↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
13/32

13 強引だけどこれでいい アレクサンダー目線

 13 強引だけどこれでいい アレクサンダー目線


 見習いの資料を読みこんだ俺はすぐに行動した。


 まず会ったのは、ケントという騎士団志望の青年だ。


 聞けば、エリシアを助け、教会まで連れていってくれたのは彼らしい。

 勝手にエリシアの誕生日を決めるとは、なかなか不届きなやつだ。


 そう思ったものの、よくよく考えれば、俺もエリシアの誕生日を知らない。


 プレゼントを贈りたくて何度も尋ねたのに、彼女はそのたびに笑ってはぐらかした。


『誕生日でなくても、贈り物はできますよ』


 そう言っていたが、俺は誕生日という特別な日に贈りたかったのだ。


 もっとも、これからは誕生日など関係なく、いつでも好きなだけ贈ればいい。


 だからケントの件は、まあ見逃してやろう。


 領主の息子については現在調査中だ。もしエリシアに何かしたとわかれば、そのときは相応の責任を取ってもらう。


 そして、もう一つ確認しなければならないものがあった。


 教会に保管しているという、ドレスだ。


 クリーム色の生地に、紫の小花が散った可愛らしいドレス。


 あの日、エリシアが着ていたものに間違いない。紫色の瞳と、額にひと房だけある紫色の髪をよく引き立てていた。


 庭で再会したときから、彼女がエリシアだと確信していた。


 声も、話し方も、俺を見る目も同じだった。


 それでも、動かぬ証拠が見つかったことに安堵した。


 あとで教会までドレスを取りに行き、神父とも話をしよう。エリシアを守ってくれた礼も言わなければならない。


 エリシアがいなくなったのは、彼女が18歳、俺が11歳の時だった。


 必死になって彼女のことを調べた。なにか手掛かりがないかと……


 そこで初めて、彼女が実家でどのように暮らしていたのかを知った。


 伯爵家の長女として生まれながら、三歳で実母を亡くし、後妻としてやってきた義母に冷遇された。


 学院を飛び級で卒業し、王宮の文官として働き始めたのも、家から離れたかったからかもしれない。


 その後、魔力を持っていることがわかり、魔術師団で訓練を受けるようになった。そして俺の学友になった。


 まあ、それについては、俺が強く希望したからだが。


 エリシアは頭がよかった。


 一度教えればすぐに覚え、難しい術式も軽々と理解した。その中には、万一の事態に備えて学んだ転移魔術もあった。


 使える者がほとんどいない、希少な魔術だ。


 だが、その転移魔術を使った結果、エリシアはどこかへ消えてしまった。


 十年間、行方はまったくわからなかった。


 それが今、俺のところへ戻ってきた。


 いや、正確には、俺のそばまで戻ってきたくせに、俺のところへは来なかった。


 その理由を、きちんと問いたださなければならない。


 もちろん、怖がらせないように優しく。


 だが、今度こそ決して逃がさずに。


 気がはやった俺は、使いを出すことさえ待てず、自らエリシアを迎えに行った。


 彼女はギルバードと遊んで――いや、勉強をしているところだった。


「リシア、話がある」


「アレク……殿下」


 俺の姿を見たエリシアは目を見開いた。


 彼女が立ち上がると、ギルバードも当然のようについてこようとした。


「僕も行きます」


「殿下は、これから別のお勉強がございます」


「リシアがいないと嫌です」


「お気持ちはわかりますが、どうかこちらへ」


 オークリーが必死になってギルバードを引き止めている。


 エリシアは何度も後ろを振り返り、今にも泣きそうな顔をしていた。


「ギルバード様……」


「リシア!」


 その様子を見ていると、胸の中が面白くない感情で満たされた。


 十年ぶりに再会した俺よりも、ギルバードと離れるほうが悲しいのか。


 いや、落ち着け。


 ギルバードは子どもだ。しかも、エリシアは教育係として世話をしていただけだ。


 そう自分に言い聞かせながら、俺は彼女を部屋へ案内した。


「どうぞ、座って」


「はい」


 エリシアがソファに腰を下ろすと、侍女がお茶を運んできた。


 まずは当たり障りのない会話をしようと思っていた。


 体調はどうか。王宮で不自由はないか。ギルバードの教育係の仕事には慣れたか。


 そうした話をしながら、少しずつ十年間のことを聞くつもりだった。


 だが、侍女が部屋から出て扉が閉まった途端、我慢できなくなった。


「エリシア」


「はい?」


 俺は立ち上がると、エリシアの両肩をつかんでソファへ押し倒した。


「ア、アレク!?」


「どうして、すぐに僕のところへ来なかったの?」


 エリシアが目を見開く。


「僕って、そんなに頼りない?」


「ちょっと待ってください。殿下、これはいったい――」


 逃れようと身をよじるが、力で俺にかなうはずがない。


 もちろん、怪我をさせるつもりはなかった。腕に痣が残らないよう加減しながら、それでも逃げられない程度にはしっかり押さえる。


「僕って頼りない?」


「いえ、そのようなことは……」


「それなら、どうしてそんな呼び方をするの?」


「呼び方?」


「殿下なんて呼ばないで。昔みたいにアレクと呼んでよ」


「ですが、今は――」


「エリシア。ああ、今はリシアだったね」


 俺は彼女の顔をのぞき込んだ。


「どうして、すぐに僕のところへ来なかったの? 僕が頼りないから?」


「違います」


「だったら、どうして?」


 エリシアの唇がかすかに震えた。


 言いたいことがあるのに、うまく言葉にできないらしい。


 そんな彼女を見つめながら、俺は静かに息を吸った。


「リシア。僕はずっと……」


 そこでわざと言葉を止める。


 エリシアの紫色の瞳が揺れた。


「待っていたのに……」


「アレク……その……」


 俺は身体を起こし、彼女も抱き起こして座らせた。


 そしてエリシアの前に膝をつき、その膝にすがるようにして彼女を見上げる。


「リシア、会いたかった」


「アレク……」


「僕、リシアがいなくても頑張ったんだよ。魔術も学んだし、魔術師団も率いている。討伐にも行けるようになった。リシアが戻ってきたとき、頼りない子どものままだと思われないように、ずっと頑張ってきたんだ」


 エリシアの顔がくしゃりとゆがんだ。


「それなのに、リシアは戻ってきても僕に会いに来てくれなかった」


「ごめんね、アレク」


 とうとうエリシアは身をかがめ、俺の頭を抱くようにして抱きしめてくれた。


「ひとりにして、ごめんね」


 懐かしい声が耳元で囁く。


 その声を聞いた瞬間、胸の奥に積もっていた十年分の寂しさが、ようやく溶け始めた気がした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。