大事な判断は迅速に
2層の監視室。ベリルはタイゾウと通話していた。
そろそろ4層のタイゾウと戦闘なのだ。
「タイゾウ、今回の勇者とは戦えそうだよ」
『おお、やっと歯ごたえのありそうな敵と戦えるんですね!』
これまでも4層までたどり着いた冒険者はタイゾウと戦っていたのだが、腐っても魔界闘技で戦う実力のあるタイゾウがポンポン負けるはずもなく、一通り壊滅させていた。
タイゾウは自分の手足を使った物理攻撃が主体だが―自分を強化するタイプの魔法に、詠唱のいらない簡単な魔法を扱える。
まず、ヤシの実を素手で潰す怪力でデコピン程度でも人間の頭を吹き飛ばす。
3mを超す体躯から繰り出される強化パンチは、2トントラックに衝突したときと同じくらいだ。
200キロを軽々超える体重から繰り出されるショルダータックルともなれば、風圧でひ弱な魔法使いが気を失うほど。
そしてタイタンは正々堂々を重んじる種族。可能であれば冒険者に一対一の勝負を申し込むこともあるくらいだ。
しかし、普段はジャンクフードを愛する礼儀正しい青年である。
「オレサマニカテルカナ!」
タイゾウはカタコトの人間言葉で勇者を挑発する。
見ている皆様は我々、魔物側は基本的にモンスター語を使っていることをお忘れなきよう。
僕が翻訳、編集してみなさんに伝えているので。
ちなみに大学出身のベリルは地球の大体の言語が話せる、書ける、そしてこの世界の言葉も完璧にわかるのだ。
「マズい!!」
タイゾウの頭にハンマーがいい角度で入ってしまった。
どれだけタイタンが頑丈でも、脳震盪は発生する。
脳を揺さぶられたタイゾウは意識が朦朧としているようだ。
「叫べタイゾウ!!」
大声をあげればその時点で転移が発動し、病院に飛ばされるのだが。
タイゾウの目はまだ戦おうとしているようだった。
振りかぶられるハンマー。
「くそう!!」
ベリルは目にもとまらぬ速さで端末を操作し、4層ボス部屋の強制転移を発動した。
「・・・・・・」
タイゾウがキラキラに包まれ、消えた。
うなだれるベリル。
僕がかける言葉はない。これはダンジョンマスターである彼女の判断だ。
「ベリルさん―すまねえっす」
「いや。私も悪かった、タオルなんか投げて」
「めちゃくちゃ迷ったっす。負けたくないし、仕送りもしなきゃなんないと思ったら、仕事を全うしなきゃって」
「いいよ。勇者相手ならすぐ逃げて。給料は変わんないからね。アンタの代わりはいないんだ」
魔界病院の一室に入院着を着たタイゾウとスーツのベリルの姿はあった。
ベッドに入っているタイゾウの太い腕には点滴が刺さっている。
ベリルのやったことは始末書ものだが、判断としては命を守る良い判断だった。
僕はこの件に関してベリルを責めることはしないし、映像を見た上もちょっとした小言で済ませるだろう。
6層に到達した勇者たちは既に撤退していた。
「死ぬのは怖かったかい?」
「いいや、全然怖くないっす。いずれ死ぬなら、戦って死ぬっす」
「さすがタイタン。私は死ぬのが怖い。仲間が死ぬのが怖い。本当はゴブリンも殺されてほしくはない。私は人間にだって特別恨みはない」
「・・・・・・ベリルさん」
「それでも私は、この仕事を自分で選んでダンジョンマスターをしているのよ。私があなたたちをできるだけ殺させない」
ベリルがドヤ顔でこちらを向いた。
「どう? いいの撮れた?」
「台無しっす」
向いたベリルの顔は赤かった。




