↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
24/33

24 マクベイン侯爵家の処分

24 マクベイン侯爵家の処分


 最後に残されたのは、マクベイン家だった。


 アンヌ嬢は手枷をはめられたまま、両親の間に座っている。先ほどまで怒りを見せていた侯爵も、今は青ざめ、額に汗を浮かべていた。


「さて、最後はマクベイン家だ」


 私はアレクサンダー殿下を見た。


「アンヌ嬢の術を解いていただけますか」


「断る。あの女の声は二度と聞きたくない」


「本人にも申し開きがあるかもしれません」


「扇でリシアの顔を切り、倒れさせた女の言い訳を聞けと?」


 殿下から冷たい魔力が漏れ、アンヌ嬢が怯えて父親の腕へしがみついた。


 私は少し考え、首を横へ振った。


「わかりました。このままで結構です」


(言い訳を聞けば、処分を言い渡す前に殿下が何をするかわからぬ)


 私はマクベイン侯爵へ向き直った。


「そなたの娘は、閉じた扇でリシア嬢の頬を打った。扇の飾りが皮膚を裂き、傷痕が残る可能性もある」


「娘は、そこまで傷つけるつもりではなかったはずです」


「傷つけるつもりがなければ、人の顔を扇で打ってよいのか?」


「そういう意味ではございません。ただ、娘はまだ若く、感情を抑えられなかったのだと思います」


「アンヌ嬢は、これまでも気に入らない相手へ扇を振るっている。家の使用人だけではない。王宮の下働きや商人の娘にまで手を上げていた。そなたは知らなかったのか?」


 侯爵は黙り込んだ。


 夫人が震えながら口を開く。


「周囲の者たちが、大げさに申しているだけだと思っておりました。アンヌは気が強いところはございますが、本当は優しい娘で……」


「被害を訴えた者を追い払い、黙らせてきたのだな?」


 夫人も口を閉ざした。


 私は調書を置いた。


「この娘一人が、ある日突然このようになったわけではない。気に入らない者を殴っても、身分の低い者を傷つけても、家が守ってくれる。周囲がそう教え続けた結果だ」


 誰も反論しなかった。


「アンヌ嬢の暴力を見て見ぬふりをした者、被害の訴えを握り潰した者についても調べる。過去二十年間、マクベイン家で働いた者の名簿と所在を提出せよ。すでに辞めた者を無理に連れ戻す必要はない。国が聞き取りを行う。隠蔽に加担した者と、被害を受けながら沈黙を強いられた者を同じように扱うつもりはない」


 家族の間に動揺が走った。


「お待ちください!」


 侯爵の長男らしい男が立ち上がった。


「すでに家を出た者まで、なぜ調べる必要があるのですか。たかが使用人ですよ! それに二十年とはどういうことですか?」


「静かにしなさい」


 私が低い声で告げると、男は口を閉ざした。


「今の言葉が、この家の問題をよく表している。下の者を人と思わず、家の力があれば何をしても許される。その考えを、家全体から捨ててもらう」


「どのように……でございますか?」


「家族には奉仕活動を命じる。ギルドで募集されている側溝や下水路の清掃、荷運び、孤児院や救護院の手伝いなどだ。管理はキンバレー家とミンティーノ家へ任せる。二家には処分を軽くした代わりに、そなたたちを監督する責任を負ってもらう」


 マクベイン侯爵は声を震わせた。


「領地は、どうなるのでしょうか」


「国の管理下に置く」


 侯爵が大きく息を呑んだ。


「領民の暮らしを、そなたたちへの処分に巻き込むわけにはいかぬ。国から代官を派遣し、領地を管理させる。そなたたちには住居を残し、食料、衣服など生活に必要な最低限のものを支給する」


「すべてを奪われるのですか……」


「領民を守るための措置だ。家族には奉仕と反省に専念してもらう。さすがに平民には落とさない。男爵位を授ける」


「男爵!」


 彼らは悲鳴のような声を上げた。


 私は一度言葉を切り、一同を見渡した。


「この処分は、永久に変わらないと決まったものではない。働きと反省を見て、将来改めることもある。質問も不満もあろう。だが今は、まず自分たちが黙らせてきた者たちの痛みに向き合いなさい」


 侯爵はうつむいたまま返事をせず、夫人は泣き崩れた。アンヌ嬢だけが、声の出ない口を激しく動かしている。


 それを見たアレクサンダー殿下が、わずかに指を動かした。


「この女も、屋敷へ戻れば話せるようになる」


「ありがとうございます、アレクサンダー殿下」


 侯爵が……いや、男爵が力なく答えた。


 殿下は返事をせず、リシア嬢の血がついたマントを抱えて立ち上がった。ギルバード殿下も席を立つ。



「お引き取りを」


 私が告げると、マクベイン家の者たちは互いに支え合いながら立ち上がり、部屋を出ていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。