取り残されたら
『ベリル様、通話失礼します』
「うん。何か起きたの?」
『それが・・・・・・2層の動物管理をしているブリッツが交代の時間になっても戻っていないようで』
「もしかして―表に出たままか?」
『その可能性が高いかと』
午後5時、仕事を終えるギリギリ前に、2層監視室、ハイオークのポーロから通話があった。
どうやら動物の管理をしているブリッツがダンジョン側に行って戻っていないようだ。
「ひとまず監視カメラで探してみてくれる? あと今ダンジョン攻略している冒険者は何層にいる?」
『・・・・・・冒険者どもは1層に3パーティ、2層に2パーティ、3層に2パーティだそうです』
「オーケー、サウザンアイを起こして。それでとりあえず2層の冒険者を見張ってもらって。私も今向かってる」
『了解しました』
パソコンをスリープにしてから、ベリルは机の引き出しから転移の札2枚出して、それを持って昇りエレベーターに乗り込んだ。
チーン。
2層に着いた。通路を進み、監視室に到着した。
モニターの前で機器をいじるハイオークの横に、60㎝くらいの蛸のようなものが浮いていた。
その蛸のような触手の生えた生き物がサウザンアイだ。彼? は目がいっぱいついていて48分割されている画面でもそのすべての状況を把握している。
言葉こそ喋れないものの、こちらからの命令はキチンと理解していて、異変があればちょいちょいと触手で指してくれる。
「んで、本当に中にいるのかしら? 長いトイレとかではなく?」
「いや、小一時間かけて一通り探させました。なので残るはダンジョンの内側だけです」
「うーん。魔法や機械が苦手なのも困ったものねぇ」
ブリッツは魔法嫌いに機械音痴だった。通信機器を持って外に出ない程度に。
個人用の端末が普及している中、彼だけ業務日誌が手書きで提出されているくらいだ。
ちなみにブリッツはケンタウロスという種族で、上半身は人間、下半身は馬という見た目だから人間どもに見つかれば戦闘になりかねない。
ちょんちょんとベリルの腕をサウザンアイが触る。
「いた?」
サウザンアイは分割された画面の一カ所を指した。
そこにはケンタウロスのお尻と思われるものがアップで映っていた。
「・・・・・・まあこれかしらね」
「私が行って連れて帰ってくるよ」
カーソルを合わせ、ポチっとボタンを押して3カウント待ち窓に入るベリル。
番号は16番。
通用路があるとはいえ30キロという広大なダンジョン内を駆け回るのは大変だ。
そのため、どの階層にも窓と呼ばれるワープホールがアリの巣のように張り巡らされた通用路の1キロごとに設置されている。
横の目盛りを1~30に振り分けられた地点に合わせればその場所に出ることができる。
そして窓といっても、大きさは4m×4mほどの大きさなので人型であれば大概の魔員は使える。
ただ1つ問題点があって、複数地点から同時に使うことができないという問題がある。
ワープするには目盛りを行きたい場所に合わせてボタンを押して、窓を開き、3カウント後に緑のランプが灯ってから入る。出入りする者が複数いると混線して事故が起こる場合があるのでそのためのカウントだ。
『ベリルさま、ブリッツの近くに冒険者が迫っています。急いでください』
インカムにそう通信が入ったので早足で向かうベリル。
「いた! ブリ―」
声を掛けようとした瞬間、ベリルは魔法で姿を隠す。
冒険者共がやってきたのだ。
歩いてきた冒険者はブリッツを発見、勝手に敵対して、ブリッツに攻撃を始める。
武器もないので防戦一方のブリッツ。
『死ね化け物!』
女冒険者の放った弓矢がブリッツの胸の中央に深々と刺さる。
倒れるブリッツ。
男の冒険者が倒れた頭を蹴りつけて、冒険者たちは去っていった。
「大丈夫!?」
「あ、ベリルさん・・・・・・」
「今病院に運ぶから!」
ベリルは転移の札にサラサラとペンで番地を書き込み、自分とブリッツに貼り付けて魔力を込めた。
僕もベリルの手を握って、一緒に転移する。
一瞬視界が暗転し、病院の前に着いた。
ロビーに駆け込むベリル。
「急患! 急患! 目の前に運んできたから早く助けて!」
その言葉に紫色の体躯をしたオーガーの救急隊員たちが一斉に外に出て、ブリッツは担架で運ばれていった。
「ふぅ。これでよし」
「ブリッツさんがケンタウロスで助かりました」
「彼の心臓は馬の胴体部分。人間のほうの体には心臓がありません。人間どもが馬鹿で助かりましたね」
ブリッツの治療を担当した魔人の男先生はそう言った。
ブリッツに代わり、ベリルが入院の書類を書いて提出するところだった。
「いつもありがと先生」
「いえいえ。たまに執刀しないと鈍るので」
「じゃあ、私は仕事に戻るので、あとはよろしくお願いします」
「はい。お仕事頑張ってくださいベリル」




