23 ミルバーグ侯爵家の処分
23 ミルバーグ侯爵家の処分
二家が去ると、部屋は急に広くなったように感じられた。
残されたミルバーグ家とマクベイン家も、これから言い渡される処分が先ほどまでとは違うことを悟ったらしい。
私はミルバーグ侯爵へ視線を向けた。
「ミルバーグ侯爵。そなたの家に対する処分は、すでに決定している」
「お待ちください、宰相閣下。娘は確かに、その令嬢を呼び止めたのかもしれません。しかし、最初に手を出したのはマクベイン嬢なのでしょう? 娘は騒ぎに巻き込まれただけではありませんか」
私は調書を一枚取り上げた。
「ロザモンド嬢は、以前からリシア嬢を敵視していた。外務部の見学へ来た見習いたちの前で、わざと書類をまき散らし、拾わせたのも彼女だ」
外務部長が厳しい表情で続ける。
「そのなかには、外国語の綴りを誤った書類があった。リシア嬢が気づいたため、外交文書として使われる前に修正できたのです。感謝こそすれ、恨む理由などありません」
「ですが、それは娘だけがしたことでは……」
「まだある」
私は侯爵の言葉を遮った。
「王宮で道に迷った商家の跡取りへ、わざと反対方向を教えた。ほかにも、使用人や商人への嫌がらせがいくつも報告されている。店員へ暴言を吐いたという証言も得ている」
侯爵は返す言葉を失った。
「そして今回は、率先してリシア嬢を呼び止め、ほかの三人とともに取り囲んだ。倒れた彼女の手を踏みつけ、騎士が現れると真っ先に逃げている。巻き込まれただけなどという主張は通らぬ」
「ロザモンド……」
侯爵が娘を見る。ロザモンド嬢は涙を流しながら、声にならない言い訳を続けていた。
「リシア嬢の心身の傷は深い。頬には傷痕が残る可能性があり、手を踏まれ、足をひねり、頭も打っている。直接頬を打ったのがアンヌ嬢であろうと、そなたの娘が騒ぎを起こし、危害を加えた事実は変わらない」
私は侯爵を正面から見据えた。
「そなたは、娘が王宮で何をしているのか、一度でも確かめたことがあるのか?」
返事はなかった。その沈黙だけで十分だった。
娘を王宮へ入れ、あとは顧みなかったのだろう。結婚相手を探すことも、将来をともに考えることもなく、ただ家から遠ざけていた。
ロザモンド嬢の罪は、あくまで本人のものだ。だが、これまでの問題行動を把握しようとも、正そうともしなかった家族が無関係だとはいえない。
「魔術師団のマントをまとった者への攻撃は、魔術師団への敵対行為とみなされる。団員たちが報復を求めても、そなたたちは文句を言えない立場にある。理解しているな?」
「はい……」
「処分を言い渡す。ミルバーグ侯爵家は爵位を下げ、子爵家とする。領地の半分を国へ返還せよ」
家族の間から、小さな悲鳴が漏れた。
「そなたとロザモンド嬢には、孤児院の手伝いや街路の清掃など、継続的な奉仕活動を命じる。管理はキンバレー家に任せる。指示に従い、真摯に取り組みなさい」
「私も、でございますか?」
侯爵は呆然とした顔で尋ねた。
「当然だ。娘の罪を肩代わりせよと言っているのではない。父親として、これまで娘を放置してきた自分の責任に向き合えと言っている」
侯爵はしばらく言葉を失っていたが、やがて深く頭を下げた。
「謹んで、お受けいたします」
家族もそれに続いた。
顔を上げた直後、ロザモンド嬢の姉が彼女へ歩み寄り、頬を打った。鋭い音が部屋に響く。
「どうして、このようなことをしたの! 引き取ってやったのに! なんの不満があるの? この疫病神!」
姉は泣いていた。ロザモンド嬢も何かを訴えようとしたが、声にはならない。
私は姉の行為を止めなかったことを、すぐに悔いた。暴力の罪を裁く場で、別の暴力を黙認するべきではない。
「それ以上はいけない」
私が告げると、姉は我に返ったように手を下ろした。
兄がロザモンド嬢の腕を支える。
「帰ろう。お前の話は屋敷で聞く」
「お引き取りください」
ミルバーグ家の者たちはもう一度頭を下げ、部屋を出ていった。




