愚痴
面白かったら評価をお願いします!
「あ~、ついでに5層の明かりも使わないとこ消しといてくれる? うんうん。たぶんしばらく大丈夫だから、はーい、またおねがいしまーす」
午後7時。
もう業務は終わり、居酒屋で飲んでいるのにベリルへの仕事の魔力通話は止まらない。
「なんだったんです?」
「あ~と3層の燭台の火、もったいないんで消しときますか? ってサブから」
「あれやっとくと、なんか知的なモンスターが火を着けて回ってるんじゃあないかとか思うんだってよ」
「1000時間持つ蝋燭高いんだぞ! さっと抜けるか戻るかしてくれないと勿体ないんだって!」
「暗いほうが雰囲気でるとか、でも魔法力が勿体ないからライト使いたくないとかで賛否両論あるんマジでおかしいだろ!」
酔ったベリルの口から愚痴があふれ出す。
金曜日の居酒屋でのベリルはいつもこんな感じだ。
それを広報担当で365日の密着取材を担当している僕は5週間でよく知っている。
ベリルの評価は人間界の酒場などでの評判と、死んだ冒険者の魂の満足度で決まる。
転生前の冒険者の魂にアンケートするのだ。あのダンジョンはどうでしたか? って。
ベリルが赴任して今のダンジョンの評価は少しずつ上がってきている。開業当初の1キロ四方とは周りの栄え方も大きく変わり、物好きがたまに進入してくるというところから早20年。
現在は規模も30キロの広さに拡張し、毎日攻略パーティが絶えない人気ダンジョンとなっていた。
翌日のこと。密着取材43日目。
ベリルは昨日と同じような業務を朝6時からこなし、8時より15分前に11層の正門前でタイゾウを待った。
「この部屋にいればある程度の大声をあげれば転移の魔法が発動します。危険だなと思った際に叫んでください」
「押忍―」
「・・・・・・ああ、やっぱりこうなるよね」
翌日朝8時20分、新米研修だ。
タイゾウの姿がキラキラとともに掻き消えていた。
この部屋をタイタンに説明するとこうなるのは毎度のこと。
「と、そうなるので気を付けてください」
「―わかりましたっす」
魔界の病院まで飛ばされたタイゾウが20分かけて戻ってきた。
その顔は汗にまみれ、全速力で下から走ってきたのは明らかだった。
「あちゃあ、7層の財宝の返却期限明後日!? みんな総出で間に合うか?」
7層はドラゴンの住処ということになっていて、ここでドラゴンの集めたという設定の宝石などを採って冒険者は持ち帰ることができるのだが、見せる用の壁に埋めこまれている分の返却期限がきていたのだ。
通常は怪力モンスターくらいの力が無いと掘り出すことができないため、冒険者程度の力では到底取り出せないのだが、このように餌を見せておかないと大体の人間は長いことダンジョンに潜った精神的肉体的疲労により帰ろうとするためである。
そしてこれが結構評価が高く、
『あともうちょっとで大金持ちになれたのに』
とか、
『あそこでドラゴンと戦って負けたなら冒険者として本望』
とか、
『宝石をとって撤退して大金持ちになれた。行ってよかった』
などなど。おおむね5段階評価で4点以上がついている高評価階層だった。
タイゾウら今ちょうど暇な者たちをかき集めて、午前中に梱包し、集荷依頼をした。
午後には魔界からトラックが来て回収されるだろう。
「ここにサインお願いしまーす」
「はい。ご苦労様です!」
昼食と休憩を挟んで午後14時。
デスクで上層部へのプレゼン資料を作っていたベリルへ、魔界宅急便で80サイズの宅急便が届いた。
1層に放流する用のゴブリンが木箱に入ってダースで届いたのである。
下級モンスターであるゴブリンはガチャガチャで使われるような小さなカプセルケースに収納され、魔法で開くことで元のものに復元される。
「確認おねが~い」
「はーい」
ベリルは届いたゴブリンのカプセルをエレベーターを使い、1層の下級モンスター管理官のリィラに渡す。
「・・・・・・全部オス。問題ないと思います」
「じゃあ140体になるように適宜補充おねがいしまーす」
「了解しました~」
ダンジョンマスターという名は大層な肩書だが、実際の業務は実権をもつ御用聞きのようなものだ。
「今日のお仕事もおしまいっ」
パソコンをシャットダウンして軽く伸びをするベリル。
時刻は17時40分。
流石に更衣室へは入れないので、僕は外で待ちます。
「よい夜を~」
「また明日~」
ゆるゆるジャージに着替えたベリルは魔界ゲートの先へと手を振って去っていった。束の間の休息。体も心も大事にしてほしい。
僕も会社に帰って編集作業をしなければ。




