手続きは面倒なのですね
住み慣れた我が家を後にしてから数時間。
長閑な林道を馬車に揺られてそろそろお尻も辛くなってきたよなぁ~という頃に国境の町にたどり着きました。
フィールゼン伯爵領も国境に面した領地なのですがユーテリアス国への街道が無い為、唯一の街道であるクディル男爵領へまわって国外へ出る事になっているのです。
もともとアルシャン国とユーテリアス国は国交が無いので行き交う人の数というのも微々たるものだった、なので街道が少なくとも問題がない訳です。
しかも、50年前の愚王による侵略行為の危機にさらされていたアルシャン国は主要の街道の国境に要塞を建て自国を守ったのだそうだ。
街道を覆うように建てられた石造りの建物は巨大なうえ強固で過去の戦の凄まじさを物語っている。
今は平和になった為、戦の為の要塞としてはさほど機能しておらず要塞内部の街道を通り出入国審査を受け、ユーテリアス国とアルシャン国を行き来する為の関所のような役割をしているのだそうだ。そのため街が出来、商人の行き来もありそれなりに賑わっているのだそうです。
ガーディアルの話では魔導師が生きている事、『開かずの森』に潜伏している可能性がある事を近隣の王には伝えてあるのだそうです。
アルシャン国はこの森に最も近い国になります。
その為にクディル男爵領があり、森の監視、及び危急の対応を任されているのだそうだ。
実は父様も同じ理由で領地に住んでいるのだそうです。
クディル男爵もご高齢になり本来なら御子息が後を継ぐ予定だったのですが剣よりもペンを戦よりも政略を好む方らしく、色々な策略を巡らした末、父様が騎士としての腕を買われ後継者兼補佐という形で今の伯爵領を賜る事になってしまったのだそうだ。
クディル男爵の御子息は色々と凄い方のようです・・・父様の遠い目で語る姿を見ていたら色々と大変な事があったのではないかと・・・
父様のが身分でいえば上のはずなんですけどね・・・
魔術師が重要視されている中、『癒し』の力を持つ母様がいるのにこんな辺境の地に住む事を許されているなんてどうしてかと思ったんですがそんな理由があったとは・・・
アルシャン国側では出国審査を受ける訳なのですが、身分証明、出国の理由等を尋ねられ、出国許可証の確認などを行うのだそうです。
それからこれは公にはされてませんが出国審査の場には魔力探知が巡らされており、魔術師の存在の有無が分かるのだそうだ。
魔術師の国外流失・・・本人の出奔は勿論、誘拐され荷物にまぎれ込まされたり、偽の身分証明で連れ出そうとした者が過去に居た為にこの措置をとられるようになったのだそうだ。
いかに魔術師が国にとって重要かという事は分かるのですが・・・なんだか理不尽です。
魔力のあるガーディは身分証にその記載があるので特に問題は無いのだそうです。
私の場合も魔力があるので勿論、探知にかかりましたが、国王からの直々の出国許可証があるので大丈夫なようです。そんな凄い証明をもらってきたとはビックリです。
「それでは婚礼の為にユーテリアス国への出国という事で宜しいでしょうか」
出国審査の係員の方がサイザンさんが差し出した書類を確認しながら尋ねられますが・・・ああ・・・視線が痛いです。
元々は国境警備の軍人さんなんですよね・・・軍服姿が凛々しいザ・軍人って感じのガタイの良いおじさまなんですが・・・憐みの目で人の事を見るのは止めてクダサイ・・・
「フィールゼン伯爵ご息女ユリアナ=フィールゼン嬢・・・・5歳・・・お間違えは無いでしょうか」
「はい。間違えございません」
とりあえず笑顔で返事をしましたが、彼の瞳になんだか透明な雫が・・・
いや、そこまで憐れまれる事ではないと思うんですけど!
出国審査係は余計な不正を防ぐために審査対象と余計な話はしてはならない事になっているらしく、彼の心の中で私がどういう立場でどういう経緯でユーテリアス国に行くか非常に気になるのですが・・・教えて貰う事も出来ないんですよ~!
係員さんは私から視線を逸らすと気を取り直し他の人の確認をしていきます。
「なんだか俺、出国審査の人に睨まれたんだけど・・・なんでだ?」
出国審査の順は身分の高いものから順番に行っていくらしく、私の次に審査を終えたガーディが首をひねりながら聞いてきますが・・・うん、仕方ないですよ。
彼の中ではきっと幼女を囲おうとする爺の使いになってるハズですから・・・
ちなみにガーディはガーディアル=トルクスの代理人としてユリアナを迎えに来たと書類上は整えてあるので審査も私の次という立場なんですね。
公式の彼は年齢は50を過ぎたお爺さんなので「本人です」何て言っても不審に思われるだけです。
なので別の身分証を作成してあるのだそうですよ。
その他は特に問題なく無事出国出来ました。
次はユーテリアス国側での入国審査です・・・・なんだかメンドクサイですよねぇ・・・
各国、自国の利益を守る為とはいえもっと簡略化出来るといいんですけどね。
入国検査では荷物検査と書類の確認が主なようです。
ガーディがいても審査の厳しさは同じのようです。
貴族だからと言って特別待遇は無いのどそうです。
入国審査も無事に終え、ついにユーテリアス国の地を踏む事になりました。
なんだか不思議な感じですね。
昔は”印”の為に国からの逃亡が出来なかった。
その国に別の姿でこうして足を踏み入れる。
同じ土地、同じ場所ですが・・・今はガーディ達が必死で立て直した国。
どんな国なのか、どう変わっていったのか・・・なんだか楽しみなんですよ。