ダンジョンマスター(仮) キララの2日目
翌朝、僕は少し早く餌を持って黒狼のところへ行った。
だいたいの作業が終わったころ、
「ごめんなさい!! 本当にごめんなさい!! 遅刻してしまって!!」
「ああ。全然かまわないよ。飲みすぎて遅刻なんてよくあるからね。新米のときにやっときなよ。どうせ今なら僕の責任になるから」
「・・・・・・怒らないんですか?」
「別にいいよ。新米は失敗して覚えるんだから。もし今日飲みに行ってもちゃんとセーブできるでしょ?」
「もちろんです! 昨日みたいに記憶が無くなるまで飲んだりしません! たとえガノンさんの奢りでも!」
「よろしい。じゃあ仕事をしようか」
キララにはこういったが、彼女の酔いは僕の魔法で少し重くなっていた。
多少調子よく飲んでいたのはそうだが、僕のせいで遅刻したようなものなので彼女の責任はそもそも一切ないのだ。
「ところでキララさん。最近外の会社の人とかと会ったりした?」
「えっと、ちょっと前にどこだったかの理事長に挨拶してこいっていうのがありましたけど」
「ふぅん。いつ頃のことだったか覚えてない?」
「2週間くらい前だったと思います」
「誰か一緒に居た人はいるかい?」
「いえ、私ひとりでした。なんかいやらしい目で見られて、でも何もされませんでした」
「ありがとう。社外でも目上の人にはきちんとしてね。それと、もし会社内外で変なことされたら僕とかベリルとかに言ってね」
「その・・・・・・ガノンさんが話しやすくて、私、もしかして馴れ馴れしすぎていませんか?」
「ううん。別に僕とならそれでいいよ。たぶん普段のキララさんはちゃんとしてると思うし」
ちょうどベリルの休暇を申請した直後のことだ。僕は彼女が挨拶に行ったというその前日にキララの予定を一通り確認し、彼女を呼ぶことにしていた。
つまり怪しいのはそのあたり。どこかでキララがダンジョンに入るという情報を得たやつがいる。しかし、知っているのはかなり多い魔数だ。
確実に怪しいのはキララを盗撮した、もしくはそれを依頼したであろう理事長とやらだが・・・・・・
身内を疑う必要もありそうだ。その辺はあとで専門部署に依頼することにしよう。
やったものには相応の対価を支払ってもらう。
3層。触手プールの周りをデッキブラシで清掃。
ひとまず下見のつもりだったのだが、
「きゃああ!!」
ばっしゃーん。
キララは触手入りプールに足を滑らせて入ってしまった。
滑りやすいビジネスシューズの弊害だった。
こうなるからベリルは普段、比較的ラフな格好をしているのだった。
「大丈、夫?」
「うう、すみません・・・・・・」
僕はキララに手を貸してプールから引っ張り上げる。
できるだけ服から水を絞っているキララ。
「着替えに戻ろうか」
濡れてぴちぴちになったスーツ姿のキララをできるだけ直視しないようにして。
ちなみにここで魔法が使えないのは人間のみなので、ベリルとかは使うことができる。
しかし、冒険者たちに怪しまれないように管理者たちの安易な魔法の使用はご法度だ。
魔法はできるだけ緊急時のみ。
「キララさん、もしかして運動苦手?」
エレベーターの中で後ろのキララに聞いてみる。
「そうですね。いつも下から2番目とか3番目とかでした」
「そうかぁ。でも心配しなくても体を使う掃除とかは業者に頼めばいいからね。ここではベリルが好きでやってるだけで」
「・・・・・・私、本当にダンジョンマスターできるんでしょうか?」
「どうだろうね。初めは色々苦労すると思うけど、1年、5年、10年やってみてうまくいかなかったら考えてみようよ」
「一応、キララさんは魔員の上に立てるという判断がなされて来年ダンジョンマスターになるんだからさ」
「他の魔員を動かせる力はありそうだって。キララさんの明るさはとても魅力的だよ?」
「でも、ダンジョンに明るいことなんて必要なんですか?」
「それはもちろん必要さ。ダンジョンは死と絶望があふれている場所っていう訳じゃないからね」
「それがしたかったら人間界と全面戦争でもすればいいんだ」
「別に楽しく遊べるダンジョンがあったっていいんだよ。このベースメントピットや他のダンジョンを真似する必要はないし。むしろオリジナルを作って欲しい」
「人間たちと僕たちが一緒に楽しめる場所でもいいんじゃないかな?」
「どうだろう? 少しは励ませたかな?」
「まだ不安はありますけど、精いっぱいやることをガノンさんには約束します!」
「よぅし、いくらでも相談には乗るからね!」
チーン。エレベーターが11層に着いた。
キララを先におろし、宿舎で着替えてくるように言う。
僕は先にパソコンルームで作業の準備だ。
ジャージに着替えてきたキララと3層のプールを清掃したりして、午後はパソコンをいじり、夜はこの日も2人で少し飲んで翌日を迎えた。
3日目。今日は朝から清掃業者『糞食いスリー』が入る日だ。
午前8時半。エビ頭の3人の小男に僕たちは正門で挨拶して、彼らに腕輪を貸す。
そして2層の監視室から彼らの作業動向を見る。
事前にポーロ達監視のハイオークが地図にアレの印をつけて、それをエビ頭に渡している。
「うう、お昼が食べられなくなりそうです・・・・・・」
キララは責任者として、彼らの仕事が安全に終わるのを見届けなくてはならない。
監視カメラに映る、男たちがダンジョン内に放置されたアレを食べるのをだ。
そしてどうやら女性のアレを見つけたらしく、誰が食べるかじゃんけんで決めていた。
「これ、なんでじゃんけんしているんですかね?」
「・・・・・・キララさんはまだ知らなくていいことだよ」
「??」
僕はこのやりとりを見てニヤニヤしているポーロの頭をチョップで殴りつけ、小声で余計なことを言わないように釘をさした。
ちゃんとキララには見られていないタイミングで。




