〇一七 曹操危機一髪
~~~平原~~~
「おいおい、話が違うじゃないか張さん。
孔融が取りなしてくれたから、
勅使を殴ったことは不問になったんじゃなかったのか?」
「取りなしてくれたから、
平原の県令を罷免されるだけで済んだのよ。
本来ならその首が胴から離れてたんだからねアンタ」
「…………チッ」
「何よその
『そんなことならもっと殴っておけばよかった』って舌打ちは!
アンタ関帝様のくせに発言がいちいち危険なのよ!」
「それより張さん、関さん。早く旅支度をするんじゃ」
「旅支度?
でも公孫瓚は罷免に呆れて受け入れてくれないと思うわよ。
今度は誰を頼る気なの?」
「誰かを頼ったりなんてせんぞ。
徐州へ助っ人に行くんじゃ!」
「徐州ってアンタまさか……
曹操に攻められてる陶謙の助っ人に行くつもり!?
よしなさい。曹操は最近になって大軍を手に入れたのよ。死ぬわよ」
「張さんと関さんがいるのに死ぬわけないじゃろ。
それとも張さんは曹操ごときに負けるほど弱かったんかのう?」
「フフン。そりゃ曹操ごとき敵じゃないけどさ。
でもちょっと数が……ああ、いいわよもう。アタイも学習したさね。
どうせアンタや関羽は勝手に突っ走るんでしょうよ。
付き合ってやるわよ! まったく、助っ人に行くなんて
すっかり味をしめちゃってさあ……」
~~~譙~~~
「それじゃあ荀彧君、留守は頼んだよ」
「はいはい。大船に乗ったつもりでお任せ下さい。
……しかし殿、ご無理はなさらないで下さいね」
「何の話だい」
「青州黄巾軍を取り込んだとはいえ、
まだ編成も満足にできていません。
戯志才殿との約束のため、一刻も早く
洛陽の都に上がりたいというお気持ちはわかりますが――」
「顔も知らない君が戯志才の名を出すな」
「は、はい! 差し出がましいことを申しました!」
「……行ってくる」
「今の曹操に意見するなんざそれこそ無理な話だ荀彧。
留守番になったメンツを見てみろ。
徐州討伐に良い顔をしてない奴ばっかりだ」
「ワシは別に反対してないがのう」
「まだ青州黄巾軍への屯田の割り振りもできちゃいない。
いくらなんでも遠征は急な話だ」
「殿はああ見えて焦っています。
早く自分の力を天下に示して、
洛陽に攻め上がりたいのでしょう」
「だが俺たちが何を言おうと耳を貸しやしないだろう。
お前も聞いただろ。戯志才と、呼び捨てにしてやがったぜあいつ。
戯志才は曹操にとって特別な存在なんだろうよ」
「殿がそこまで思い入れた男か。会ってみたかったのう」
「……殿が焦りから隙を見せたら、その隙を埋める。
我々にできることは、それだけでしょうな」
~~~徐州~~~
「はっはっはっ。さすがは曹操軍、
我が軍の前線をたやすく突破したそうです」
「ほっほっほっ。やはりお強いのう。
我々では歯が立たんか」
「お、恐れながら笑い事ではないかと……」
「陶謙様! 初めて援軍に応じてくださる方が来られました。
劉備殿という方です」
「劉……備? はて、どなたじゃろうか」
「この陣形を布いたのは誰だあっ!!」
「ひいいいいいい!!」
「ここに来るまでに見てきたけど
アンタらの陣形は全くなっちゃいないわね!
ちょっと図面持って来なさいよ! アタイが直してやるわ!」
「き、貴殿が劉備殿、であるかな?」
「アタイは張飛!
後ろのひょろ長いのが劉備、うすらでかいのが関羽よ。
いい、まず右翼の陣はもっと北寄りに、左翼の陣は
少し下がり気味に展開させんのよ。そんで――」
「………………」
「………………」
「………………」
~~~陳留~~~
「hsdiukls;::;jhdkj!?」
「たしかにミスター曹操は父を殺されました。
しかし民を巻き込むのは許せません!
