14 魔術師団へ アレクサンダー目線
14 魔術師団へ アレクサンダー目線
「すぐに来てくれたらよかったのに」
「うん……でも、十年もたっているでしょう?」
エリシアは俺の髪を撫でながら、途切れ途切れに話した。
「見た目も変わってしまったし、魔力もなくなっていたの。もう別人みたいでしょう? それに、アレクもわたしのことを忘れているかもしれないって……」
「忘れるわけがない」
「でも、怖かったの。もし、わからないと言われたらどうしようって。庭でアレクを見たら……小さかったアレクじゃないし……いろいろな思いが一度に湧いてきて、目の前が暗くなって――」
「ひどいよ」
それ以上は言わせなかった。
俺は膝にすがったまま、エリシアを見上げた。
「僕がエリシアのことを忘れると思ったなんて、ひどいよ」
「ごめんなさい」
「僕は庭でエリシアを見たとき、すぐにわかった。姿が変わっていても、声を聞いたら間違えるはずがなかった」
「アレク……」
「でも、エリシアは正体を隠したそうだったから、僕は我慢したんだ。すぐに抱きしめたかったのに、何も言わずに見送ったんだよ」
「ごめんなさい、アレク。そうよね」
エリシアは涙を浮かべながら笑った。
「わたしだって、アレクがどんな姿になっても、きっとわかるもの。アレク、ごめんね。それから……覚えていてくれて、ありがとう」
しばらくの間、俺は彼女の膝にすがったままでいた。
エリシアの手が何度も俺の髪を撫でる。その懐かしい感触を、手放したくなかった。
やがて俺は立ち上がり、エリシアの隣に腰を下ろした。逃げられないように――ではなく、安心させるために、その手を両手で包む。
「これからは、僕の隣にいてくれるね?」
「アレク……」
「僕の魔術師団に所属してもらう。魔力が戻っていなくても構わない。文官として働いてもらえばいい」
「ですが、わたしはギルバード様の教育係で……」
「ああ、それなら別の者を手配しよう」
「そんな簡単におっしゃらないでください」
「外務部には、教育を受けた令嬢が何人もいる。ギルバードが好きな者を選べばいい。だから、心配はいらない」
「そういう問題では……」
エリシアが困ったように眉を下げた。
けれど俺は、もう話が決まったものとして続けた。
「それでは、制服の採寸をしなくてはならないな。リシアに似合う形に仕立てよう」
「もう決定なの?」
「もちろん」
エリシアが何か言おうとする前に、俺は握っていた手に少し力を込めた。
「それから、もう一つ伝えておくことがある」
「何?」
「リシアは気づいていなかっただろうけど、僕は最初から、あの頃からリシアが好きだった」
エリシアの動きが止まった。
「え……」
「早く大人になって、リシアを口説きたいと思っていた」
「アレク、それは……」
見る見るうちに、エリシアの頬が薔薇色に染まっていく。
その頬に片手を添え、俺はゆっくりと顔を近づけた。
エリシアがわずかに身じろぎする。
けれど、本気で逃げようとはしなかった。
俺は唇のすぐ右側に一度、左側にもう一度、触れるだけの口づけを落とした。
驚いたように瞬きをするエリシアの髪を、優しく撫でる。
「リシア、愛している」
「……アレク」
「返事は急がなくていい。十年ぶりに会ったばかりだからな。ただ、俺の気持ちは伝えておきたかった」
俺は彼女の紫色の瞳をまっすぐ見つめた。
「リシアの負担になるようなことはしない」
――そのつもりだ。
エリシアの仕事も住む場所も俺のそばへ移し、二度と逃げられないようにしてから口にする言葉としては、少し説得力に欠けるかもしれない。
だが、彼女を傷つけるつもりがないことだけは本当だ。
「さあ、採寸に行こう」
「今から?」
「今からだ。善は急げというだろう?」
「まだ魔術師団に入るとは言っていないわ」
「大丈夫。歩きながら説得する」
「それは説得とは言わないと思うのだけれど……」
エリシアの手を取り、二人で部屋を出る。
すると廊下には、オークリーが待ち構えていた。
「アレクサンダー殿下」
「何だ?」
「ギルバード殿下が、リシア殿をお待ちです」
その後ろから、幼い声が響いた。
「リシア! 勉強の続きがまだです!」
顔を輝かせるエリシアの手を、俺はとっさに強く握った。
「アレク?」
「……採寸が先だ」
「でも、ギルバード様が」
「採寸が先だ」
十年待った俺より、ギルバードの勉強を優先されてたまるものか。
今後の最大の障害は、もしかすると王宮の陰謀でも彼女の実家でもなく、あのちびかもしれない。
俺はそんなことを考えながら、エリシアの手を引いて足早に廊下を進んだ。




