままでは董卓追討軍と戦うことになる。
それを断れば逆賊として董卓に殺されるだろう。
どうするのだ、曹操?」
「君の言うとおりだよ。八方ふさがりだね。
遺書でも書くとしようか」
「また心にもないことを……。
曹操、お前なら成すべきことはわかっているはずだ。
だがお前にはまだ迷いがある。
だから実行に移せないままずるずると来てしまい、逃げる機会を失った」
「おやおや、今日の戯志才君はずいぶんと手厳しいね」
「お前の優柔不断に付き合って死ぬのはごめんだ。
今日は言いたいことを言わせてもらう」
「お話中のところすみません、お食事の準備が整いました。
どうぞこちらへ」
「たとえばこの男だ。
この男は董卓の配下で、もてなしを口実にお前を見張っているが、
お前は知らぬふりをしている」
「な、何をおっしゃるのですか」
「曹操、お前がこの男を殺せないのならば、
私が代わりにやってやろう」
「お、おたわむれを……
ウギャー! 董卓様ーッ!」
「いいか曹操、お前が人に背くことがあっても、
人がお前に背くことは許してはならない。
そのくらいの心構えを持つんだ。さあ、早く都から脱出するぞ」
「やれやれ、君がこんなに強引な手段を取るとはね。
……でも、せっかく汚れ仕事をやってもらったけど、
この出来事は結局、僕のしわざになるような気がするのは、なぜだろうね」
~~~洛陽の都 南方 孫堅軍~~~
「くそっ。もう董卓追討軍の連中は集まっちまったみてえだな。
董卓の野郎があんな南の果てまで飛ばすもんだから、出遅れちまったぜ」
「焦ることはありません、旦那様。主賓は我々なのです。
旦那様が到着するまでは、宴は始まりません」
「艦長! 前方に敵軍だ!」
「ヒャッハァー! ここは通さないぜ!」
「董卓軍がこんなところで待ち構えてるとはな!
韓当、あいつを倒せ!」
「おう! おおばさみの切れ味を見やがれ!」
「あべし!!」
「くっ! 副将の胡軫がやられたか。
退けーッ! 退却だ!」
「面舵いっぱい! 追撃をかけろ!
あいつの首を手土産に追討軍に合流だ!」
「お覚悟下さい、華雄様」
「し、しまった! 追いつかれ――ぐわあああああッ!!!」
~~~洛陽の都 南方 董卓軍~~~
「華雄がやられたようだな……」
「だがヤツは四天王の中でも最弱……」
「孫堅ごときに負けるとは四天王の面汚しよ……」
「っていうかあいつは四天王じゃねえしな。四天王は俺ら四人だ」
「ここまでは計算通りだ。
華雄を倒して油断したところを包囲せよ!」
「我ら四天王が出るまでもない……。徐栄、かかれ!」
「はッ!」
~~~洛陽の都 南方 孫堅軍~~~
「旦那様、どうやら罠にはまったようです。
背後に徐栄様が現れ、さらに李傕様ら
四天王が我々を包囲しています」
「チッ。華雄を倒して一息ついたところに奇襲たァ良い策だぜ。
野郎ども! とっとと逃げるぞ!」
「艦長、ここは俺に任せてください」
「おう。後は頼んだぜ」
「お前を残して孫堅はしっぽを巻いて逃げたか。
たいした主君だな。同情するぞ」
「同情なんてよしてくれ。
うちの艦長は、勝つのも負けるのも見捨てるのもさっぱりしてるんだよ。
それが艦長の魅力さ」
「なるほど、そういうものか。
ならば遠慮はすまい。行くぞ、忠臣よ」
「ここで死ぬと決まった訳じゃない。
お前を片付けて艦長と合流してやるぜ!」
~~~洛陽の都 宮廷~~~
「兄貴! 良い知らせと悪い知らせが届いたぞ!
反乱軍に合流しようとした孫堅軍を撃破したが、
華雄が討ち取られたそうだ!」
「フハハハハハハ! 弟よ、それは良い知らせだけではないか。
華雄のような役立たずが死んだところで痛くもかゆくもないわ!」
「そりゃそうだ! こいつは兄貴に一本取られたぜ!」
「……ほほう、袁紹らの反乱軍は虎牢関に向かっているのか。
ならば虎牢関は呂布が守れ。
李儒らを反乱軍の背後に回し、挟み撃ちにしてやろう」
「dasfaq798asdfkvj.co.jp」
「それは私にとって良い仕事です。
すこしの兵がいれば城を守ることができます。
他の多くの兵はどうぞ回して下さい。もちろん敵の後ろへとね」
「フハハハハハハ! 吾輩は都で吉報を待っておるぞ。
愚かなる反乱軍どもを皆殺しにするのだ!」
~~~~~~~~~
かくして曹操の脱走はまだ
董卓にとって良い知らせにも悪い知らせにもならなかった。
はたして虎牢関で待ち構える呂布に、追討軍は勝つことができるのか?
そして迷える曹操は覇道を歩むことができるのか?
次回 〇〇八 虎牢関の戦い