誰かが彼にそれはいけないことだと言わなければならないのです。
もし誰もそれができないならば、
私がその役目を果たしたいと考えます」
「ま、まあまあ落ち着きたまえ呂布殿。
ほれ、酒でも飲みなさい。
徐州で曹操軍が略奪を働こうがどうしようが、
我々には関係ないでしょうに」
(お、おい弟よ。どうして呂布が我々を頼ってきたのだ?
そしてどうしてこんなに激怒しているのだ?)
(そ、そんなことは私が聞きたいですよ!
だいたい兄上が名士を気取ってやたらめったら人をもてなすから、
呂布が頼ってきたんでしょうに)
「gjkaksdal;;::ldjfdskkll!!」
「私は紳士です。弱いものの味方です。
いつもそうありたいと願っています。
ミスター張邈、私に三千の兵を貸して下さい。
私はミスター曹操を倒します」
「し、しかし、そ、曹操と私は同盟を結んでいるのだぞ」
「おうおう張邈さんよ! うちの大将が頭を下げてんだぜ。
三千でも三万でも四の五の言わずに出すのが道理だろーが!
オラ、ちょっと裏までツラ貸せや」
「張遼、無理強いをするな。
我々は世話になっている立場なん――」
「ヒイイィィィィィィィ!!
か、か、貸すとも! 全軍を呂布殿に貸す、貸しましょう!」
「……まあ、張邈殿がぜひにとおっしゃるなら、そう致そうか」
「FXCKIN! FXCKIN! FXCKIN!」
「私はミスター曹操と戦います。そして彼には後悔してもらいます。
酷い行いをしたこと、そして私を怒らせたことをね」
「あ、兄上……もしかして我々は
取り返しのつかないことに頭を突っ込んでしまったのでは……」
~~~徐州 西部 曹操軍~~~
「……実に不思議だ。一晩で陶謙君の陣が見違えるように堅牢になった。
まるで指揮官が昨夜のうちに代わったようだね」
「援軍が加わったんじゃないのか?」
「君たち青州黄巾軍を恐れて、
誰も陶謙君を助けようなんて考えていないよ。
それに兵の数は昨日から全く増えていない。
優秀な軍師が突然現れたのかな。
まあいい、郭嘉君。対策を教えてくれ」
「袁術」
「ああ、袁術君が僕たちのほうに援軍を申し出てるそうだね。
ていのいいことを言って、徐州に版図を拡大したいだけだろう。
そっちもどうにかしなければならないね」
「劉繇」
「なるほど、劉繇君は揚州に赴任するはずが、
袁術君に横取りされて、
やむなく西の曲阿に駐屯しているんだったね。
劉繇君を支援して袁術君を攻めさせれば、
徐州どころじゃなくなるだろう。
袁術君はそれでいいとして、陶謙君はどうする?」
「正攻法」
「多少は陣形がマシになったとはいえ、
兵力差を埋めるほどではないか。
わかった、正攻法でじっくりと攻めるとしよう。
……それにしても気になるのは、
僕たちが大虐殺をしているという噂が流れていることだね。
いったいどこの誰が、なんの目的で流しているのだろうか」
「ああ、気に入らねえな!
俺たちは敵の兵士は皆殺しにしても、
かよわい民には手を出さねえってのによ!」
「よし、俺が一刻も早く噂を流してる奴を突き止めて――」
「曹操のダンナ! 留守番の荀彧から急報だ!
張邈と張超が呂布と組んで攻めてきたってよ!」
「呂布だと」
「僕らがこうして大々的に徐州を攻めていれば、
反対勢力が立ち上がってくるとは思っていたけど、そうか呂布君か。
想像以上の大物が針にかかったようだね」
「段階的」
「ああ、陶謙君の新しい軍師に
おいそれと背中を見せる訳にはいかない。
郭嘉君、ここは君に任せるから段階的に撤退してくれ。
僕は手勢を率いて呂布君を迎撃に戻るよ。
徐州侵攻と最強の男の撃破、この二つの報が
僕の名をあまねく天下に広めてくれるだろう」
~~~~~~~~~
かくして最強の男・呂布と乱世の奸雄・曹操は激突する。
黒山賊10万を平らげた呂布は、青州黄巾軍30万も蹴散らしてしまうのか?
それとも曹操の智謀は最強の男の武勇も封じ込めるのか?
次回 〇一八 強襲!人中の呂布




