OJT1日目(2)
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「3層は・・・・・・今日はいいわ。特に見るものもないし陰気になるだけだから」
「はぁ」
次、3層、はベリルの判断により飛ばされた。
3層は管理員のリッチーがいる。しかし現在ぎっくり腰により離脱中だった。なのだが、特に問題は起きていない。
この層は冒険者が入ってこない限り何も起こらないからだ。
スケルトンやゴーストも食べ物は必要ないし、グールもその気になれば数十年単位で食事をしなくても活動できる。
じゃあなぜリッチーが必要なのか? それはモンスターの統率を取るためだ。基本知能がなく自由に動くアンデッドに命令するため。
エレベーターに乗ってその下4層。
4層。妖精や人型モンスター中心の層。
壁にはなめらかな地層が特徴の今にも崩れそうな地下だ。実際にはコンクリートより硬く厚い壁でできているのでそんな心配はいらないのだが。
階層を守るはタイタンで、ここにきて初めて冒険者たちはボスと大部屋で対決することになる。
「ドウモー」
ここの人型モンスターたちは派遣でカタコトではあるが言葉を介する。
もちろんこの文章は人間の方にも読みやすいよう翻訳されているので、実際の言葉は下級モンスター語である。
「ここでは大声をあげないこと」
ベリルは注意したのち、ボス部屋の裏のドアを開いた。
その待機室でタイゾウは昼食のカップ麺3つをちゃんぽんして食べていた。ずるずる。
「こんにちは!」
「―はぁ。それ、その先でやったら大変なことになるからね」
キララのあげた挨拶の声をたしなめるベリル。
前にやったようにボス部屋でモンスターが大声を上げると病院に飛ばされるのだ。
その区画まで扉一枚を隔てただけだ。もし、タイゾウが内装チェックでもしていて、そこに挨拶したらしばらく無駄な時間ができていただろう。
「こんにちはっす。キララさん」
「あ、もう名前覚えてもらってるんですね」
「彼らには事前に連絡してあったのよ。ハイオークは記憶から飛んでいたようだけど」
タイゾウのいる休憩室をあとにして、こちらも昼食。
魔界側にある食堂へ。
ベリルの大好きな日本食をふんだんに提供してくれる食堂だ。
「あ、わたしお水持ってきます!」
とっとことキララはウォーターサーバーへと向かっていった。
とんでもない数のメニューが搭載されている食券機をタッチしてベリルはお気に入りのコロッケ蕎麦を注文した。支払いは端末をかざせばそれでオッケー。社員は給料から天引きされる。
「キララ、何にするの? 私の端末で買うから」
「あ、いいですよ、僕が払います。上司ですから。遠慮しなくていいですからね」
ということで僕の端末でキララの昼食も買った。
キララは魔界海鮮丼というもの、僕はレインボー定食にした。
和気あいあいとした昼食。ちょうど30分ごろから楽団の生演奏が始まる。
ベリルの提案で日替わりで様々な楽団が演奏に来る。プロではなく、アマチュアの練習ように無料で場所を貸している形だ。
今日は魔界ロックの日だったようで、知っている曲ばかりが流れる、若いキララは乗りに乗って拍手喝采していた。
休憩を終えて次の階層紹介。
5層は魔導機械地帯で、機械人形のコマンダーワンの電源さえいれればあとは連鎖的に全自動で活動し、壊れても各々で自動修理されるため、基本的に魔員を割く必要はない。
この地帯にパーティが滞留している隙にベリルたち管理の魔員は休みを取ったり、さらに下層を準備するのだ。
「このスイッチを押せば、これが動いて次々と機械が起動します」
「あとはそれが連鎖してすべての機械が動き出して、終了するときはこのボタン」
「自動で全部元の場所に戻り、電源がオフになります」
「初期費用がちょっとかかるけど、手がかからなくていいわよ。ちょうど中間層あたりに置いておくと楽できるわ」
「―勉強になります!」
現在、色々な魔員がいるのは6層まで。
7層のドラゴン地帯などは殆どがバイトか派遣で構成されているため、必要なタイミングで募集をかけるのだ。
そうでもしないと高給取りであるドラゴンを常時待機させておけるほど金に余裕がないのだった。
現在の冒険者たちはまだ5層にも到達していないので、7層以降の警備員及び管理員らは休暇に入っている。
「6層は雪原です。そこの小窓から見えますが、ダンジョン内は雪で覆われています」
「寒そうですね」
「もちろんすごく寒いです。監視室でどのくらいの雪の量に調節するか決められるので、作業をする場合は小降りにします」
「・・・・・・そろそろ何か作業をしてみたいです!」
「じゃあ―」
「もし冒険者たちの居る状態で作業をする場合、魔力探知されると面倒なので、原始的ですが防寒具を着こんで作業します」
ということで、休憩室からコートなどの防寒具と鍵付きロッカーからお宝を引っ張り出し、雪原へ。
「じゃあ、お宝を隠しましょうか」
「はい!」
「どこがいいと思う?」
「この雪の中ですから―何か目印があるところでしょうか?」
「正解。じゃあこっちの洞窟に隠しましょ」
ちょうどよく、洞窟に冒険者の凍死体があったのでそこにお宝を置くことになった。
「指輪でいいんじゃないかな? 指につけてあげて」
「はい」
キララは死体の指におおぶりのルビーの指輪をはめる。
「オッケー。帰りましょうか」
「はい! ありがとうございました!」
ベリルやサブマスターの基本的な休みは盆と正月。
それも決まった日付に休めるのではなく、冒険者たちの攻略具合で決まる。
タイゾウら魔員たちはここで働く際、業務のさいにやむをえない場合この限りではない、という文言の大量に入った契約書にサインをしているため、ベリルの裁量で週の休みは決まるのだった。なので多くの魔員の正月休みが2月や3月にずれ込んだりすることもよくある。
ちなみに他社の場合、大量に魔員を確保してローテで休んだり、長期の場合は階層模様替えなどで冒険者たちを足止めしてその間に休暇に入るという場合が多い。
午後3時からはデスクワークの時間だった。
今日の日報や、施設の改善点などを記入していく。
キララは新卒らしく完璧なタイピング。ただ、不慣れな堅苦しい言葉遣いに苦戦。
一方、ベリルはそれなりにバックスペースを叩くことがある。
それでも二人はPCスキルの資格持ち。十分な速度で仕事をこなすのだった。
「今日はお疲れ様でした。ゆっくり休んで明日に備えてね」
「はい! ありがとうございました! では、失礼します!」
仕事終わりの時間になり、ベリルとキララは着替えて正門前に。
キララもベリルも11階層にある社員寮に住んでいる。
もちろんキララは今日、明日だけの使用だが、ベリルはかなり長いことここに住んでいる。
魔界ゲートを通れば繁華街は目と鼻の先にあるし、魔界宅急便もある。特段不便ではないのだ。




